クリエイターインタビューで生まれたアイデアを実現するプロジェクトの第12弾「六本木MIX」。コピーライターの小西利行さんが編み出したアイデア発想法について紹介した前編に続き、プロジェクトレポート後編では、実際に生まれた数々の「六本木をもっと楽しくする」アイデアをご紹介。いずれも独創的で、街の課題を解決することにもつながっています。その内容とは?
「壁にたくさんのふせんが貼られましたが、これは宝の山なんです。1時間くらいのワークショップでアイデアを出してもらいましたが、さらにいろいろと組み合わせていくと、もっとすごいことになっていきます。今回は初対面の人同士で集まりましたが、みなさんそれぞれコミュニティをもっていますよね。職場や家族もそうだし、マンションの管理組合や、子どもの学校関係のつながりもあるでしょう。それらのコミュニティでアイデアが必要になったとき、ただ話し合いをするだけでは必ず紛糾するんです。避けるためには、ルールやフォーマットが必要で、『六本木MIX』はそういう場でこそ役立つ。どんどん広がっていけばいいなと思っています」
小西さんが経営する「スナックだるま」に集まったのは、六本木への関わり方がさまざまな16名。小西さん司会のもと、4つのチームに別れて「六本木のダメなところ、変えたいこと」「自分ができそうなこと」「六本木らしいこと」を出し合い、それらを組み合わせてアイデアを発案。そこからさらに絞り込み、それぞれのチームごとに発表していきました。以下、小西さんのコメントとともにその内容を紹介します。
まず「言葉のチョイスがいい」と小西さんが挙げたのが「六本木参観日」というアイデア。六本木の夜は怖いというイメージをもたれがちな一方、昼は夜ほど賑わっていないのではないかという課題を解決するために、特別な日を設けて六本木に来ることを促すという内容です。さらに、ゴミを減らすために、ファッションブランドのトートバッグを配布して、カップルにゴミ拾いもしてもらおうという発想も。
「トートバッグにゴミを入れるんだよね? そのバッグを持ち帰れって言われたときの衝撃がすごい(笑)。きっとビニールをトートバッグの中に入れるんですね。すごくいいトートバッグを生み出したらそれ目当ての人も出てくるかもしれないけれど、重要なのはどうやって人を呼ぶのかということ。ほかのチームに『六本木で人生相談』というアイデアがあったけれど、それと組み合わせるといいかもしれません。六本木に住む高齢者のみなさんに出てきてもらって、男性はおばちゃんに、女性はおじさんに悩みを相談できる場を設ける。六本木に若者が訪れる動機になるかもしれないし、高齢者の方も活性化するじゃないですか」
六本木の課題として「ゴミ」に着目した人は多く、「セレブしか入れないボランティア活動グループをつくる」「害虫を駆除しながらハロウィンパレード」など、改善するためのアイデアがいくつも出てきました。そのうち、小西さんの評価が高かったのが「六本木アートかかし」。
「ゴミ収集場に群がるカラス対策として、通りに『かかし』の役割のオブジェをつくろうという案です。これはすぐにできそうだし、ぜひやればいいと思いますね。ただ、必ずしも『かかし』である必要はないかもしれません。たとえば、ゴミにかけるネットの新しい形を考えるということもできそうです」
もうひとつ、課題として挙げた人が多かったのが「交通の便をよくしたい」ということ。24時間運行するバスがあるといいという発想から「夜のハトバスツアーイケメンのいるお店巡り」、タクシー配車サービス「Uber(ウーバー)」を活用した送迎付きの飲み会「六本木タクシーセット」など、多彩なアイデアが発表されました。
「『Uber』を使ったアイデアは面白いですね。これを実現させるには、そのまま『Uber』に話をすればいいと思います。タクシーのアイデアはいくつか出ましたが、よりシンプルでいいなと思ったのは、六本木から近隣駅までなら低価格で乗れるという『ワンコインタクシー』。これは実現したらすごく便利になると思いますね」
今回の六本木MIXでは、優秀なアイデアを出したチームが「小西賞」として選ばれ、賞品をもらえることに。さまざまなアイデアが発表される中、小西さんが選んだのはどんなアイデアだったのでしょうか?
「面白そうなプロジェクトの種はたくさんありましたけど、僕が好きなのはこれ」と、小西賞に選ばれたのは「六本木シャンパンマラソン」。着目した六本木の課題は「坂道が多いこと」、組み合わせた六本木の特徴は「お酒を飲むお店が多いこと」。なんと、給水所にシャンパンを用意して、ランナーはお酒を飲みながら坂道を駆け巡るというアイデアです。いわば、フランス・ボルドーで行われるワインを飲みながら走る「メドックマラソン」の六本木版。
「シャンパン飲ませて坂を走らせたら、死にます(笑)。でもこれ、意外と乗ってきそうなクライアントがいそうなんですよね。僕は自分の中に『代理店が考えそうにないものを』というポリシーみたいなものがあって、すごく簡単に発想できるのに、誰も思いつかないようなアイデアがいいと思っています。このアイデアは、絶対に役所はどこかでストップをかけると思うけれど、そこを乗り越えられるかどうか。同じチームが出した『六本木せんべろマップ』もいいですね。せんべろ(=千円で酔える)でシャンペンが飲める、つまり"シャンベロ"。シャンパンマラソンからのシャンベロ、いいじゃないですか(笑)」
今回の「六本木MIX」で出たアイデアの数々の中には、今後、実現に向けて動き出すものもあるかもしれません。また、「六本木MIX」という"フォーマット"は、これからさらに広がっていく可能性があります。今後の展開に期待して、レポートの最後は小西さんのこんなコメントで締めくくりたいと思います。
「大事なことが2つあります。ひとつは先ほど言ったように、『六本木MIX』の仕組みをコミュニティに導入したら面白くなるということ。もうひとつは、こうやってアイデアをつくろうとするスタンスが重要だということです。アイデアがないのに何かやりたいなんて、ただのヤンキーですから(笑)。重要なのは難しく考えないこと。自分のアイデアはたいしたことないとか、恥ずかしいって思わず、ラフな気持ちでやるのがいいと思います。今回出たアイデアを実現するためには、誰が主体になってどこに話をもっていて......と、いろいろな折衝や課題が出てくると思います。そこはプロの領域。でも、誰が実現させようと、アイデアを出した人はエラいんですよ」
小西さんが言う通り、今回行った六本木MIXの手法は、自分が住んでいる街、働いている街、家庭や職場など、いろんなシーンで実践すると、日々の生活をもっと楽しく過ごせる画期的なアイデアが生まれてくるかもしれません。「スナックだるま」での第2回への参加はもちろん、ぜひ、六本木MIXならぬ、オリジナルの○○MIXを楽しんでみてください。
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