2017年1月30日(月)の夜、六本木の某所で開催された「現代アートセミナー特別編 by Chim↑Pom」。この参加者限定のクローズドイベントは、Chim↑Pomのエリイさんがクリエイターインタビューで語った「高所得者の所得税の一部を使って美術セミナーを開く」というアイデアから生まれたもの。お酒とフィンガーフードが用意された会場に登場したのは、エリイさん、卯城竜太さん。六本木アートナイト2016でのプレ・イベントで語られた「プロジェクト型現代アートを買う」という話を出発点に、現代アートと「お金」との関係について語り尽くしました。
卯城 「アートを買う」っていうと、好きで持っておきたい人と、投機目的の人がいると思うんだけど。
エリイ 買うときって、そのどちらの気持ちもあるよね。
卯城 エリイちゃんだったら価値が高くなったら売りたい?
エリイ 売らないと思う。売らないんだけど、買うときには「これ、絶対に高くなる!」っていう気持ちは必ずあるな。
卯城 この前、ZOZOTOWN社長の前澤友作さんが、バスキアの作品を62億円で落札したことがニュースになったじゃん。バスキアは若くして死んだけど、まだ死後30年もたっていない。生きていたらまだ50代だし。ホント、めっちゃ高いよね。
エリイ やっぱり、作家が死ぬと高くなるよね。
卯城 プライマリーマーケットのギャラリーっていう場では、コマーシャルな作家もプロジェクトタイプの作家もごった煮状態だけど、そこからオークションやフェアとかのマーケットと、ビエンナーレみたいなタイプに分かれていく。
エリイ 私、金持ちがアート作品を観ながらレストランでごはんを食べる会みたいなのに行ったんだけど。その人たちはサザビーズにはすごく詳しくて落札してるみたいで、エンリコ・カステラーニのけっこういい作品や、イブ・クライン、ジェフ・クーンズとかの作品を持ってるのに、Chim↑Pomのことはもちろん知らなくて。
卯城 偏りがあるよね。アートを盛り立てるマーケットと、ビエンナーレとか芸術祭とか、プロジェクト系の2つは、入り混ざっているんだけど、遠く離れている感じがする。
エリイ 別に金持ちがChim↑Pomを知らなくていいんだけど、特定のアートには超詳しかったり、落差が激しいんだよ。もっと全体感が欲しいよね。
卯城 全体感って? ザックリってこと?
エリイ たとえば算数だったら、足し算は知っているけど割り算を知らない人みたいな感じ。人によって知識の差がこんなにあるのはアートぐらいじゃないかな。
卯城 今のアートシーンには面白い現象があるよね。アートバブルとかいわれていた10年ぐらい前までは、マーケットの評価がそのままアーティストの評価として反映されていたと思う。でも、ここ数年、マーケットの評価とアーティストとしての影響力のバランスが崩れてきていて。
エリイ 今はバブルのときよりも価格が高くなってるよね。
卯城 そうそう。イギリスの雑誌『ArtReview』で影響力の高い人物を「Power100」として毎年ランク付けしてて、ちょっと前までは、ダミアン・ハーストとか、マーケットを牽引していた人がいっぱいランクインしてた。でもそれがどんどん変わってきていて、今はヒト・スタヤルとかシアスター・ゲーツとかトレバー・パグレンとか。この3人は日本ではあまり紹介されてない、社会実践やプロジェクトタイプのアーティスト。アイ・ウェイウェイなんかは知られてるけど。
エリイ トレヴァー・パグレンの作品は売れてそうだけど。
卯城 たしかに。マーケットとは入り混じっているような状況だよね。ただ、トレバーはChim↑Pom発案の国際展「Don't Follow the Wind」にも参加してもらったけど、どうやってこのプロジェクトのファンドレイジングをするかってときに、「オークションは嫌だ」ってはっきり言ってた。プロジェクトとマーケットの関係はまだこれからじゃないかな。
エリイ 日本人でプロジェクトタイプの作品を「買う」という気持ちで好きなのは数パーセントくらいじゃない? だって、物質社会で、みんなモノがすごく好きだから。
卯城 うん。Chim↑Pomの活動が好きだっていうコレクターに何か買いたいって相談されたんだけど、どうしても「飾れるもの」を考えちゃうって言ってた。
エリイ 買った作品は人に見せたいしね。
卯城 物質的なアートは盤石だとしても、アートマーケットは、もっと非物質的な実験を求められるようにもなるんじゃないかな。
エリイ いずれ過ぎ去ると思うけど、プロジェクトタイプのアートはブームだよね。ティノ・セーガルの売り方がすごくいい例。
卯城 ティノ・セーガルは、ヴェネツィア・ビエンナーレで金獅子賞を獲ったりしている、コンセプチュアルアートを牽引しているアーティスト。それまでのコンセプチュアルアートの売り方は、たとえば穴を掘る作品だとしたら、その指示書などを売っていた。
エリイ 穴の深さは何センチ、こういう条件の下でこう掘るとか、細かい指示書やコンセプトシートを売るんだよね。
卯城 だけどティノ・セーガルはもっとぶっ飛んでて。コンセプチュアルアート特有の非物質性を売買においても徹底している。たとえばパフォーマンス作品は売るけど、その指示書や領収書が一切存在しないよう要求している。だから一説によると面談をするらしい。その間、契約書とか指示書も紙としては存在しないから。
エリイ 口頭でしか作品を売らないんだよね。偽ティノ・セーガルに騙されたりしないのかな?
卯城 「ティノ・セーガルですけど」って電話がかかってきて?(笑)
エリイ 言葉だけだったらわかんないじゃん。
卯城 そういう不確かな部分も面白いんだろうね。ほかにもコンセプチュアルアーティストだと、プロジェクトの様子を撮影した動画や画像をハードディスクにまとめて、好きなように展示してくださいっていうやり方の人もいる。買い手に、アートの消費者ではなく表現者になるように求めているわけ。ティノ・セーガルもそうだけど、消費とは違う体験をコレクターに迫っている。そういう人たちは、マーケットを通して当事者をつくっていくことに敏感だよね。
ここからは、Chim↑Pomが手がけてきたプロジェクトとお金の話。「ここで話すことは、けっこう"お蔵出し"なんですよ」と卯城さん。写真は、会田誠さん撮影の集合写真。エリイさんの祖母が住んでいて今はメンバーが住んでいる家で撮ったそうです。グラスを片手に、2005年の結成から現在に至るまでの、さまざまな作品制作や展覧会の裏側を語ってくれました。
卯城 かくいうChim↑Pomも完全にプロジェクトタイプなアーティストだよね。アーティストコレクティブとして複数人で活動して、みんなが面白いと思うことをみんなで実現させるから、どうしても作品はそうなりがち。
エリイ いろんな人と協力しながら作品をつくるのが好きだから。でも、6人もいると渡航費や滞在費だけでも100万円近くかかる。
卯城 まあ、お金がないからできないってことはなくて、最終的にはなんとか実現するんだけどね。今日はその事例を紹介したいんだけど、まずはデビュー1年目の「サンキューセレブプロジェクト アイム・ボカン」から。
エリイ パリス・ヒルトンとかのセレブがブームだったね、このときは。
卯城 セレブならやっぱり地雷撤去という、エリイちゃんの一周回った考えからカンボジアに行って。家で地雷被害者の子どもたちを養いながら撤去した地雷を展示している人に出会って、そこに泊まりながらプロジェクトをやったんだよね。
エリイ みんなハンモックで寝たり、テント張ったりして滞在して。
卯城 何をやったかというと、地雷を爆破処理するときに、エリイちゃんをセレブ風にかたどった石膏像とか、私物の高級アイテムとかも一緒に爆破したんです。その残骸を東京に持ち帰って、チャリティーオークションを自主開催して。
エリイ 司会をやってくれたのがいとうせいこうさん。
卯城 ただのオークションではなくて、当時のダミアン・ハーストの作品と同じ126億円とか、アートマーケットの象徴的な値段から、逆にだんだん下げていくという方法。そのお金で買える義足の本数も表示しているから、これらのアート作品ひとつの価格でどれだけ多くの義足が買えるかなどが理解できる。で、金額が下がれば義足の本数も下がる。現実的な値段になってくると「誰か手を挙げないかな」っていう雰囲気になってくるんだよね。
エリイ ギャラリーで展覧会をすると取り分が半分だから、落札価格の50パーセントがChim↑Pomの取り分で、その全額をお米に換えたりしてカンボジアに配ったね。
卯城 僕らには1銭も残らないどころか、みんな借金みたいな感じ。
エリイ 爆破した財布を美術館に展示するときに開けてみたら、ATMの利用明細書が残ってて、残高が500円以下だった(笑)。
卯城 次は広島。2008年の作品「ピカッ」が大問題になって、謝罪会見で被爆者団体の人たちに出会ったんです。その後、実は彼らがこのプロジェクトに興味津々だということがわかって、その対話から『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』という本を出版したりもしました。その後は広島の展覧会をシリーズ展開していって、2013年にはシリーズ5番目の「広島!!!!!」展を広島の旧日本銀行広島支店という建物で開催することになったんです。
エリイ 戦前からある建物で、原爆にも耐えたんだよね。
卯城 展示規模が大きかったから、かかるお金もでかかった。そこで「原爆の残り火」で描いたバーンドローイングをたくさんつくって。
エリイ 原爆投下後に燃えていた火をある男性が絶やさず持っていて、その火でつくった作品を、お好み焼き屋さんとか植物屋さんとか、広島の人たちが協力して展示してくれたんだよね。
卯城 「広島展の準備展」として名乗り出てくれた市内9ヶ所のギャラリーやお店で一斉に展示販売して、そのお金で展覧会をやろうという趣旨。
エリイ すごくいい展示だった。1週間ちょっとという、すごく短かい期間だったけど。
卯城 エントランスには協力してくれた人の名前を手書きで書いて、みんなが買ってくれた作品をもう一度集めたり。
エリイ 世界中から広島に送られてきて保管に困っていた大量の折り鶴で、広島の女の子たちと一緒にでかいピラミッドをつくったり。
卯城 広島での活動でいったら、「ピカッ」以前からずっと協力してくれたビッグコレクターがいたことも大きかった。彼はライアン・ガンダーのコレクションとかいっぱい持ってて、ものすごく感動したね。
エリイ あの人、もはや現代美術じゃなくてワインや骨董みたいなのを集めることに夢中だったし、日銀の展覧会の時は協力してくれなかったよ。
卯城 昔は協力してくれたんだよ(笑)。あと、そのひとつ前の「広島!!!!」展は、広島市内ではなくて原爆の図丸木美術館での展示だったんだけど、あの時もやっぱり予算がなくて。そこでChim↑Pomの水野俊紀が原発の作業員として福島第一原発に働きに行って、そのお金を製作費に充てた。「サポーテッドby東京電力」ってことですね(笑)。
エリイ ちなみに水野くんは、広島の展覧会で折り鶴を運んでくれた運送屋の娘さんと結婚しました(笑)。
卯城 これは「Don't Follow the Wind」という、東京電力福島第一原発の事故によってできた、福島県内の帰還困難区域内に国際展をつくるプロジェクト。立ち入り制限が解除されたら観に行くことができるんだけど、割とハードコアなアートワールドにおいては世界的な話題にはなった。さっき言ったアイ・ウェイウェイとか、トレヴァー・パグレンとか、いろんなアーティストがこの展覧会のために新作をつくって、それを日本で組織された実行委員会が区域内にインストールしました。
エリイ 海外の友だちに声をかけてキュレーターとして作家や作品を選んでもらったりしたんだけど、キュレーターは何度も外国から来て滞在しなきゃいけない。
卯城 国際展だしお金がすごくかかる。とはいえ、クラウドファンディングはどうなんだろうとも思って。
エリイ ネットで何人集まったらいくらみたいなの、ダサいよね。
卯城 ネタバレになるし、社会性を謳ったポジティブな内容じゃないとお金が集まらないしね。
エリイ ポジティブというか、うさんくさい感じがするし、いい人ぶってる。それで、いつも作品を買ってくれる人やアート好きと言っている人とかに声をかけたんだけど、充分には協力してくれない。結局何もしないのに思わせぶりな態度をして、気を引かせるだけの人は許さない。
卯城 展示会場がまだ決まっていない段階では、地元の人が必要としていないような空き物件を美術館として会場にしてオーナーを集められないかとか、パッケージもいっぱいつくったんですよ。とはいえ地元の方々に出会う中で、その人たちの思い入れが詰まった物件でやることの意味の方が比較にならないほど大きいとも気づいて、さてどうやってお金をつくろうかと。
エリイ ほかにも30万円で版画を買いませんかとか、ささやかなのもやったのにね。
卯城 いつも支えてくれている人たちは協力してくれたけど、少数だし必要な資金には遠く及ばなかった。
エリイ 最終的に、当時アートに興味を持ちはじめていた私の金持ちの友だちに電話してChim↑Pomの作品を買ってもらって、その全額を私たちがドネーション(寄付)する形に。
卯城 そう。結局、初期費用が1,500万円くらいかかったんだけど、そのほとんどはウチらが作品を売るってことでまかなった。歌舞伎町でやった展覧会「また明日も観てくれるかな?」も、結局Chim↑Pomが全額自腹を切ってるしね。
エリイ 「また明日も観てくれるかな?」では、私が7年ぐらい貯めた"Chim↑Pom貯金"を使ったんです。よく知らないおじさんとかに「作品、買いませんか」って言いに行くの、すごい嫌だなと思って。
卯城 このときは入場料をもらったから、最終的にはOKだったけどね。
セミナーでは、2月18日から個展「The other side」でお披露目予定の最新作の話も。その内容は、「ボーダー」をテーマに、アメリカとメキシコの国境沿いを旅し、メキシコ側にツリーハウスを建て、そこから見渡せる緩衝地帯と、2つの新作を眺めるというコンセプト(ちなみにこの作品制作も、Chim↑Pom独自のファンドレイジングと貯金で行われたそう)。そして最後は、日本の現状とアート業界のこれからについて語りました。
卯城 いろんなファンドレイジングによって作品をつくってきたけど、その結果としての写真やビデオを、アートピース一つひとつの売買ではなくプロジェクトとしてパッケージにしてまとめ買いする、みたいな心意気のあるコレクターが増えてくれたら、買うほうも売るほうもクリエイティブな感じがして面白いんだけどね。
エリイ 企業は1回のパーティーで大金を無駄打ちしてたりするじゃん。もっと生産的なことがあるってわかれば、そのうちやりだすんじゃない? 10年後とかにはそういう企業が増えそう。日本はひとりがやったら隣の人もやるんだよ。ただ、そのひとりが難しいよね。
卯城 実は六本木未来会議のインタビューを読んだお金持ちの人が「物件が余ってるから自由に使っていいよ」って、ウチらに表参道にスペースを無料で貸してくれたりしている。そういう例もある一方、ちょっとガッカリした話も聞いて。あるギャラリストが、高所得者の人の海が見える家に合わせて、杉本博司さんの水平線の写真を売ったんだって。でも、その人はコレクターとしては初心者だったらしく、まわりの高所得の友だちの反応が「なんでこんなのにお金出したの?」みたいな感じだったからって作品を返品したらしい。
エリイ たぶん水平線だったからだよ。だって窓から見えるじゃん。
卯城 それはわかってて、だからこその作品だったんじゃない?(笑)。
エリイ ただ売っただけなら、そりゃ返品されるよ。売るほうも知識や世界観、文脈をちゃんとわかるようにするべきだし、売買目的じゃないなら心に響かせないと。私が通っていた美大にも、アートを知っている同級生がほとんどいなくてびっくりしたもん。今はインターネットでだいたいわかるけど、日本語になってない情報も多いし。
卯城 現代アートって文脈がすごく重要だから。僕らもあらためて「ああ、そうなんだ」って思うポイントがたくさんある。アートセミナーを開催してそういう知識を得るのもひとつの手。でも、だからなんだという感じもしなくはないよね。そんなことより前に、そもそもアート作品と鑑賞者とアーティストの間には、見たことがないものを所有したり、見たことがないものだから触れてみたいという、好奇心や実験精神というか、リスキーだけどワクワクするような感覚があるはずで。評価が定まったものとだけ触れ合っていると、そんな無鉄砲な感覚が衰えていって、どんどん保守的に物事を見て判断するようになる。そんな老人みたいな個人が増えてしまったから、日本は社会としても若さを失っているんじゃないかな。若さなくして成長はあり得ないのに。
エリイ 大人が大人の役割を果たしてないんだよ。
卯城 若者が失敗するとフォローせずに非難ばかりだもんね。そんな状況だと誰も挑戦しなくなる。バックパッカーとか、日本人でやる人、めっちゃ減ったじゃん。世界のどこに行っても韓国人や中国人の若者はいるけど、日本人の若者にはほぼ出会わないもんね。
エリイ エロい歓楽街で夜遊びしている日本人のおじさんはどんな場所でも見かけるけどね。
卯城 新興国やアメリカ、ヨーロッパでアートが重宝されているのは、ある意味、実験精神とか文化に対する許容範囲の広さや、価値が付いていないものを生み出すことへのポジティブさの競争をしていると思うんだよ。日本はそういう競争に乗れなくなった気がする。マンガやアニメとかは盛んだから、まぁいいけどね。
エリイ ブラジルの奥地でもメキシコのスラムでもキティちゃん柄を履いてるしね。いいじゃん、こんなにキティちゃんがいっぱいいて、アニメも放送されててさ。
卯城 そういう面では日本は面白いものを許容してるかもしれないし、美術館に行く人の数も多いけど......。
エリイ よくある客寄せパンダ的存在の古典絵画1枚を観るために、並んだ揚げ句一瞬で通り過ぎたりするし、「芸能人見た!」みたいなのと同じだよね、日本の美術観賞って。
卯城 たしかに好きな芸能人を見たら、しばらくはラッキーみたいな気持ちが持続するかもしれないし、友人にも話すよね。たぶんモナリザが来てもそんな感じだよね。
エリイ でも、日本にはもっと、全然知られていないような外国人のアートを入れたほうがいいよ。
卯城 今、国際的に高く評価されているアーティストは、あまり日本に入ってないよね。なんでこんなに情報のギャップがあるんだろうって思うもん。アートが盛んな国だと、国も企業も個人もオルタナティブなグループも、アートをバックアップする仕組みが整っているから、仮に国がソッポ向いていても成り立つ。
エリイ いろんな国に、建物を建てるときに建築費の数パーセントでアートを買わなきゃいけないっていう法律があるじゃん。
卯城 バイブスが合えばもちろんいいけど、一般論としては、今は国や企業のお金でプロジェクトをやるには規制が多すぎるよね。個人的なコレクターやアートファンの人たちと一緒にやるのが、今は理想的なのかも。
エリイ 私は誰にも買ってほしくない。人がつくった作品を所有しようとかいう気持ちが嫌だね。
卯城 エリイちゃんは作品が売れると、ちょっとへこむよね(笑)。売れなかったら売れなかったで、やれやれって感じだし(笑)。なんなの、その感覚は。
エリイ この人に買われるならいいって思うこともあるけど、なんか汚された感じがする。
卯城 なるほどね。たしかに、アイデア出しから作品化までの濾過を経てアウトプットされた作品には、愛なのか毒なのかわからないけど、ウチらのなんか純度の高い物がどうしてもこもっちゃう。だからやっぱりただの消費やインテリアとしてじゃなく、クリエイティビティの高い売買が成立すれば、楽しめる気もするな。おれもたまに5万円とかの若手の作品を買うと、自分にすごくいいフィーリングが生まれるし。
エリイ そんなに高くなくても、すごくうれしいよね。すごく好きだから買うわけで、それが手もとにあると、うれしい気持ちがずっと続く。
卯城 若手の作品を買うことは、実験精神に近いものがあるしね。しかも作家は喜んでくれるし。
エリイ 自信にもなるよね。私も最初に売れたときのことを思い出すとうれしいもん。
卯城 あれ、さっきは買ってほしくないって(笑)。それに結局、なぜか高所得者に関係ないような安い話に行き着いてしまう......。
卯城 結局、日本でプロジェクトタイプのアートを買ってもらうにはどうしたらいいんだろうね?
エリイ いつも言ってるじゃん、プロジェクトをやることを誰も知らないのに、お金が集まるわけないって。こっちは発信してるつもりでも届いてないの。
卯城 難しいんだよね。ツイッターとかでつぶやいても......。
エリイ あとから「展覧会をやっていたなら教えてほしかった」って言われるんだよ。展覧会ですら告知が難しくて、歌舞伎町の「また明日も観てくれるかな?」だと、最後に人が集まったのは口コミだから。
卯城 プロジェクトの最後に人が集まるのはわかる。けど、始めるにあたってはどう伝えればいいんだろう。
エリイ Chim↑Pomを始めたときもそう。「Chim↑Pomのエリイです」って電話をかけるんだけど、昨日名前を決めたばっかりだから、誰も知らないの。
卯城 それ、たぶん電話するのが早すぎるな(笑)。
エリイ とにかく、物事の始まりは誰も知らない。
卯城 それがいいということもあるよね。毎回プロジェクトをはじめるときに、何ができるかを考えるんだけど。
エリイ まずはアーティスト側がちゃんと発信できていないっていう問題があるね。
卯城 アーティストはいつも面白いことをやりたくてウズウズしているし、だけどそのリアライズは現実味がないって思い込んで諦めている。少しお金を持っている人にとって、それはたいした額ではないはずなんだけど。これからはコレクターとアーティストが"共犯関係"を結ぶことが、日本のアートが発展していくために必要じゃないかな。2者のマッチングが常識になれば、ヤッバいアートの動きがガンガン現れるはず。それが実現できたら、日本のアートはめちゃくちゃ面白くなりますよ。