「自分が楽しい」と思うことを、ずっと変わらず続けるために。
かわいいのに、凛としていて個性的。女性に圧倒的な人気を誇るファッションブランド「TSUMORI CHISATO」は、「ガーリィでセクシー、大人のためのファンタジーがあふれる、ハッピーなテイスト」を提案することをコンセプトに掲げています。津森千里さんのつくる服は、なぜ着る人をハッピーにするのでしょう。ブランドの立ち上げから29年を迎えた津森さんに、洋服づくりのこだわりや、アイデアの源となっているもの、そして人や街をハッピーにするヒントをうかがいました。
2018年10月6日(土)~24日(水)に行った「WAKU WORK 津森千里の仕事展」は、これまで私が40年ほどやってきたファッションデザインの仕事を集めて、みなさんにお届けする場づくりを心がけました。私としてはワクワク楽しく仕事をしてきた結果なんだけど、これだけ一堂に会すると、自分の頭の中を覗かれているみたいな恥ずかしさもあったりして、見てくださった方はどんなふうに感じるのかしら? 自分でも頭の中がどうなっているのかときどきわからなくなっちゃうくらい、いろんなことをやってきたから、このごちゃごちゃした感じこそ津森千里だな、みたいな思いもちょっとあるんです。混沌としているのも嫌いじゃないので。展示のしかたにも、自分のにおいを振りまきたいとか、自分の世界で埋め尽くしたいっていう欲望が表れていますよね。
会場になっている21_21 DESIGN SIGHTを設計された、安藤忠雄さんには申し訳ないですけど(笑)、子どもの頃、小屋をつくってそこを全部自分の色に染めちゃうのがすごく夢だったんです。だからこの展覧会が、津森千里の城みたいな場所になったんでしょうね。
これまでの仕事を振り返ってあらためて思うのは、変化がないってことかな。会場のショーケースに、1990年に「TSUMORI CHISATO」を立ち上げたときのコンセプトを展示しているのですが、そこにはこんな言葉が書かれています。
"年齢にも 職業にも 何にもとらわれない 着たいものを 着たい時につくる 何よりも大切にしたいのは 素直に表現すること 可愛いものは可愛い 良いものは良い TSUMORI CHISATO ワールドには スポーティも 民族調も フェミニンもあります そこは あたたかく ほのぼのとした いごこちの良い世界でありたいと願っています"
今やっていること、考えていることとまったく変わっていないんですよね。それがずっと続いていることは、自分でもすごいなと思ったし、好きなものを好きなときにつくることをいまだにできている環境が、ありがたいなって思います。
「WAKU WORK 津森千里の仕事展」
21_21 DESIGN SIGHT
私にとって好きな洋服をつくることは、「今日は中華にしようかな? それとも和食がいいかな?」みたいに、そのとき食べたいものを考えるのと一緒なのかもしれません。食べることって基本的にみんな好きだし、当たり前のことだから絶対に飽きないし、続けられるじゃないですか。服をつくることを、食べ物に例えると、すごくシンプルでわかりやすいなと思って。
生地を買ったり、アイデアを貯め込んだりするのも、すぐに使うかわからないけれどもいつか使えるかもしれないって、冷蔵庫に食材を入れていく感覚と似ているんですよね。一見合わなそうな素材をミックスしたら、意外とおもしろいものができたりするところも料理と同じ。だからストックがなくなると、すごく不安になっちゃう。うちの冷蔵庫と一緒で、私の頭だってもちろんそういうときもありますよ。もうすぐ夕飯でみんなが帰ってくるけど、冷蔵庫の中になにもない......どうしよう! みたいなね。展示会が近づいて焦っているときの感覚は、それに近いかな(笑)。
I.S. chisato tsumori design
楽しくて幸せな気分、つまりハッピーを提案したいっていうのは、ずっと前から思っていたこと。「TSUMORI CHISATO」を立ち上げる前に「I.S. chisato tsumori design」のチーフデザイナーをやっていたときも、おもしろくてみんなに楽しんでもらえるような服をつくりたいなといつも思っていました。もっと言うと、物心ついた頃から漠然とそんなことを考えていたのかもしれません。
絵を描くのが好きな子どもで、といってもほんとにみんなが描くようなチューリップとか、女の子の絵とかを描いていたんですけど、それを見た人がおもしろがったり、喜んでもらえたことが嬉しかったんですよね。あるとき、私が描いた絵を父親が仕事場に持って行ったんです。「『うちの娘が描いたんだよ』って会社の人に見せたら、『上手だね』って言ってくれたよ」という言葉で有頂天になっちゃって、漫画家になりたいとずっと思っていたくらい。あのときの幼稚園児が、そのまま大きくなっちゃった感じなんです。
自分も楽しいんだったら、周りの人もきっと楽しいに違いないっていう思いが、洋服をつくる原動力なのかもしれません。ハッピーな気分をおすそ分けしたり、シェアしたりして、つながっていけるといいなと思っているので。自己満足かもしれませんが、自分だったらこんな服を着てみたいっていう欲求を形にしたいんです。ひとりのリアルユーザーが、ここにいる感覚ですね。自分が欲しい服を欲しがる人は、ほかにもきっといるだろうし、もし日本にいなかったとしても、ほかの国の女性たちが欲しがってくれるはず、と思ってつくっています。
今は多少変わってきましたが、日本ってパーティに行く機会がどうしても少ないから、ロングドレスを着るチャンスがなかなかなくて、あまり売れなかったりするんです。そういうことを気にせず、お姫様ルックなロングドレスをつくっちゃうこともあるんですけど、夏のカンヌとか香港なんかでは人気だったりするから。人とはちょっと違う格好をしたいっていう方が、買ってくださるんでしょうね。
小さい女の子って、リボンをつけたり、フリルをつけたりするだけで、すごく喜ぶじゃない? 大人になって頭に大きなリボンをつけるのはちょっとつらいかもしれないけど、下着とかにさり気なくついているだけで気分が上がったりするでしょ。かわいらしさっていうのは、年齢を問わず永遠に女性が好きなものなんでしょうね。
その点、「TSUMORI CHISATO」の服は女の子っぽいけど、セクシーな雰囲気もあるんです。だって誰でもそうだと思うけど、ひとりの女の人のなかにガーリィな面もあるし、セクシーなところもあったりするじゃないですか。単にかわいいだけじゃなく、セクシーで、スポーティでもあり、ボーイッシュでもあるほうが魅力的だし、その日の気分で毎日いろんな自己演出をできるのが、洋服のおもしろいところ。そういう意味では、男性よりも女性のほうが遊べるし、洋服やメイクで自己演出をすることで毎日をハッピーに送ることができますよね。
ハッピーの基準は人によって違うけれども、私ができる唯一のことは着るとアガるような洋服をつくって、その気分を共有すること。人が楽しそうにしているのを見ると、周りもなんとなくハッピーになれるじゃないですか。反対に悲しい気持ちや嫌な気持ちみたいな、ネガティブな感情も連鎖しやすいものだけど、せっかく連鎖するなら楽しいほうがいいですからね。
それを「愛」って言葉に置き換えると照れくさいんだけど、やっぱり洋服は愛をもってつくらないといけないですよね。着る人は、愛がこもっているかどうか敏感にわかっちゃうものなんです。手を動かしてつくったものには温かさがあって、図案ひとつとっても、手描きのものとタブレットで描いたものとでは、愛の伝わり方が全然違う気がします。私は生地にストーリーを感じることがよくあるのですが、素材なんかも天然のものには愛を感じちゃいますね。手がかかればかかるほど、人の念がこもってパワーが生まれるから。今は時代的に効率化の方向に進んで、手仕事がどんどん難しくなっていますが、手をかけてつくったものには愛がある。私は時代に逆行するような服のつくり方をしているので、自分のことを絶滅危惧種って呼んでいるんです。