「自分が楽しい」と思うことを、ずっと変わらず続けるために。
かわいいのに、凛としていて個性的。女性に圧倒的な人気を誇るファッションブランド「TSUMORI CHISATO」は、「ガーリィでセクシー、大人のためのファンタジーがあふれる、ハッピーなテイスト」を提案することをコンセプトに掲げています。津森千里さんのつくる服は、なぜ着る人をハッピーにするのでしょう。ブランドの立ち上げから29年を迎えた津森さんに、洋服づくりのこだわりや、アイデアの源となっているもの、そして人や街をハッピーにするヒントをうかがいました。
私の展覧会に、7歳の女の子がお母さんと一緒にいらしていたんですけど、その子は6歳の頃からファッションデザイナーになりたいと言っていて、子ども向けのファッション・スクールに通っているらしいんです。最初は塗り絵とかから始めて、先生がサポートしながら最終的にはファッションショーをやったりするみたいで、すごいですよね。あと私の知り合いにイタリア人と日本人のハーフで5歳くらいの女の子がいるんですけど、その子は自分が着る服を毎日自分で選ぶんですって。私がその子たちくらいの年齢のときは、野原を駆け回って地面に木で絵を描いていたから、今思うと全然"おしゃま"じゃなかったですね(笑)。
子どもたちの才能を伸ばすためにも、ファッションやデザインについて学べる環境が、美術学校や服飾学校以外にもっといろいろあったらいいんじゃないかなって思います。専門用語や技術を学ぶのであれば、そういう学校に行くのが一番近道でしょうし、何かと便利ですけど、それ以前に子どもが楽しみながらファッションやデザインに興味を持てる場があるといいですよね。それに、子どもの感性でできたものが、世の中にもっとたくさんあったらおもしろいじゃないですか。子どもの描いた絵ってパワーを感じるし、大人は絶対に真似できないかわいさがあるから。
だからたとえば、子どもがTシャツに自由に絵を描く「子どもTシャツ展」とか「子どもデザイン展」みたいなのをやってみたらおもしろいんじゃないかしら? 希望も感じられて、それこそ見る人をハッピーにしてくれますよね。子どもはほんと、みんな天才ですよ。あざとい感じがしないというか、売り上げのことを考えない素直さがいいんでしょうね(笑)。
80年代とかはAXISギャラリーによく通ったりしましたけど、六本木は歓楽街のイメージが強かったから、あまり縁がなかったんですよね。でも個人的には、東京ミッドタウンができたことによって街のイメージがよくなった気がします。21_21 DESIGN SIGHTの周りにある公園とかは、ほっとできて好きなんですけど、六本木に限らず東京の街はもうちょっと空気が良くなったり、緑が多くなったりして、ゆとりが生まれるといいですよね。
ニューヨークも大都市ですけど、小さい公園が街なかに点在していて、人と自然が意外と近かったりするじゃないですか。その点、東京は大きい公園がぽつんぽつんとあるけれども、小さな公園には子どもが遊べるちょっとしたスペースがあるくらいで、子ども連れじゃない大人はなんとなく入りづらかったりしますよね。私の家の周辺なんかは、200メートル歩いても緑があるのかしら? っていうくらいで、ようやく緑のあるスペースに辿り着けたとしても、地面がコンクリートに覆われていたりして、くつろげないんですよね。
パリなんかも街を歩いていて、ちょっとお茶したいなって思ったらどこに行こうか迷ってしまうくらい、そういう場所をすぐに見つけられるじゃないですか。しかもテラスになっているスペースがたくさんあって、向こうの人たちは屋外で過ごすのが大好きですよね。たまに、こんなに空気の汚れているところでくつろげるの? って思っちゃうようなテラスもありますけど。東京は座ってコーヒーを飲める空間を探すのもひと苦労。外でのんびりするより、屋内で過ごすほうが、落ち着く人たちなのかもしれないですね。東京ミッドタウンみたいにテラスが充実している場所は、東京では意外と珍しいみたいですけど、日常でそうやってほっとできるスペースがあることが、私はリッチだなあと思うんです。
街から受ける刺激という意味では、ニューヨークもおもしろいけど、パリは色が違って見えません? 日本だとバキバキッとクリアに見えちゃうようなものが、もっとロマンチックに見えるんですよね。空の色が違うからなのかな? ミケランジェロはイタリア人ですけど、パリの空は彼が描いた空みたいに紗がかかってふわふわして見えるんです。東京の空は「運動会!」って感じ(笑)。
2019年の春夏コレクションは、旅で行ったエジプトからインスピレーションを得ています。パピルスの花をイメージして絵を描いたり、ナイル川をクルーズしたときに見た水面のキラキラした感じがすごく心に残っていたから、その雰囲気を再現してみたりして。私にとって旅は、洋服をつくるヒントと、リフレッシュと異文化交流。いろんな国の文化や生活など、知らないことを知るのはすごく楽しいし、日本は島国だから海外に行くと、普段いかにボーッと過ごしているか気づいちゃったりするじゃないですか。そうやっていろんなところに行った思い出を、洋服に落とし込むことはよくありますね。
2019年春夏コレクション
4月にこれまでの仕事を網羅した『TSUMORI CHISATO』という本を出版しました。10月には初めての展覧会も開催して、偶然なのですが今年は集大成的な年になりましたね。といっても、これから何か変わったことをしようっていう気負いも特にないのですが、新しいプロジェクトをあげるとするなら「I.S.」をリスタートしたことかな。三宅一生さんは私がデザイナーを志すきっかけになった方で、学生時代にコンペに応募したのも一生さんに自分の作品を見てもらいたかったからなんです。学校を卒業して、一生さんの下で働かせてもらうことになりましたし、今回の展覧会も「I.S.」のリスタートも、一生さんが後押ししてくださったおかげで実現できました。
『TSUMORI CHISATO』(Rizzoli)
「I.S.」も「TSUMORI CHISATO」もそうですけど、昔つくったものを見ると、「今でも着れるんじゃない!?」と思う服がたくさんあります。故きを温ねて新しきを知るじゃないですけど、「こんなことやってたんだ!」「このテクニックをまた使ったらどう?」っていう発見がいろいろあるので、自分のつくったものをリメイクするのも全然ありかなって。それこそ堂々とできますからね。
今個人的に関心があるのは、健康と食生活。仕事をするうえでもこのふたつは大切ですし、とても密接なものだと感じているので、これからはウェルネスウェアをフォーカスしていきたいですね。ハッピーもいいけど、ウェルネスも大事。ハッピーウェルネスよね、やっぱり!
取材を終えて......
「自分が楽しいことは、人も楽しいと感じてくれるに違いない」という信念をお持ちの津森さん。「まずは自分が楽しむ」という前提がありながら、周りの人を楽しませようとするホスピタリティが、その話しぶりからうかがえました。それにしても、過去のコレクションや作品集『TSUMORI CHISATO』について説明する姿は、本当に楽しそう! そのエネルギッシュなパワーと深い愛情が、ハッピーの連鎖を生むのだと実感しました。(text_ikuko hyodo)