集まった人の「動き」と光を融合させ、街全体でエンターテイメントをつくりたい。
「SAMURIZE from EXILE TRIBE」の光る衣装の生みの親であり、ウェアラブル・コンピューティングとダンスパフォーマンスを融合させた作品で注目される、藤本実さん。「世界の中で自分しか生み出せないものをつくりたい」と、さらりと言ってのける34歳のスーパークリエイターは、身体表現に光の要素を加えた「ライティング・コリオグラファー」という新たな表現の世界を切り拓いてきた。原点にあるものは何か、身体と光による表現の未来とは? そして、人々からLED博士と称される藤本さんが考える六本木を舞台にしたエンターテイメントのアイデアとは?
これって、自分の作品の特徴だと思うのですが、映像で見ても、そのおもしろさとか凄さが、まったく伝わらないんです。「映像映え」しない(笑)。LEDを9,000個付けた人間が動く、しかも50体、目の前で歩き出すという衝撃は、なんだか違う惑星にでも来たんかな、と思えるくらいのものなのですが、映像で見たら、ふーん、って感じなんですよね......。伝わらない、ということ自体は残念ではあるけど、でも、「ライブ感」や「ストリート感」は僕の原点であり美学。最大の強みだとも思っています。
人間ってたぶん、自分が何に衝撃を受けたかでつくるものが変わってくるのだと思います。映画をつくりたい人は、映画に感動した経験が少なからず、あるのではないでしょうか。僕は生でダンスを見たときの、あの体感が忘れられないから、「ライティング・コリオグラファー」を追求しているわけで、そこにある魅力以外のものは、捨ててもいい。
できることであっても、捨てていく。画像処理とか、センサーとか、新しく出た技術は全部、学生時代に一度は自分の中に入れてみたけれど、でも、これは自分ではなく、他の誰かがやったほうがいいものができる、というものは、潔く、自分が扱うものとしては捨てようって、決めました。残ったものは、生で見るからこそ伝わるインパクト。それをなぜ、人間でやっているかというと、やっぱり、「動く」ということに関しては、人間が一番「楽」なんです。人間みたいに動くロボットをつくろうとすると、研究に何年かかるねん、みたいな話で、結局、「ちょっと動いてみて」と言って一番簡単に動けるのは、今はまだ、人間だから。
それでも、何年先なのかはわからないけれど、そう遠くない未来、僕が生きている間のギリギリくらいには、人間の動きを超える「人間以外のもの」が、出てくるという気はします。ロボットの研究においても、今は「人間ができること」を目指していると思うのですが、きっと、人間ができることの「その上」を目指すようになる。僕としては、その次元になった時にも、ちゃんと演出ができるようになりたい。例えば、人間より大きく、人間より早くて滑らかな有機物なのか、何なのか、その"何か"ができたときに、あらたな表現が切り拓かれるんだろうと思うから。
それを考えるきっかけとして取り組んでいるのが、3メートルのロボットアーム『Robotic Choreographer』です。これ、1秒間に、ロボットアームが、5回転するんです。言葉ではもちろん、映像でもそのすごさがまったく伝わらないんですけど......。生で見るとめっちゃ怖いです。この速度の動きがもし滑らかになったら、完全に人間に勝つでしょう。僕としては、最初に、3メートルのロボットアームがガンガン、ダンスしているイメージがあり、そんなものは世の中にまだないからつくりたい、と言ったら、国のプロジェクトとして研究費を出していただくことができました。最初のモデルをつくるだけでも1年くらいかかっているんですけど、それでも開発としては早い方だと思います。まだ誰も見たことのないものにお金を出してくれるなんて、日本も捨てたもんじゃない(笑)。開発はまだまだ続けますよ。
『Robotic Choreographer』
今、自分の中でテーマとして取り組んでいるのは、静的なものを動的にしていくということ。
演出という仕事柄、1年間に70近い舞台やライブを観るのですが、観ているうちに、舞台ってなんで動かないんだろうって、疑問に思えてきたんです。舞台装置も照明も固定されていることで、演出がどうしても有機的にならない。シルク・ド・ソレイユの演出家と話しをしたら、彼らは平面を造形で立体にしていく、という考え方をもっていて、自分はそれを、テクノロジーで立体に、有機的に動かそうと思っています。そのコンセプトを形にした作品が、ムービングライトを身体につけた人間が歩き出すという、『MOVINGHEADZ』。彼らが会場中を歩いていて、必要なところに集まったり、散らばったりする。天井に照明を200個つけるんだったら、200人、照明を付けた人が動くほうが、表現の可能性は広がるはずです。
『MOVINGHEADZ』
さて、六本木でどんなことができるか、なのですが、六本木でも「動く光と動く人」を組み合わせたエンターテイメントができたら、おもしろいんじゃないかと。
六本木に来るときは美術館めぐりをするときで、そういうときって、最初に1日のやりくりをどうしようか考えるんですね。どこからスタートしてどこで何を食べ、何を見るか。例えば、バルセロナだと途中、バス乗って移動することになったりと、他の都市だとある程度、交通機関を使うことになると思うんですけど、六本木は、一度来たら交通機関を使わずに歩いて回れる。東京ミッドタウンと六本木ヒルズという2大巨頭があるおかげで、基本、その中をどう行き来するかで1日を使える。六本木ヒルズには森タワーがあり、高層から街を眺められるというのも大きな特徴だと思います。
交通機関を使わずに人が歩く。そして、上から眺められる。六本木の、そのふたつの要素を使ったパフォーマンスはどうでしょう。
毎年、六本木アートナイトには70万人が来るそうですが、例えば、アートナイトのときにだけ、六本木の駅に70万個、光る装置を置いておいて、来場者ひとりひとりに、身につけてもらう。光る装置を身につけた人が、アートナイトの会場や街の中を歩き回るわけですが、それを、上から俯瞰で、森タワーの展望台から見下ろすことで完成する演出ができたら、人の動きと光と街全体を使ったエンターテイメントができる。
スタジアムのライブイベントだと、来場者5万人に配ったペンライトが光ってキレイです! みたいなことってよくあるし、ビルの照明で文字を書くとかは今までもあったと思うんですけど、ポイントは、「動く光を使ったパフォーマンス」であること。今の技術であれば、ひとつひとつの光がどこにいるかを特定したうえで、動かせるんですね。個体の位置関係を使った演出もできるので、自分が演者にもなれるし、上から見るときには、演出家にもなれる。
六本木に高層ビルがあることは、当たり前のように感じているかもしれませんが、上から"俯瞰で"眺められるという環境って実はなかなかなくて、引いて見るからこそ、ダイナミックな動きを体感できることもあると思うんです。しかもそれは、その時その場所でしか出現し得ない、ライブだからこその迫力がある。ただの夜景じゃなくて、アクティブな夜景。
金額的にもあり得ない話ではないかもしれません。プロジェクトを1年単位で考えると難しいかもしれないけれど、例えば1年目は、光る装置の原価3億で、2年目は5000万に減らしていくような計画も立てられるかもしれない。3億、高いかな? でも、誰も見たことのない光景が見られると思います。
取材を終えて......
言うは易く行うは難し。インタビュー後、六本木の駅へと向かう藤本さんを見送りながら、しみじみと、そう思いました。ウェアラブル・コンピューティングを用いた「新しいダンスのジャンルをつくる」。そのためには、膨大な作業もいとわない気力と体力が必要であり、決して諦めない根気強さも桁外れに必要なのだろうと思います。それでも、実際にお会いした藤本さんは驚くほど軽やかで、自らの挑戦について、ただただ、楽しそうに話してくださいました。イマジネーションの一歩先へ。藤本さんが追い求める新しい表現の世界を目の当りにする日が、楽しみでなりません。(text_tami okano)