幼稚化ではなく大人化へ。背伸びしたくなる街を大人がつくる。
ファッションデザイナーとして自身の名前を冠したブランドを立ち上げ、20年以上第一線で活躍している丸山敬太さん。渋谷区出身の丸山さんにとってお隣にある六本木は、大人になる過程でさまざまなことを教えてくれた場所だったようです。そんな丸山さんの六本木にまつわるエピソードとともに、六本木がこれからの時代を担う若い世代にとって魅力的な街になっていくために必要なことをお聞きしました。
一時期は渋谷も新宿も池袋も、東京の街が同じように見えたのですが、景気が悪くなっていろんなものが淘汰されて、その街らしさが戻ってきましたよね。家賃の高い表通りなんかは、いまだにチェーン店が並んでいるけれども、ちょっとした路地に小さいステキなビストロができていたりして、外国の方たちがそんなところにも結構来ているんですよね。一体どうやって調べるんだろうって思うんですけど、聞いてみるとやっぱりトリップアドバイザーや口コミとかで来られるみたいで。しかも最近は、東京が通過点になってしまって、地方のおもしろいところにどんどん外国人が行くようになっているじゃないですか。外国人にとって魅力的な地方が増えていることは頼もしくもあるんだけど、東京にしかない魅力のPRが足りていないんじゃないかなとも思うんです。
トリップアドバイザー
たとえば僕らは、こうやって当たり前にアマンドのケーキなんかを食べていますけど、フランス人とかがこれを食べたら、たぶん新しい食感なんですよ。日本的にアレンジされている繊細なケーキは、本場にはむしろない。コンビニのお菓子の優秀さだって相当なものですよ。そういうことをもう一回見つめ直すと、意外な発見がありますよね。当たり前に見えるけど、当たり前じゃないことっていうのはやっぱりフレッシュだし、フレッシュなことこそがその街の個性だったりするから、もっと大事にしてほしい。そういった視点は、物事の決定権はあるけれども街に出ようとしないオジサンには、ないものですから。その点、オバサンはいつまでたってもミーハーだから、いろんなところに出かけていく。これからは脱オジサンの時代ですよ(笑)。
僕が言いたいオジサンっていうのは、年齢じゃないし性別でもないんです。若いオジサン予備軍もいっぱいいるし、女性でもオジサン化してる人っているじゃないですか。そういう人たちが引っ張ってきた社会が幅をきかせている限り、日本は何をやっても変わらない。自分の保身をやめて未来のことを考えていかないと、本当の意味で魅力的な都市にはならないですよね。
オジサンにならないためには、頭を柔らかくしておくことがとても大事。新しいものをすべて受け入れなくてもいいし、古いものをすべて拒絶する必要もないけれども、食わず嫌いが増えてしまうと、どうしても頭は固まっていくものだから。食べてみて好きじゃなかったっていうのは、その人の嗜好だからいいんですよ。だけど食わず嫌いで物事を判断するのは、オジサン化の始まりだから気をつけないと。
僕が10代の頃の六本木は、大人が遊ばせてくれる街だったから、いろんなものを見せてもらったし、食べさせてもらったし、経験させてもらえて、すごく楽しかったし、勉強にもなりました。背伸びをすればするだけ、かわいがってくれたり、引き上げてくれたりする大人がそこにはいたからね。僕らの世代がそういった大人たちのあとを継いでいないことが問題ではあるのだけど、社会っていうのは本来そうじゃなきゃいけないですよね。今みたいに何かと幼稚化するのではなく、大人として扱われたいと背伸びしたくなるような環境を大人たちがつくってあげないと、未来は変わらない気がして。
だけどなんとなく、そういう空気を最近の10代後半とか20代前半の子たちに感じることがあるんですよね。もしかしたらそれは、バブル期の親が育てた子どもだからなのかなっていう気がしていて、彼らのDNAが受け継がれているのかもしれない(笑)。今の若い世代の子たちは、海外がどうとか、日本がどうっていう変な垣根もなくて、「つながってるよねー」みたいな感覚があるから、しゃべっていると結構おもしろいんですよね。一方でつながっていると思っているからこそ、「別に行かなくてもいいじゃん」ってリアルな経験を否定してしまうところもあるから、そのすばらしさを見せてあげるのがこれからの大人の役目なのかなって思います。そうなったら、今の子たちのほうが自分のものにしていくのが断然早いから、羨ましいですよ。
最近上海に行って、よくも悪くも衝撃を受けたんです。こういう言い方をすると誤解を生むかもしれないけれども、弱者を切り捨てていく感じがすごいというか。日本はどうしても、そんなことをしたらお年寄りはわからなくなってしまうみたいな考えが先に働くけれども、上海の場合は直轄市であることも関係しているのか、国をあげて最先端を行こうとしている印象を受けました。たとえば上海ディズニーランドに行ったんですけど、アプリをダウンロードできないと、ファストパスの予約すらできないし、街で買い物をするときも、AlipayやWeChat Payがないと何もできない。現金だったら買ってもらわなくてもいいですよ、くらいの勢いなんです。なんでもかんでもQRコードが必要で、電気がなくなったらどうするんだろうって思ってしまうし、その仕組みから振り落とされてしまう人たちも当然出てくるんだけど、がんばってついてこられる人だけが便利に暮らせるような社会になっているんです。
Alipay / WeChat Pay
歪みが生じて、そのうちどこかでポキッと折れてしまうこともあり得るだろうし、こういうやり方に共感できるかって言われると考えてしまうところはあるけれど、時と場合によっては効果的なやり方なのかもしれない、とは思いました。なぜかというと、若い子たちにチャンスが与えられて、夢を見ることができる社会なんです。20代の起業家は日本にももちろんたくさんいますけど、上海は日本以上に若い子が元気で、自分たちでバリバリやっていける環境がある。しかもIT的な進化は若い世代のほうが早いから、彼らのほうが圧倒的にグローバルに仕事を展開できるんですよね。
僕なんかは、ディズニーランドでもおぼつかないくらいだから、そんなやり方は無理だと思ってしまうけど、若い子を取り込んじゃえばいいんですよね。彼らに媚びるのではなく、自分たちもおもしろがれるものを教えてもらえばいい。僕らは反対にアナログのいい時代を知っているから、若い子にアナログのすばらしさを見せてあげると尊敬してくれるんですよ。「すっげー、こんなことも手でできるんだ!」みたいにね(笑)。こんなふうに世代間の融合がこの先うまくできるようになるといいですよね。デジタルであることが新しい時代はすでに終わって、デジタルは単なるツールやスキルでしかなくなってしまった今、結局問われてくるのはセンスだったり感性だったりするんですよね。これからは人間力の戦いになることは、間違いないですよ。
人間力を磨くには、自分の頭で考えることに尽きると思っています。今は考えようとしない人が、本当に増えてしまっているじゃないですか。たとえば単純なことなんだけど、テレビのクイズ番組を漫然と見て答えを聞くのと、自分も一緒に考えてから答えを知るのとでは、記憶への刻まれ方が違うと思うんです。間違えて恥ずかしい思いをしたことは知識になるけれど、受け身で見ているだけだと全部流れていってしまうから。
同じようにオタクの人たちがすばらしいのは、好きだという思いから生まれる探究心。だからほかとは代えがたい、唯一無二のすばらしいものを生んだりするわけじゃないですか。これからはオタクの時代だと思いますよ。いろんなことを多角的にマネージメントできる人と、探究心に優れているオタクの人が一緒に何かをやっていくと、この国も街も活性化していく気がします。
安定の時代はもう終わったのだから、受験や就職の仕組みも変わらないと。だって、普段着ないような変なスーツ着て、変なパンプスはいて、変なカバン持って、就職活動をすることのまやかしは、誰もがわかっているわけじゃないですか。それなのに、企業側は個性的な人間がほしいとか言っちゃうわけで......。その歪みを早くどうにかして、若い子たちが呪縛から逃れられるようにしてあげないと。
(撮影場所:アマンド六本木店)
取材を終えて......
街は人生の教室。六本木に憧れて、背伸びをして通った日々の話を聞き、そんな言葉が思い浮かびました。多感な時期の経験は、その後の人生に多大な影響を与えているはずです。「ミーハーであることは、自分の性みたいなもの」という丸山さん。ファッションデザイナーという職業でなくても、ミーハーな心を持ち続け、世の中の流れに敏感であることの大切さを感じるとともに、六本木という街が常にそれに応えていくためには、ということを考えさせられるインタビューでした。 (text_ikuko hyodo)