進化するテクノロジーが、音楽を、街を、もっとおもしろくする
YUKI、Superfly、ゆず、エレファントカシマシ、木村カエラ、Chara、JUJU...。現在の日本の音楽シーンを代表する数々のアーティストたちへの楽曲提供やプロデュース、アレンジを手がけてきた蔦谷好位置さん。たしかな技術と知識、伝統を重んじながら常に新しい領域での活動を続けてきた蔦谷さんが語る、音楽の進化に必要なこと、六本木の可能性、終わらないクリエイションへの挑戦について。インタビューは今回撮影を行なった六本木西公園の話から。
いまから約15年前の26歳のとき、いちばんお金がなかった頃に、チャンスがあればいろんな人に会って自分の音楽を渡していた時期がありました。当時は1曲3万円で曲のアレンジを行うような仕事もしていたのですが、仲介をしてくれていた人と会うためによく六本木に来ることがあって。夜10時に待ち合わせをしたのに、深夜1〜2時になっても相手が来ないなんてこともしょっちゅうでした。そんなときによく、この六本木西公園あたりで時間を潰していましたね。
六本木西公園
当時は、六本木ヒルズはただ見上げるだけのものでしたが、昨年までは自分もJ-WAVE「THE HANGOUT」の仕事でその六本木ヒルズにいたりして。六本木西公園に来たのは久しぶりですが、公園の雰囲気も当時とは違っていて、ぼくも公園も変わるんだなと思いました(笑)。
音楽の面では、六本木といえば昔はディスコやクラブがありましたが、いまはそうしたカラーはだいぶ薄くなっている印象があります。ただそれは、六本木に限った話ではありません。このあいだ坂本龍一さんが、「都市の音」が2000年以降なくなってきているとインタビューで言っていました。たとえば昔は「デトロイト・テクノ」といったらデトロイトの音がしていたし、ブリストルに行けば港街らしくダブやレゲエが入ってきて融合したサウンドがあった。90年代の東京の音だって、東京ならではの音楽だったでしょう。そうした都市の音が、インターネットの登場とともにどんどん薄れてきているんです。
実際、ぼくは普段ほとんどインターネットで音楽を聴くんですけど、たとえばSoundCloudでフォロワー数がまだ1,000人もいないのにめちゃめちゃおもしろいやつが、ニュージーランドやベネズエラにいたりする。昔は音楽って街やストリートから生まれてきたと思うんですけど、いまはインターネット自体がストリートになっている。だから、大事なのは街のカラーではなく個人のカラーなんですよね。
街の意味が薄れてきたときに、六本木で何ができるのか。六本木には、世界有数のIT企業がたくさんありますよね。ミュージシャンは、そういう人たちと一緒に何かやっていくべきだとぼくは思うんです。
たとえば今年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト。毎年3月に米テキサス州オースティンで行なわれる、「音楽・映画・インタラクティブ」をテーマとしたカンファレンス&フェスティバル)では、starRoという日本人DJが「Cyber Teleportation Tokyo」と題された、世界初の「グローバル・インタラクティブ遠隔ライブ」を行っていました。これはオースティンにいるstarRoが、東京にいる向井太一などのシンガーやダンサーたちと一緒に行った試みで、日本のアーティストたちの映像がAR(拡張現実)となってオースティンで3Dで投影されたんです。このように、最先端の技術を使った面白い取り組みを、SXSWのようなグローバルな舞台と連動して、ここ、東京・六本木から発信していければ、六本木らしいおもしろいことってまだまだできるんじゃないですかね。
「SXSW」(サウス・バイ・サウスウエスト)
「CYBER TELEPORTATION TOKYO at SXSW」
音楽の進化は、やはりテクノロジーの発展とともにあったと思います。シンセサイザーなどの新しい楽器ができたことで、新たな音楽のジャンルが生まれる。レコードやラジオ、インターネットといった新しいメディアによって音楽のあり方も変わっていく。ぼくら音楽のつくり手は、そうした技術の進化には対応していかなきゃいけないと思っています。
プリンスは2015年のグラミー賞で「Albums still matter」と言いましたが、アルバムの概念は、CDやレコードに収められる曲のパッケージですよね。であれば、CDやレコードが姿を消しつつあるいま、実はアルバムにする意味はないんですよね。ドレイクは今年、アルバムではなく「プレイリスト」として作品を出しているんです。それはもう2歩も3歩も先を行っているような感じがします。決して海外のアーティストを安易に真似する必要はありませんが、こうしたおもしろい流れはどんどん取り入れていったほうがいい。
More Life
たとえば音楽のつくり方にしても、以前まではコンピューターのスペックが必要だったから、どうしてもPCにSSD(フラッシュメモリ等を用いた記録装置。高速だが高価)をいくつも入れて使わなければいけなかったのですが、いまではMacBook Pro 1台でどこでも作曲できる環境が整いつつあります。すると、これまではコンピューターのある自宅やスタジオで行わなければいけなかった音楽づくりが、世界中の人と移動しながら曲をつくるようなこともできるようになってくる。将来的には音楽づくりのツールはMacBook ProからiPadになり、もしかしたら何もないところに手をかざすと画面が出てきて音楽がつくれるようになるかもしれません。そんな未来がきたら最高だと思いますね。
もうひとつ、『攻殻機動隊』のように頭にUSBみたいなものを差すことで自分が頭のなかでイメージした音楽を再現できたり、人が音楽を聞いたときに感じる、心の奥底の感情を知ることができたりしたら面白いと思っています。人がどう思うかを意識して曲をつくるのは良くないかもしれないと思いつつも、人の感情をどう動かせるかという経験の集大成を活かして音楽をつくっているところもあります。たとえば、この和音を弾いてから次はこの音を鳴らしたらあの人を泣かせることができる、●●すればあの人を楽しい気持ちにさせることができる、といった膨大なインプットがぼくの頭のなかにあって、音楽をつくるときはいつもそれを引き出しているんです。だからもっといろんな人の感情を知ることができたら、自分のつくる曲の広がりが更に出るのかもしれない。テクノロジーによってそんな未来が実現するのなら、利用しない手はないと思うんです。答えはまだ出ていませんが、「音楽×テクノロジー」の新しい取り組みが六本木から生まれたら最高ですよね。