知っている人だけが動かせる六本木の裏技集をつくりたい
現在、六本木ヒルズ展望台 東京シティビューで開催中の「HUAWEI presents 星空のイルミネーション」。同イベントで展示されている「星にタッチパネル劇場」をはじめ、アンリアレイジのパリコレクションやBUMP OF CHICKENのARアプリ、「ミュージックステーション」と連動したダンシングタモリARなど、数々の話題作を手がけるAR三兄弟の川田十夢さん。なんでも六本木でやってみたいことがあるそうで......。
ミシュランのようなガイドブックがあることで、地域に別レイヤーができて、街が今までと違って見えることってありますよね。ミシュランの場合は、星で味とかお店の格調を表しています。僕らがやってるのは「格調」じゃなくてうっかり「拡張」のほうですけど、そういう基とつ加わることで街歩きが楽しくなる。
それと同じような感覚で、昔の『ファミ通』にあったような、六本木の「裏技集」をつくりたいです。知らない人は通りすぎちゃうし、ちょっと不思議なことがあったなで終わるけど、知っている人だけが動かすことができる。反転する特権階級。
そんな裏技が街に点在していたら、旅行で来た人も、次はあそこに行ってみよう、あれを試してみようって、裏技ベースで街を回ってみたいと思うんじゃないかな、と。裏技集は、六本木ヒルズとか東京ミッドタウンのガイドブックが置いてあるラックに差し込まれてたりして、それを見つけるところから冒険ははじまっていて。
HUAWEI presents 星空のイルミネーション
都市って、一方的な気がするんですよね。デートや観光をするにしても、仕事しに来るにしてもそうですけど、ただそこにある機能を享受しているだけというか。だから1個でも、利用者や都市生活者側からの接点があったらいい。
できれば、街にあるもので裏技が使えたほうが楽しいので、コナミコマンド「上上下下左右左右BA」みたいな感じで、エレベーターのボタンをある順番で押すと、中がダンスホールになるとか。ボタンがないところではスマホを使って、飾ってあるオーナメントの色を変えられたり、BGMを変えられたり。
美術館の係員さんとか、人を動かすのもありですね。よくドラマとかで、バーのカウンターでスーっとグラスが流れてきて、「あちらの方からです」みたいなシーンがありますけど、それがさりげなくできるようになるとか。
もちろんアートがあって、それを観にいくっていうのもいいんですけど、成熟しつつあるメディアアートは、そろそろひとり歩きしてもいいかなと。街に点在する裏技があって、それが機能する。知っている人はそれが使えて、自分がまるでハッカーになったように感じられるし、たくらみに参加したみたいな感覚になれる。
「あそこに行ったらさ、こんなことできるよ」みたいな裏技が全国に広がっていったら、めちゃめちゃ楽しくないですか? この「ファミコン感覚」は、僕が小さい頃からずっと温めていたアイデアなんです。
今やっている「星にタッチパネル劇場」にも、実は裏技があって、たとえば、スマホで絵文字の寿司(🍣)を打ち込むと「スシ食いねェ!」が流れるんです。他にも、温泉のマーク(♨)だと「♪ババンババンバンバン」、爆弾マーク(💣)で「♪ドカンと一発〜」、おばけのマーク(👻)とQで「♪あのね、Q太郎はね〜」、サングラスと風鈴(🎐)だと「少年時代」、井上陽水ですね。
星にタッチパネル劇場
100個くらいあって、自分でも忘れちゃうくらい(笑)。あと最初の頃は、ド派手にスタッフの名前が出る「関係者喜ぶボタン」とか、コマーシャルが流れる「スポンサー喜ぶボタン」とかもありました。
僕らがつくるものには、だいたい知っている人だけが楽しめる裏技を用意しています。そういうものがあったほうが楽しんでもらえるというのはもちろんですが、開発者的な視点でいえば、プログラムがちゃんと動いているかどうかを確認するデバッグ機能の意味もあるんです。何も言わないと見つけられる人はほぼいないので、さわりだけ教えてあげて、あとはご自由にっていうスタンス。説明してしまった時点で、裏技ではなくなってしまいますからね。
六本木には「矢印」が集まってるというか、常にライトが当たっていて、それに当たりに来る人もいれば見に来る人もいる。そこが、他の街とは大きく違いますよね。ちなみに僕は、J-WAVEでレギュラー番組をやっていたので、毎週この街に来ていたし、スーデラ(スーパー・デラックス)でよくライブもやっていました。
あるとき、モー娘。の「恋のダンスサイト」の「セクシービーム!」っていうセリフに合わせて、乳首からビームが出るっていうだけのARシステムをつくって夜な夜な勝手に盛り上がっていたんです。そうしたら、なぜかハロプロの人たちが急きょやって来るって話になって、「やばいやばい、こうやって業界から干されてゆくんだ。もう三兄弟は終わりだ......」と思ってたら、「めちゃくちゃ面白いじゃないですか!」って言ってくれて。それがきっかけで、スマイレージのデビューCMをつくらせてもらって、出演までしました。
そのとき僕、この街とは相性がいいなと思ったんですよ。「星にタッチパネル劇場」も2回目ですし、「奇跡の街」っていうか、六本木に来るといいことがあるなと思います。(三兄弟の)三の倍数つながりだからかもしれません(笑)。
地上52階に美術館があったり、東京シティビューみたいに抜けのいい空間があったり。六本木って、ここからがアートだよとか、ここからが公共空間だよっていう境界線が曖昧なところが魅力。「星にタッチパネル劇場」にしても、冬で夜景がきれいに見える空間だからこそ、機能するファンタジーがある。六本木じゃなかったら、ああいう企画は考えてないと思います。
「星にタッチパネル劇場」は、本当の星を全部再現しているんです。地球を取り巻く宇宙を天球として全部再現して、東京の六本木ヒルズの東側の窓から空を見上げるという設計。街が明るすぎるからふだんは2等星までしか見えないけど、本当はその場所で見えているはずのものを、ちょうど部屋の照明を調整するみたいに12等星まで可視化できるようになっています。夏と冬で見える星座が違うように地球は動いていますし、誰かが別の機能を使えば時間を早送りしたり巻き戻したりもできる。つまり、その時間、その場所だけ、二度と同じ空模様は現れない仕様です。
月や太陽といった惑星の大きさも実際の縮尺がベースで、科学的に実証されている事実を基にしています。ただ寿司を流せる楽しい仕組みだと思われてしまうこともありますが、実はわりとこだわりがあって。パリならパリの空というように、デフォルト値さえ変えれば、世界中で展示ができる。発想が天才すぎて、まだどこの国からも全然声はかかってないですけどね。理解と評価と時代が追いついたら、海外での展示も検討します(笑)。