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INTERVIEW
181
狩野佑真デザイナー Yuma Kano / Designer
Yuma Kano / Designer

『都市のなかで、木材の背景に思いを馳せる場をつくりたい』【後編】

デザインの手法を使って、既存の価値を変えていく。

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update_2026.10.21 photo_ yoshikuni nakagawa / text_risako hayashi

「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2026」にて、《ForestBank|Made in TOKYO MIDTOWN》を発表した、デザイナーの狩野佑真さん。本作は、狩野さんのプロジェクト《ForestBank》から生まれたインスタレーション。東京ミッドタウンの敷地で剪定された枝葉を利用して作られたスツールと、奈良県御杖村から切り出された針葉樹、岐阜県飛騨古川町から切り出された広葉樹とをあえて並置することで、木という素材が辿ってきた道のりを想像させ、ひいては私たちの身の回りにあるさまざまな素材の価値を再発見することを促します。あらゆるものに潜む可能性を、デザインによってすくい上げる狩野さんの、「価値がないものはない」という信念にはどのような背景があるのか。そして、狩野さんのデザインの根底にある探究心の源に迫ります。

前編はこちら

自分がやりたいのは、マイナスやゼロの状態を1にすること。

 今回の「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2026」(以下、「DESIGN LIVE」)にも出品する《ForestBank》について、木の断面が面白いと言ってもらえることがあります。木の断面は誰もが一度は見たことがあるはずですが、それでも作品を通してあらためて面白いと気付いてもらえる。そんなふうに、自分がデザインしたものから素材の価値を再発見してほしいと常々思っています。

《ForestBank》

《ForestBank》

狩野さんが手掛けるマテリアル《ForestBank》は、本来なら資源として活用されにくい小径木や枝葉、土など樹木にまつわるさまざまなものを水性アクリル樹脂と混ぜ合わせて制作されている。森林をめぐる課題や可能性についてリサーチし、その豊かな価値を表現するべく、さまざまな実験を経て新たなマテリアルとして開発された。通常の木工加工が可能であり、家具やプロダクトに応用されている。
画像:ForestBank(2021年~)

 誰しも、子どもの頃に道端で枝を拾ったり、海辺できれいな石を拾ったりした経験があると思います。あれって適当に選んでいるわけではなく、何か理由があってピックアップしているんですよね。なぜか気になる、面白そうだ、なんとなく好きだという感覚は、大人にとってもすごく大事なものだと思います。

 子どもの視点で街を歩いてみると、普段は見過ごしてしまうものも目に留まります。たとえば、道に落ちている枯れ葉。拾い上げてよく観察すると、グラデーションが綺麗だったり、虫食いの穴が何かの形に見えたり。あるいは洗濯乾燥機のフィルターの埃は、なんであんなに綺麗な四角形になるんだろう、とか(笑)。あと、髪の毛は枝と同じように、放っておけば無限に伸びてきますよね。こんなふうにもの本来の面白さを、作品によって再発見してもらいたいんです。

 どんな素材を取り上げるかは、そのときどきの好奇心に従っています。自分が面白さを見いだせるかが大事で、そうでないと苦しい時間が続いてしまう。だから常に、好奇心のアンテナは張っているつもりですが、それは今日と明日でまったく違うものに反応したりもするし、固まってはいません。

 世の中には、既存の価値をデザインによってさらに高めるデザイナーもいる。そんなふうに、1を5にしたり、10を100にしたりする役割も重要だと思います。ただ、僕はマイナスやゼロの状態のものを1にする過程がとにかく好きなのです。デザインという手法を通して、既存の価値観を変えてみたい。今は、その気持ちがマテリアルをつくることにつながっていますが、数年後には、思想は同じままに、まったく違う表現をしているかもしれません。

どんな素材でも、価値がないものはない。

 価値がないものはないというのが、自分の基本的なマインドです。デザインの手法をひとつ加えて、ゼロのものに価値を出す。ただし、過剰に価値があるように見せかけるのではない。嘘をついてはいけない。また、作品を見てくれた人に、何からアップサイクルされたのか、どんな技術を使っているかといったことを、すべて伝える必要もないと思っています。純粋に「面白い」「可愛い」とポジティブな印象を持ってもらえたら、デザインの役割は十分に果たせているのではないでしょうか。

 《ForestBank》は、森の豊かな表情をそのままマテリアルにできないかというコンセプトから始まったプロジェクトです。実は去年、森の正反対にあるものは都市だと捉え、同じ手法で都市からもマテリアルがつくれないかと試してみました。基材は《ForestBank》と同じ水性アクリル樹脂で、そこにビルの石材、窓のアルミサッシ、アスファルト、レシートの紙、リモコンのプラスチックなど、都市のあらゆるものを混ぜ入れました。あまたある素材をどう配置するかはある程度デザインしていますが、できあがった板には、まるで化石のような表情が生まれます。

 森から都市に置き換えるだけなので、発想自体はシンプルです。けれど、実際につくってみると制作はかなり難航しました。都市から採れる素材は重さも特性もバラバラで、マテリアルとして集約するのがとても難しかったんです。今はまだプロトタイプの段階ですが、これから本格的に展開していきたいと思っています。

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空白の広場には、無限の可能性がある。

 今回の「DESIGN LIVE」では、《ForestBank|Made in TOKYO MIDTOWN》を展示しています。挑戦したかったのは、芝生広場に「木と人の居場所」をつくることでした。そのため、作品は、実際に座ったり触れたり、来場者が主体的に体験できるような構成にしました。

 今年の「DESIGN LIVE」のテーマが「みつめる」だったため、木という素材を見つめ直し、その可能性を再発見してほしいと考えました。この作品では、ミッドタウンで剪定された細い枝葉も使っていますが、その横にあえて山から切り出された荒々しい姿の生の丸太や有機的な形状そのままの枝も置いています。解像度が異なるスケールの"木"を並べることで、木が持つさまざまな表情・質量・質感を見比べられる構成にしました。

「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2026」

「TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2026」

「あたりまえの日常が、おもしろくなるデザインイベント。」をスローガンに、多彩なプログラムを通じて日常に潜むデザインの魅力や価値を再発見するデザインの祭典。メインコンテンツは、国内外で活躍するクリエイターの作品が集結する本格的なデザイン作品の展示「DESIGN LIVE EXHIBITION」。今年は「みつめる」をテーマに、19組のクリエイターが参加している。東京ミッドタウンを会場に、10月16日(金)から11月4日(水)まで開催。
画像:狩野さんの作品《ForestBank|Made in TOKYO MIDTOWN》

 ここでは、木という存在を通して、都市のただなかにいながら、山や林業・木材加工業といった産業にまで思いを馳せてもらう。そして、木の可能性について掘り下げて想像してもらうこと。それが今回の狙いです。

 制作のために六本木に通うなかで感じたのは、都市には街路樹や公園こそあれ、素材になりそうな枝は意外なほど落ちていないということ。落ちていても、たいてい誰かが端に寄せている。都市とは、誰もが安全に歩けるように維持管理されている場所なのだと思います。

 街という規模でデザインを考えるとき、それは数年スパンでは終わりません。その成り立ちからそこで営まれる暮らし、人口の増減、川や地形といった地理的な条件まで、あらゆる要素が積み重なっているからです。そこにただ「かっこいい」デザインが現れても、その街に置かれる意味は少ない。街におけるデザインとは、その土地ならではの特長をすくい上げ、アップデートしていくものであってほしいですね。

 「DESIGN LIVE」の会場になっている東京ミッドタウンの芝生広場は、六本木の街にとってとても重要な存在だと思います。展示空間として意識するようになってから、こうした余白のある場所は、最近の都市にはあまり見かけないものだと気が付きました。

 そもそも、芝生広場になっているあの場所に、何も常設しないという判断はすごく思い切ったものだったのではないかと想像します。普通なら、何か建てて経済を回した方がいい、店舗をひとつふたつ入れた方が面白くなると思うかもしれない。しかし、空白にするとは、可能性を無限にすることでもあります。空白があるから、人々の交流が生まれたり、小さな催しが行われたりする。そこで何かをしてもいいし、何もしなくてもいい。そういう空間が、都市のなかにもっと増えればいいと思います。道端のベンチが増えるだけでもいい。目的が定められていない場所が多い方が面白い気がします。

 街の魅力という意味では、あるプロジェクトでよく訪れた、愛知県常滑市が印象に残っています。常滑の街を歩いていると、家の基礎や道路に焼き物の破片が使われていたり、民家の植木鉢が、もともと別の用途で使われていた焼き物だったりする。その土地の歴史や産業と生活がきれいにリンクしていて、それが街のビジュアルをつくっているんです。そういう風景は、実はなかなかないと思います。

自分の興味から始まる制作には、終わりがない。

 《ForestBank》や、錆を素材にした《Rust Harvest》のシリーズは、もともと自主プロジェクトとして始めたものです。結果的に、店舗やプロダクトへの活用の依頼をいただくことも増えてきたのですが、もともとは純粋な興味から始まっているもの。完成したら終わり、ということがないんです。ときには、クライアントを巻き込むことで、思いがけない展開をすることもあります。それも楽しいですし、自主的な研究として長く続けてきたことからこそ、未だに新しい発見があります。

《Rust Harvest》

《Rust Harvest》

《Rust Harvest|錆の収穫》は錆にフォーカスした実験プロジェクト。狩野さんは、錆の複雑で美しい色に着目。さまざまな実験を繰り返すなかで、錆びた金属板から錆のみをアクリル樹脂に転写する技法の開発に成功した。転写によって、本来は変化し続ける錆の、ある一瞬の様子が模様として残る。この模様が、唯一無二の柄として展開されている。
画像:Rust Harvest(2018年~)

 自身の好奇心の赴くままに始めたプロジェクトは、数年経った今でもまったく飽きていませんし、これから試してみたいこともある。プロジェクトへの好奇心や興味がなくなったら、そこで初めて終了するのだと思います。もしくは、やりきってしまったと思ったら、そこで足を止めるかもしれません。ただ、今は、まだまだ興味がつきない。これからの人生でも、こうしたプロジェクトが増えていくのが楽しみです。

撮影場所:東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン

取材を終えて......
狩野さんの言葉には「価値がないものはない」という一貫した思想が流れていました。印象的だったのは、ポートレートを撮影中のこと。狩野さんが手に取った、他人からすると何気なく選ばれたように見える木の枝は、よく見ると部分的にまだ青々としている。狩野さんがその青い部分を指し、「どこまでを木とするか難しいんですよね」と仰っていて、つまり木質化する前の柔らかい状態の枝は、完全に木とは言えないということをそのときにはじめて知りました。植物学では当たり前の知識かもしれませんが、狩野さんに言われなければ、木と定義するのに条件があることも、枝に鮮やかなグラデーションがあることも気づかず見過ごしていたかもしれません。(text_risako hayashi)

前編はこちら

狩野佑真

狩野佑真 / デザイナー
狩野佑真 / デザイナー

1988年栃木県生まれ。東京造形大学 室内建築専攻にて沖健次氏に学び、倉俣史朗の思想に触れる。卒業後、アーティスト鈴木康広氏に師事しアシスタントとして経験を積み、2012年に「STUDIO YUMAKANO」を設立。2023年に「株式会社NOU」として法人化。ネジ1本の小さな存在から都市の断片、森の枝葉やうんちに至るまで、あらゆるものに潜む可能性をすくい上げ、マクロなコンセプトメイキングからミクロなディテール検証に至るまで発想のスケールを自在に横断し、実験と試作を重ねながら新たな価値へと昇華していく。その活動は領域を横断し、プロダクト、インテリア、マテリアルリサーチ、空間演出を越えて、デザインを通して世界の見え方そのものを更新し続けている。

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