
イレギュラーを面白がる、公園で遊ぶようなものづくり。
自由な発想で「顔」を完成させる『かおノート』、パンダの親子が銭湯を訪れる『パンダ銭湯』、めくるとカラフルな動物のパンツが現れる『しろくまのパンツ』—— 切り絵を中心としたユーモラスな絵本の数々で人気のtupera tuperaは、亀山達矢さんと中川敦子さんによるクリエイティブユニットです。2002年の活動開始以来、Eテレ『ノージーのひらめき工房』のアートディレクションや絵本原画の展示を含む体験型の展覧会、舞台美術など、三次元の空間や場のデザインにも仕事の領域を広げてきました。現在、その四半世紀の歩みを振り返る「MIX WORKS —— tupera tuperaの仕事2002–2026」展を開催中です。そんなお2人に、多岐にわたるものづくりにかける姿勢や、子どもから大人まで楽しめる体験づくりへの想いを伺いました。
亀山僕たちの展覧会は「子どものための展覧会」といわれることもあるのですが、「子ども向け」としてつくっているつもりはなくて、むしろ大人にも楽しんでほしいという気持ちで全部つくっています。子どもってめちゃくちゃ面白いんですよ。でも子どもの面白さをわかっている大人は必ずしも多くなくて、その面白さをわかる大人が増えればいいなって思うんです。
中川小さい子であればあるほど、素直な感受性で、面白いものは面白い、嫌いなものは嫌いって判断できるけれど、大人になるにつれてそのような「感じる力」が失われていってしまいますよね。私たちの展覧会は、裏に何か鋭いメッセージがあるようなものではないですが、「面白がれる力」を持つことは大事だと考えています。大人と子どもが一緒に展覧会に行き、素直に楽しんでいる子どもと、それを見てハッとする大人、さらに言えばその場を楽しんでいる大人を見て、子どもが「今日のお父さん、お母さん楽しそうでいいな」って喜んでいる。そんな場がつくれたらいいなと思っています。
亀山子どもの「感じる力」ってすごいですからね。文字が読めなくても、僕たちが思ってもみなかったようなことを絵から感じている。逆に大人は文字を読めてしまうから、ある程度型にはまった考えしかできなかったりします。でも、どの大人も「子ども経験者」なんですよね。「元・子ども」であることは世界中の大人の共通項です。大人がいかに「子ども」を面白がれるかということは、これからすごく重要になってくると思います。つまらないことをするのは大人ばかりなので、大人が子ども以上にもっと面白くならないと。子どものようなものの見方やユーモアがあれば、日々の生活でもたくさんの気付きがあるのではないでしょうか。展覧会を通して大人に何を感じてもらえるか、ということは、僕としてはすごく重要です。
亀山僕は子どものころからスーパーに行くと、野菜が全部生き物に見えていました。さつまいもがモグラにしか見えなかったり(笑)。そんなふうに、子どもがやっているような何かを何かに「見立てる」ということを、いまもやっています。『わくせいキャベジ動物図鑑』でも、一度キャベツを惑星だと思えば、途端にいろんなことが見えてくる。あとは2人で掘り下げていくと、思いがけない気付きがどんどん出てくるので、そのプロセスがすごく楽しいですね。きっかけは馬鹿馬鹿しいことなのですが、馬鹿馬鹿しいことを本気で楽しめば、わけのわからない世界が生まれるということは、この作品で実証されているなと思います。
『わくせいキャベジ動物図鑑』
地球から831光年離れた銀河のかたすみにある「惑星キャベジ」。ダイコンイカ、ニンジン、トマトン、モロコシギツネなど、そこに暮らす28の"野菜動物"たちの特長や生態を解説した絵本図鑑。2016年にアリス館から刊行され、第23回日本絵本賞大賞作。
『わくせいキャベジ動物図鑑』アリス館 2016年11月発行
中川やりきることが大事なんです。クリエイターとしては、アイデアを責任持ってつくりあげて、その世界を見せることが重要だと思っています。そうでないと、ダジャレで終わってしまうので。
亀山『わくせいキャベジ動物図鑑』では「新種の生き物が見つかったら送ってください」と言っていたら、2,000以上の新種が全国から集まりました。それが本当に面白くて。こんなふうに、ひとつのきっかけからみんなが共感していけば、面白い世界がつくれるんじゃないかな。
中川昔は何かをインプットしようと思ったら、街に出たり、本屋や図書館に行ってみたり、映画を観てみたりしていたけど、いまはSNSやスマホによって、ぼーっとしていても勝手にインプットされてしまうということが増えていますよね。そうすると、それだけで満たされてしまって、偶然面白いものと出会う余裕がなくなってしまう。でも、何もない時間があるときに、ひとつのテーマをふと当てはめてみると、その場でしか生まれないアイデアが生まれて、面白いことが進んでいくということは確実にあって。やはり、そうして体感したことは面白いですよね。たとえ数分だとしても、リアルに体で感じることっていいなと思います。
亀山最近はプロジェクションマッピングやデジタル美術館などもありますが、僕は一方通行的に人々が見させられてしまっている、というようなものはあまり得意ではないんです。そうではなくて、その場にいる人たちと、このメンツでしか生み出せないものや遊びをいかに生み出すか。日本中でワークショップなどを行ってきましたが、面白い人はどんな場所にもたくさんいるので、その人の中からアイデアなど何かが引き出されるようなものがいいなと思います。
中川さまざまな場でデジタル化が進んでいますが、アナログなものや、手づくりの温度感の価値は、この先も変わらないと思います。自分たちも年を重ねて、昭和の人間だなと感じることも多いのですが、人間そんなに変わらないので、戻ってくるところは一緒なのではないでしょうか。
亀山先々のことはわからないですが、僕も手でこしらえるようなものは残っていくのではないかと思います。結局みんな手でつくることが好きなのではないでしょうか。そういう意味で、この先のことはまったく心配していないですね。

中川私たちはこれまでも、「その場所だからできること」を大切にしてきました。だから六本木でもこの場所ならではのことができたらいいですよね。六本木って子どものころはちょっと怖くて、背伸びして行くところというイメージがあったのですが、大人になってからはミッドタウンや美術館もできて、いまはアートの街という印象もあります。子どもがまだ小さいときには、ミッドタウンの公園で友達とご飯を食べたり、ブックディレクターの幅(允孝)さんがやっていた本の企画にみんなで行ったりしたことが思い出深いです。
アートの世界もあったり、昔から変わらない部分もあったりして、かっこいい大人も悪い大人も、いろんな人がクロスする場所。そこに私たちが何かを仕掛けておいて、多方向から全然違うタイプの人々が入り込んできて、そこでしか起きないことが起こる、みたいなことができたら面白そうだなと思います。漠然としていますが、自分たちの作品を発表するのではなく、そんなきっかけだけを置いておくようなことができたらいいですね。
亀山子どもも大人も海外の人も、いろんな人がいるのが六本木の街ですよね。僕はみんなで会議をして、年一で六本木のお祭りを考えるというのも楽しそうだなと思いました。いろんな人がいるからクリエイティブ面でほかとは違うことができそうですし、「六本木では毎年わけわからないお祭りが開催されている」ってなったら面白いですよね。子どもが主体で考えて、大人が真剣に形にするというのもいいかもしれません。子どもを子ども扱いしているうちに、すぐ大人になってしまいますからね。やっぱり大人が「面白い大人」の姿を見せないと。子どもは未来でしかないから、「大人って面白いな」ってならないと未来が続いていかないですよね。
亀山これから行ってみたい街やもう一度行きたい街もたくさんあります。でも、いまのところ一番好きなのは、自分たちの住む京都の街かもしれません。京都に住んで10年になるのですが、年々面白くなっていくんです。家の前に鴨川があるのですが、水がきれいで鳥もたくさんいるし、本当に心地良くて。それにご存じのとおり歴史のある都なので、いちいち気付きがあるんですよ。僕はランニングが趣味なのですが、走っていると紫式部の墓に出会ったり、角を曲がったら「応仁の乱勃発地」って書いてあったり。食べ物もおいしいし、コンパクトだからどこへも自転車で行ける距離なのもいいですね。
どこに行ってもみんな京都の話をするんですよ。たとえば去年ポルトガルに行ったときも、そこで出会った人が「俺が京都に行ったときは......」という話をしてくれる。東京ではあまりそういう経験はなかったのですが、「京都から来た」と言うと、みんなが京都の思い出を語ってくるんです。そうやって会話がつながっていくのがいいなと思っています。
中川私たちとご縁のある場所だと、城崎温泉もコンパクトに温泉街が固まっていて良いなと思います。城崎温泉旅館経営研究会が立ち上げた出版レーベルで『本と温泉』というプロジェクトで絵本を出したのですが、そのご縁で深く繋がり、よく行っています。街の人たちが元気で、いつ行っても愉快で楽しいです。イベントや展覧会でも日本国内、いろいろな場所に行っていますが、国内には大好きな街がたくさんあります。最近だと、八戸もおいしいものがたくさんあって、人もノリがよく、素晴らしい街でした。
亀山武蔵野美術大学美術館での展覧会「MIX WORKS —— tupera tuperaの仕事2002-2026」は、これまでの仕事をまとめた展覧会です。500点ほどの作品を展示するのですが、本当にいろいろやってきたなあとあらためて思います。
「MIX WORKS —— tupera tuperaの仕事2002-2026」
tupera tuperaが結成から四半世紀のあいだに手がけてきた全領域の仕事を、500点近くの作品によって俯瞰する展覧会。これまでに制作した約50作の絵本と原画を一堂に展示するほか、制作資料や立体物、プロダクト、映像、写真、ワークショップ記録など、その多面的な仕事の全体像を総覧することを試みる。会場は武蔵野美術大学美術館。会期は2026年9月14日(月)〜10月25日(日)。
中川「ぼくと わたしと みんなの tupera tupera 絵本の世界展」のとき、それまでつくってきた絵本をずらっと並べて、自分たちを客観的に見たことによって気付いたことがたくさんあって、そこから「tupera tuperaのかおてん.」のような体験の場づくりを行うなど、次のスタートを切れたようなところがありました。今回は、これまであまり紹介していなかった仕事も初めて並べてみるので、それを俯瞰してやりきったときに、また全然違うことを思いつけるんじゃないかなって思っています。そのあとはすべてを投げ打って、何もしないということをしてみたいですね(笑)。良い意味で、一回、間をつくることで次に生まれてくるものがあると思うので。
亀山ありがたいことにいまはさまざまなお仕事をいただけていて、つくる約束もたくさんあり、日々違う毎日を楽しんでいるので、仕事で「今後はこれをやりたい」ということはないのですが、大学のころに南米に行きたいと思っていたけど結局行かないままだったので、やっぱり南米に行きたい(笑)。いろんなものをつくるのが楽しいので、これに関してはやめられないのですが、一度リセットするために思ってもみなかったことをやりたいなとは考えています。
撮影場所:六本木けやき坂通り
取材を終えて......
自分たちの展覧会は「子ども向け」にはつくっていない、という亀山さんの言葉が印象的でした。子どもを子ども扱いせず、考える力を持つ1人の人間として尊重しているからこそ、誰もが楽しめる作品や場が生まれているのだと感じさせられます。取材は京都のご自宅とオンラインでつないで実施しましたが、これまでつくってきた絵本やプロダクトを、楽しそうに次々と見せてくれるお2人。自分たちの作品を何よりも自分たち自身が面白がっている、その姿に理想のものづくりのあり方を見たような気がしました。現在も多くの仕事が進行中だというtupera tuperaが、次はどんなアイデアで楽しませてくれるのか、いまから楽しみです。(text_minami goto)
