
イレギュラーを面白がる、公園で遊ぶようなものづくり。
自由な発想で「顔」を完成させる『かおノート』、パンダの親子が銭湯を訪れる『パンダ銭湯』、めくるとカラフルな動物のパンツが現れる『しろくまのパンツ』—— 切り絵を中心としたユーモラスな絵本の数々で人気のtupera tuperaは、亀山達矢さんと中川敦子さんによるクリエイティブユニットです。2002年の活動開始以来、Eテレ『ノージーのひらめき工房』のアートディレクションや絵本原画の展示を含む体験型の展覧会、舞台美術など、三次元の空間や場のデザインにも仕事の領域を広げてきました。現在、その四半世紀の歩みを振り返る「MIX WORKS —— tupera tuperaの仕事2002–2026」展を開催中です。そんなお2人に、多岐にわたるものづくりにかける姿勢や、子どもから大人まで楽しめる体験づくりへの想いを伺いました。
亀山達矢僕は武蔵野美術大学の油絵学科、中川は多摩美術大学の染織デザイン科を出ているのですが、出会いは通っていた美術予備校でした。
中川敦子大学時代は各自がやりたい方向に向かっていました。卒業後、私はファッションやインテリア関係に興味を抱き、会社に入るよりも自分の手で何かをつくって発表できないかと考え、動き始めていたんです。そのころに、亀山が暇そうにしていて(笑)。亀山は自分にはない面白いものをつくると感じていたので、一度一緒にやってみようと2人で雑貨づくりを始めたのが2002年です。
亀山気楽なノリで一緒に始めたことが、24年も続くとは思っていませんでした。最初の2年間は手づくり雑貨を制作していたのですが、2004年に自費出版で出した絵本『木がずらり』をきっかけに絵のお仕事をいただけるようになりました。そこからいろいろとご縁ができて、さまざまな方が依頼をくださるようになり、それに全力で応えているうちに、アパレル関係やテレビ番組、演劇など、仕事の領域がどんどん広がっていきました。
『木がずらり』
2004年に私家版として限定1,000部で制作された、tupera tupera初の絵本作品。色とりどりのコラージュで描かれた春夏秋冬のさまざまな木が、蛇腹に折られた紙にずらりと並ぶ。現在はブロンズ新社から改訂版が刊行されている。
『木がずらり』 発行:私家版 2004年10月、PIE BOOKS版 2005年11月、ブロンズ新社改訂版 2011年2月
中川振り返ると、自分たちにとってターニングポイントになった絵本の仕事がありました。ひとつが『木がずらり』。絵本を作る面白さに気づいた作品です。もうひとつは、コクヨから出した『かおノート』で、これは私たちの最初のヒット作です。この作品をきっかけに、大人から子どもまで多くの方が作品や活動を知ってくださいました。
『かおノート』
2008年にコクヨから出版された工作絵本。52種類の「かお」をベースに、目・鼻・口などの多彩なパーツシールが付属し、シールを貼ったり、色鉛筆やペンで描き加えたりして、世界にひとつの「かお」をつくることができる。フランス語、英語、韓国語など海外でも翻訳出版されている。
『かおノート』コクヨ 2008年7月発行
亀山僕たちは、活動初期から営業活動のようなことを一度もしていないんです。ひとつずつ楽しみながら、いただいた依頼に丁寧に取り組んでいると、作品が人を繋いでくれて次の依頼につながり、面白いことになっていく。これまでずっと、そういうふうにやってきました。だから自分たちがつくるとは思ってもみなかったものばかりをつくっていて、それがすごく楽しいんですよね。でも活動の幹にあるのは絵本かなと思います。20年以上つくってきましたが、同じような本はつくらないという想いで、アイデアや造本など新しい試みを続けてきました。
中川さまざまな本をつくってきましたが、私たちは物語を読んで聞かせるような本ではなく、コミュニケーションツールになるような本が得意なんだと気付きました。もちろん私たちがつくっている絵本だけが正解だと思っているわけではありません。1人で広げてじっくり物語を読む絵本や、学べる絵本、芸術性が高く飾っておきたい絵本など、たくさんのバリエーションがあり、絵本の世界はとても懐が深い。絵本は子どもが楽しむものだと決めつけてる人も多いですが、パッと開くだけで世界を広げることができるのが絵本のいいところですよね。子どもから大人まで誰もが楽しめるという意味で、すごくいい媒体だと思っているんです。
亀山絵本は「めくる」という行為が重要なんですよね。それも自分の手で、自分のタイミングでめくるということ。さらに1人でも楽しめるけど、それを使って人を驚かせたり、笑わせたり、泣かせたりできるのが絵本の特徴。だから僕らのものづくりは使ってもらうことが前提になっています。イベントなどで会った読者の人が、「あの本、こういうふうに読んだけど面白かったよ」「あの本を読んだら、この子がこうなって」って話してくれるのがすごくうれしいんですよ。そういう言葉は自分たちのモチベーションにもなっていて、「それなら今度は違う形で、みんながもっと驚くものをつくってみよう」って思うんです。絵本は、本当にまだまだ多くの可能性があります。

亀山お互いに得意不得意はあって、中川は染織科出身で服飾をやりたかった人なので、色合わせやレイアウトが得意。僕はどちらかといえばアイデアを出すことや、少し毒っ気のあるものをつくることが好き。そんな2人ではありますが、基本的には切り絵の制作も一緒にやっているし、すべて相談しながら進めます。
中川どんなものも最初の思いつきだけでは形にならないですよね。「それ面白いね」ってなった後に企画を練っていく作業も、2人で会話のキャッチボールを重ねてつくっていくようなイメージです。本だったら、テーマを決めた後は、2人で絵になるアイデアのバリエーションをどんどん出していきます。
亀山たとえば最近出した『tupera tuperaの蚊るた』。小学館の雑誌『ぺぱぷんたす』の仕事でまず作り、その後商品化した作品です。ブックデザイナーの祖父江慎さんに「tupera tuperaのカルタ、見たいな!」と言われて、すぐ頭に浮かんだのが、蚊を叩く「パーン」という動作でした。そこからは2人でずっと「あ」から「ん」まで、絵札になるアイデアを出していって。
中川46個のワードを出し合って、それに対してどのような絵柄にするかも2人で考えています。どちらがどの絵を制作するかはいつも取り合いですね(笑)。
『tupera tuperaの蚊るた』
2026年7月に小学館から発売された、かるた史上最高にたたきがいのあるかるた。「蚊」をテーマにしたユーモア溢れる読み札と絵札はシートから自分で切り離し、箱や蚊取り線香も組み立てる仕掛けつき。自由に使える「蚊に刺され&蚊シール」も付属する。アートディレクションは2026年3月に逝去した祖父江慎。
『tupera tuperaの蚊るた』小学館 2026年7月発行
中川活動におけるテーマや先のビジョンを掲げることが得意ではなくて、雑な言い方をすれば成り行き、良い言い方をすればご縁のつながりでここまで来ました。2人で始めたときも、「ここに向かっていくぞ」という明確な目標はなく、仕事を積み上げながらやってきたという感じです。でも振り返ってみると、まずは私たちの心が動いて、「面白いな」と思えるかどうかは、どの仕事でもずっと大事にしてきたのかな。私たち2人が面白がってアイデアを練り、それが本になったり、プロダクトになったり、空間のある場になったりしてきたわけですが、それぞれの仕事で使っている脳みそが違うわけではないんですよね。
亀山みなさんによく驚かれるのですが、僕らは制作でパソコンを使わないんです。データ納品を一度もしたことがなくて、絵本や空間のデザイン、演劇やテレビ番組のセット、衣装なども、全部手でデザイン画を描いています。でも誰もそれを責めないんです。求められていることはそこではなくて。これまで絵本をたくさんつくってきましたが、僕らが紙や製本についてそれほど詳しくなくても、専門家の素晴らしい人たちがいます。僕らのアイデアをかたちにしようとすると、楽しそうに向き合ってくれるんですよね。「こんな紙もあるよ」とうれしそうに教えてくれたり。
中川『超チョウ図鑑』の蝶々の形をした製本も、すごく難しくて大変なのですが、製本所の人が「いままでの本とは違う挑戦ができて楽しかった」って話してくれました。
『超チョウ図鑑』
「シャチョウ」「ゼッコウチョウ」「デバボウチョウ」など、蝶を超える84種の「超チョウ」が勢揃いした図鑑絵本。ページをめくるたびに、個性的な生態を持つ「超チョウ」たちが現れる。本自体が蝶の形をしており、デザインもユニークな1冊。2025年にアリス館から刊行された。
『超チョウ図鑑』アリス館 2025年9月発行
亀山そういうのがすごく心地いいんです。学生と接していると、「デザインやアートの仕事をするなら、すべての領域の知識を持って何でもこなせないといけない」と思っているように感じることもありますが、僕らはそうではない方法でやってきました。依頼してくれた人と公園で遊んでいるような感覚です。「あいつ、あれが得意だから呼んでみよう」というようにいろんな人が集まって座組ができて、一緒に遊んで「またね」って別れて、それを繰り返している。いつ、誰が「遊ぼう」って言ってくれるかわからないところがまた面白くて。だから将来のビジョンはとくにありません。イレギュラーな日常を楽しみながら、予測できない来年を楽しみにしています。
亀山PLAY! MUSEUMの「tupera tuperaのかおてん.」は、ブルーシープの草刈(大介)さんが、「立川に新しい美術館ができるので、新しい展覧会を発明しませんか」って連絡をくれたんですよ。それがすごくうれしくて。その依頼の少し前、僕らは15周年に「ぼくと わたしと みんなの tupera tupera 絵本の世界展」を開催しました。美術館のホワイトキューブで飾るには絵本の原画はすごく小さいので、絵本作りの面白さを伝えようとキャプションや図録の内容などすべて自分たちが中心になって考えて、さまざまな人に力を貸してもらってつくりあげたんです。この展覧会を全国の美術館に巡回して、自分たちもすべてやり尽くしたと感じていた時期に、PLAY! MUSEUMの話をお声がけいただきました。どうするか悩んでいたのですが、「顔」をテーマにしたら面白いんじゃないかと考えつきました。
「ぼくと わたしと みんなの tupera tupera 絵本の世界展」
結成15周年となる2017年に開催された初の大規模展。横須賀美術館を皮切りに、2020年まで全国8つの美術館を巡回した。『しろくまのパンツ』や『パンダ銭湯』をはじめ、活動初期から15年目までに出版された絵本原画を中心に、そのアイデアラフや立体作品、イラストレーション、手づくりおもちゃ、映像作品などが一堂に展示された。
「tupera tuperaのかおてん.」
立川のPLAY! MUSEUMのこけら落としとして2020年に始まり、2024年まで8会場を巡回した展覧会。『かおノート』を含む「顔」をテーマにした人気絵本の原画や、2mの大きな顔が並ぶ《かお10》、さまざまな顔に仕掛けが隠された巨大インスタレーション、来場者が体を使って顔をつくる《床田愉男(ゆかだゆかお)》など、参加・体験型の作品が多数展示された。
tupera tuperaのかおてん.2020〜2024年 全国8美術館にて開催/撮影:吉次史成
亀山『かおノート』をつくってからいろんな人たちの顔が気になるようになったのですが、顔って世界中の人が1人ひとつ持っていて、見るだけでうれしいのか悲しいのかがわかったりする。人と人が言語の壁を超えて最も共感できる存在だと思うんです。だから顔をテーマにすれば、みんなが楽しんでくれる新しい展覧会がつくれるのではないかと思いました。当初は来場者の顔にかおパーツシールを貼ってもらいました。いつも展覧会を見ていると、会場にいるほかの人って邪魔な存在でしかないと思うのですが、シールを貼ることで知らない人の顔を見ても楽しめるように、と。来場者の顔も作品化したわけです。コロナ禍により、途中でみんなマスク姿になってしまったのですが。
中川完成した自分たちの作品を「どうだ」と見せて終わってしまわないように、「かおてん.」でめざしたのは、見た人になんらかのきっかけや、心の衝動を生み出すことでした。実際、「かおてん.」を最後まで見た人から、家の中でいろんなものを使って顔づくりすることがブームになったとか、街にあるものが顔に見えてきた、という声も聞きました。私たちはただ、そのきっかけとなるボールを投げているだけというか。自分たちが考えることよりも、見た人それぞれが考えることの方が面白いと思っているので、そうやって広げていってもらえるのがうれしいですね。
亀山ニフレルで開催した「あなたも愉快な生きものだ!展」では、デザインチーム、minnaさんと一緒に組んで、来場者が逆に見られる存在になってしまったり、水槽に入れられてしまったりと、人をいじってしまうような展覧会にしようと思いました。僕は昔から動物園や水族館に行くと、生き物より見ている人を観察してしまうところがあるんです。ゴリラみたいなおじさんが、ゴリラを見て喜んでいるな、とか(笑)。僕らは動物をテーマにした絵本も多いので、動物好きだと思われることも多いのですが、動物よりも全然人間の方に興味がある。展覧会などの場づくりではとくに、来る人をなんとか面白い状態にしたり、その本性を引き出したり、そういうことをするのが好きなんだと思います。
「あなたも愉快な生きものだ!展」
tupera tuperaとデザインチームminnaの初コラボ展。2024〜2025年にかけて、水族館・動物園・美術館が融合したような施設である「生きているミュージアム ニフレル」を会場に開催された。ニフレルで暮らす生き物たちを見るだけでなく、来場者も「見られる」存在として、「生きものと人との共通点」をテーマにした新作大型作品やワークショップなどが展開された。
tupera tupera×minna×NIFRELあなたも愉快な生きものだ!展 2024年3月6日(水)〜2026年1月12日(月) NIFREL/撮影:阿部高之
撮影場所:六本木けやき坂通り
