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INTERVIEW
166
松山智一現代美術家 Tomokazu Matsuyama / Contemporary Artist
Tomokazu Matsuyama / Contemporary Artist

『多様なアイデンティティを通して、街に新たなストーリーを紡ぐ』【後編】

自己や他者との多重的な対話が、かけがえのないアートになる。

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update_2025.04.16 photo_yuka ikenoya / text_ikuko hyodo

ニューヨークを拠点に、グローバルに活躍する現代美術家の松山智一さん。幼少期をアメリカで過ごし、25歳で再渡米。現地の名門美術大学院のデザイン科を首席で卒業後、紆余曲折を経て本格的にアーティストを志したという異色な経歴をお持ちです。今や世界で注目される松山さんの、東京で初となる大規模個展「松山智一展 FIRST LAST」の開催は日本的にいえば“逆輸入”。グローバルな視点でリアルに現代社会を捉えた作品を生み出す松山さんは、いかにして特異なアーティストとなったのでしょうか。

前編はこちら

露出が増えるほど、見てくれる層が減っていく矛盾。

 ニューヨークに来て最初の頃は、アーティストとして活動の機会をまったく与えてもらえませんでした。そりゃあそうですよね。アメリカで基盤をつくってきたとしても難しい場所なのに、外国人がいきなり戦えるはずがない。それでも作品を見てもらわないと何も始まらないので、勇気を振り絞って交渉して、街中の壁に絵を描かせてもらいました。ニューヨーカーは好き嫌いをはっきりと目の前で言ってくれる。反応がシンプルでわかりやすいので、街が僕を育ててくれたと言えます。

 長い年月はかかりましたが、そこから徐々に露出が増えていき、「バワリー・ミューラル」の壁画も描かせてもらいました。ところが、美術館やいわゆるホワイトキューブの大きなギャラリーで展示できるようになるにつれて、自分の作品を見てくれる人の層が減ってきたのです。美術館でアートを鑑賞する行為は、富裕層に限定され、アメリカでは人口の2割程度とも言われています。街中で絵を描いて戦ってきたなかで居心地の悪さを感じながらも、ある程度キャリアを積んできた今の自分に、何ができるのかと向き合うきっかけにもなりました。

バワリー・ミューラル

バワリー・ミューラル

1982年にキース・ヘリングが描いたことで一躍有名になった、ニューヨークのBowery StreetとHouston Streetが交わる角に位置する壁。2008年に壁画プロジェクトが再始動し、JRやバンクシーなど名だたるアーティストが作品を描いてきた。松山さんは2019年と2023年の二度、壁画を制作している。

 美術館がもつ素晴らしい機能のひとつは、僕らが生きている時代を後世に美しい過去として残すことです。そう考えると、印象派の絵画は、あの当時のパリの空気感があったからこそ人々の心に響いた。ニューヨークで生まれたポップアートも同様です。大事なのは現在との対話の図り方。それなのになぜ、芸術家もギャラリーも美術館もそこに注力しないのだろうと思うようになり、今を生きるコミュニティにメッセージを送りたいという思いから、パブリックアートの仕事を意識的に増やしていくことになります。その結果が、2020年にJR新宿東口駅前広場につくった《花尾》でした。

《花尾》

《花尾》

2020年7月、JR新宿駅東口の広場に出現した、松山さん監修のモニュメントとランドアートからなる、パブリックアート。「花を持っている人物」をモチーフにした、7mの彫刻作品「花尾」が設置され、足元には周辺のビルの看板などの色を落とし込んだ、カラフルなランドアートが広がる。「Metro-Bewilder」(メトロ・ビウィルダー)というテーマは、都会を意味する「Metro」、自然を意味する「Wild」、当惑を意味する「Bewilder」を組み合わせた造語。

パブリックアートに必要なのは、ストーリーとローカリティ。

 東京はどの街もキャラクターが薄まりつつありますが、新宿駅周辺がいまだ面白いのは、均一化されていないからだと感じています。世界一の乗降者数を誇る新宿駅には、ゴールデン街があり、LGBTQのアイコンといえる2丁目があり、北野武さんの映画の影響でインバウンド客が足を運ぶ歌舞伎町がある。日本に住んでいる人は意外と気づいていないのですが、海外から訪れた人たちにとっては興味深い文化として捉えられている。新宿こそ行ってみたい街なのです。

 《花尾》が立っている東口の雑居ビルに囲まれたエリアの景観も同様で、新宿の多種多様なカルチャーをいかに生かせるかという意味ですごく挑戦的なプロジェクトでした。むしろ、僕はそこに魅力を見出していた。パブリックアートが人々の興味を喚起し、回遊に繋げるという理想的なあり方ができている手応えがあります。

 再開発の只中に置かれるパブリックアートですが、アーティストには自分が届けた作品とそのカルチャーを、責任を持って文化遺産にしていく義務があります。メンテナンスには当然資金が必要ですから、クライアントの理解を得るという努力も然り。昨今のパブリックアートの風潮として、メンテナンスよりもあたらしいものを、という傾向がありますが、《花尾》は新宿の街に愛されているのを実感しています。

 パブリックアートは、ストーリーがあってこそ価値が生まれるものなので、ローカリティが不可欠。当然、アトリエでつくったものをポンと置いても、大抵はうまくいきません。個性が際立ち、「これは自分たちのものだ」と語りたくなるような、愛着を持てる存在にならなければいけないのです。

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つくる工程の8割は、考えて、書くこと。

 パブリックアートはメンテナンスや、その土地の将来的な価値に左右されるところもあるので、アーティストにとってリスクが高い挑戦。それでも、やっぱり興味はあります。最近だと、シカゴにあるユニークな歴史を持つ街の図書館を、巨大な壁画でラッピングするプロジェクトを手がけました。多くの人に愛着を持ってもらいながら、誰でも学べる場所という公共の機能を果たすのが狙いです。とはいえ、スマートな感じに見せるよりも、リアリティやダークサイドが多少見えたほうがアメリカらしくなる。「これが真実だよね」と思ってもらえるようなエッセンスを含ませています。

シカゴ公共図書館のラッピングアート(Chicago_Public_Library_Steinbrecher_CPAG)

シカゴ公共図書館のラッピングアート(Chicago_Public_Library_Steinbrecher_CPAG)

API(アジアン・パシフィック・アイランダー)と呼ばれる極東、東南アジア、南アジア、太平洋諸島に起源を持つ人をはじめ、黒人やアジア人、白人などさまざまな人種の人物像を描き、地元の人たちが花言葉を交えて、コミュニティの中心の場である図書館を包み込むようなイメージで手がけた。

 六本木を舞台に何かやるとしたら、外国人がいることをもっと積極的にストーリーに盛り込むと思います。今回日本に帰ってきて感動したのは、僕の展覧会の設営で外国語が飛びかっていることでした。日本のクロネコヤマトさんは、アートハンドラー業界でも世界一といわれています。それは今まで培ってきた知見と経験があるからこそですが、一歩間違えると「日本人じゃないとできない」という驕りにつながってしまう。けれども、その固定観念を取り払って、さまざまな国の人たちがプロのチームとして動いているのがいいな、と。街が彼らによって支えられている、という意味を込めて、"外国人"であることがひとつの個性としてポジティブに捉えられるようなストーリーの可能性を感じています。

 アーティストは"好きなものをつくっている"というイメージが強いかもしれません。ですが僕の場合は、第三者に見せないということであればつくらなくてもいい。なぜなら、作品に対するリアクションが僕をアーティストとして存在させてくれていて、だからこそ対話は不可欠であり、僕自身の制作工程の8割は、考えることでもあるからです。

 制作中は、基本的に紙に文字を書いてアウトプットしている時間が多いですね。ほかの人が見ても、何を書いているかわからないような単語や文章の殴り書きのようなものですが。ひとつの作品につき、40、50枚くらい書いて、新しい作品をつくるときは必ず見直します。1枚1枚がピクトグラムのような役割を担っているので、そのときの記憶を鮮明に思い出すことができる。フロッピーディスクを口の中に入れて、ロードするような感覚ですね(笑)。

「とらや」と「うまい棒」が同じ空間に並ぶ意味。

 今回の展覧会では、最後に「Tribute + Collaboration」というプロジェクトの展示スペースも用意しています。ここで行った協業はどれも、ゴールや予算など決めずにスタートしました。なのでたとえば、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEとはTシャツ1型つくる話からスタートしたのに、インスピレーションの倍返しのやり取りを重ねた結果、なぜかコートができあがっていた(笑)。商業路線に一切乗っていないんです。見ればきっと、ただのコラボレーションではないことを感じてもらえるはずです。

Tribute + Collaboration

Tribute + Collaboration

展覧会のサテライト企画として、国内のさまざまなクリエイターと協働した作品を展示・販売。分野は現代アートに限らず、ファッション、食、音楽、玩具など多岐にわたる。和菓子屋「とらや」とは、食べることのできるアート作品を。かと思えば、国民的な駄菓子「うまい棒(げんだいびじゅつ味)」が発売当初の価格の1万倍となる10万円で販売されたり。どれもアートの自由さ、遊び心を感じさせてくれる。

 現代アートの価値を決めるのは、作品自体ではありません。「価値があるから高い」「価値があるから良い」と捉えられがちですが、実際には美術館に代表される権威が承認しているものを、僕らが受け入れているだけのこと。その観点で考えると、江戸時代の印刷物である浮世絵の役者絵がメトロポリタン美術館で展示されているのと同じように、日本の現代アイドルのポスターもまた、芸術的・歴史的な観点からストーリーさえつくることができれば、同等の価値が生まれる可能性がある。

 僕の絵の中で、雑誌の切り抜きのようなコンシューマーカルチャー的なものと、歴史的な名画のモチーフを混在させているのにも、同様のメッセージを込めています。「Tribute + Collaboration」で「とらや」と「うまい棒」が同じ空間に並ぶというのは、ある意味現代の日常でもあり、現代社会を描写するための引用とも言えると思います。「FIRST LAST」に登場するさまざまな記号を見て鑑賞者それぞれに読み取ってほしいと思いますし、アートってここまで間口が広くていいんだと思ってもらいたいですね。

撮影場所:『松山智一展 FIRST LAST』(会場:麻布台ヒルズ ギャラリー 会期:2025年3月8日~5月11日)

トップ画像作品名:《Wheels of Fortune》《Double Jeopardy!》《All is Well Blue》
本文中段の画像作品名:《Immorality Morality》2021

取材を終えて......
エネルギッシュで知識が豊富、頭の回転が早く、そしてどこか大きな愛のようなものを感じる松山さん。それは「DNAに組み込まれている」と表現するキリスト教に由来するものなのか、常にマイノリティだった環境からくるものなのか、それともニューヨークでアーティストとしてなかなか芽が出ず、戦っていたときに触れた優しさからくるものなのか......。アイデンティティはたくさんある、と言っていたように、おそらくそれらすべてなのでしょう。その大きな愛は、ご本人に会えなくても、絵の前に立てばきっと感じることができるはずです。(text_ikuko hyodo)

前編はこちら

松山智一

松山智一 / 現代美術家
松山智一 / 現代美術家

1976年岐阜県出身。上智大学卒業後2002年渡米。 現在はNYブルックリンにスタジオを構え、絵画を中心に、彫刻やインスタレーションを発表。また大規模なパブリックアートをがける手がけることでも知られる。

これまでに世界各都市のギャラリー、美術館、大学施設等にて展覧会を開催。また、ロサンゼルス・カウンティ美術館、サンフランシスコアジア美術館、クリスタル・ブリッジーズ・アメリカン・アート美術館、マイアミ・ペレス美術館、龍美術館、宝龍美術館等に作品が収蔵されている。

近年の主な展覧会に「Mythologiques」(ヴェネツィア/2024年)、「Pop Forever, Tom Wesselmann & ... 」(ルイ・ヴィトン財団/2024年)、「松山智一展:雪月花のとき」(弘前れんが倉庫美術館/2023年)「MATSUYAMA Tomokazu: Fictional Landscape」(上海宝龍美術館/2023年)がある。

主なパブリックアートには、2019年ニューヨークのバワリーミューラルや、2020年明治神宮創建100周年に展示した彫刻作品、2020年JR新宿東口駅前広場のモニュメント《花尾》がある。

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