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INTERVIEW
166
松山智一現代美術家 Tomokazu Matsuyama / Contemporary Artist
Tomokazu Matsuyama / Contemporary Artist

『多様なアイデンティティを通して、街に新たなストーリーを紡ぐ』【前編】

自己や他者との多重的な対話が、かけがえのないアートになる。

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update_2025.04.16 photo_yuka ikenoya / text_ikuko hyodo

ニューヨークを拠点に、グローバルに活躍する現代美術家の松山智一さん。幼少期をアメリカで過ごし、25歳で再渡米。現地の名門美術大学院のデザイン科を首席で卒業後、紆余曲折を経て本格的にアーティストを志したという異色な経歴をお持ちです。今や世界で注目される松山さんの、東京で初となる大規模個展「松山智一展 FIRST LAST」の開催は日本的にいえば“逆輸入”。グローバルな視点でリアルに現代社会を捉えた作品を生み出す松山さんは、いかにして特異なアーティストとなったのでしょうか。

後編はこちら

「FIRST LAST」が意味するところ。

 日本はいろいろなものを"翻訳"するのがとても上手な国ですよね。今回の展覧会のタイトルも、多義的な意味を含めてさまざまな形に翻訳可能な言葉にしたいと思いました。「FIRST LAST」は直訳すると「最初で最後」という意味になります。自分の故郷でもある日本でこの規模の展覧会を開くまでに20数年の時間がかかっているので、その時間に真摯に臨みたいという想いがひとつありました。

松山智一展 FIRST LAST

松山智一展 FIRST LAST

松山さんの東京で初となる大規模個展。四半世紀にわたって現代アートの本場ニューヨークで活躍し、いまや世界が注目する次世代アーティストのひとりとなった松山さんの、日本初公開となる大規模作品19点を含む、40点以上の作品を展示。展覧会タイトルでもある新シリーズ「First Last」もお披露目。麻布台ヒルズ ギャラリーにて、2025年3月8日(土)~5月11日(日)の会期で開催。

 もうひとつ別の意味としては、僕のアイデンティティにまつわる部分。父が牧師でキリスト教の教えに囲まれて育った環境が大きく関わっています。幼少期に自分の意志で洗礼を受けたというよりも、叩き込まれたと言うほうが正しいかもしれません。「FIRST LAST」は、マタイの福音書の中にある、イエス・キリストが弟子たちに伝えた言葉「後の者が先になり、先の者が後になる」の意味も込めています。信仰においては、費やした時間の長さよりも、いかに献身的に信じるかが大切であり、後者に救いがもたらされるという、僕の好きな考え方を表す言葉です。

 僕のニューヨークでの20数年間は、芸術家として売れるとか食えるとか以前に、見返りを求めたら破綻してしまうくらい壮絶で、ただ信じることしかできなかった。自分の信じる対象が宗教から芸術に変わっただけで、ひたむきに打ち込むことでしか答えが見つからない時間を過ごしてきました。美術作家になってからの20数年を今こうして振り返ってみたら、両親の献身的な姿勢と、僕も対象は違えど同じだったんだなという気付きがあったんです。

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どこに行ってもマイノリティだった。

 結果論にはなりますが、今の自分を形成しているのは、ずっとマイノリティだったという記憶です。クリスチャンだった母に感化されて、父もクリスチャンになるのですが、生まれ育った飛騨高山は仏教や神事が深く根づいている地域。1年の行事の大部分が仏教や神事に関連しているので、クリスチャンの僕は、ほとんど何も参加できないし、周りからは「あの子はクリスチャンだから」という扱いを受けることが多くありました。さらに、あるとき突然、両親に「再来月からアメリカに行くぞ」と言われて。父がアメリカの大学で本格的に聖書学を学ぶために渡米したので、今度は"アメリカの中にいるアジア人"になりました。

 80年代のアメリカは、ベトナム戦争を経てアジア人への人種差別意識が蔓延しているような時代です。家族全員が学生の立場だったので、駐在員みたいにいいところに住めるわけでもなく......ラテン系や黒人、ベトナム戦争のボートピープルなど、さまざまなコミュニティの価値基準が入り乱れていました。それが僕の原体験で、どこに行ってもその場に馴染もうとしていた。周りの様子を見て自分の立ち位置を決めるのは、まさしく今の多様性社会と同じ。僕は幼少期からずっとそれをやってきているといえます。

 25歳でニューヨークに来てからはまったくお金がなかったし、周りも必死でサバイブしている人ばかりでした。ニューヨークで何かを成し遂げようとする人は、ナタリー・ポートマンがバレリーナを演じた『ブラック・スワン』で描かれている状況が当たり前の世界。結婚する前、妻がこの映画を一緒に観ようと言ったのですが「僕が日常でやっていることを、なぜお金払って観なければいけないんだ!?」と思ったくらい。あの映画で注目されるようになった「アルターエゴ」という言葉は、哲学的に他我の意味で使われることが多いのですが、自分を違う人に置き換えないと生きられないような環境で培われる、ある種の多重人格性こそが、マルチカルチャーであり、自分のアイデンティティに通じていると感じています。

『ブラック・スワン』

ダーレン・アロノフスキー監督による、2010年に制作されたサイコスリラー映画。ニューヨークのバレエ団に所属し、バレエにすべてを捧げるニナ(ナタリー・ポートマン)が、ライバルの出現により精神的に追い詰められ、自らの心の闇に飲み込まれていく。

 「FIRST LAST」を開催するにあたって「どうして、最初で最後なんですか」と聞かれることが多くありますが、毎日生き残りをかけて生活しているニューヨーカーの葛藤が、僕にとってのリアル。毎回そういう覚悟をしているという想いがあります。

内側から出てくるものだけでは、世界に届かない。

 アートが楽しいのは、アイデンティティを探ることができるところにあると思っています。たぶんみなさんも普段気づいていないだけで、思っているよりもアイデンティティをたくさん持っているはずです。僕の場合は、出身が飛騨高山で、渡米後80年代のアメリカ西海岸でスケートボードやスノーボードなど横乗り文化に出会います。学生時代はスノーボーダーになるものの挫折して、デザインの勉強をする。だけどデザインでは思うようにいかず、25歳で奮起してキャンバスと絵の具を買って絵を描き始めた。

 ざっと振り返るだけでもいくつもアイデンティティがあるのですが、作品をつくるという行為はそれらを俯瞰して、どう整理していくかに尽きます。たとえば、安藤忠雄さんや坂本龍一さんなど海外で活躍している方は、日本人性と世界性と普遍性のような3つのチャンネルが共存していて、同じような経験をしているな、と作品を通して感じます。何となく内側から出てくるものだけでは、やっぱり世界には届かない。自分の持っている文化性や歴史性、同時代性などを年月をかけて作品に投影しているのです。

 「FIRST LAST」の展示内容もまさにそうですが、僕のルーツでもあるキリスト教の世界観を、時にはルネサンスやフランス絵画などから引用して、アメリカで活動している自身の解釈を表現に取り入れることで、現代社会の多様性を描写しています。以前は、そうすることにためらいがありました。特にアメリカでは日本人が英語で作品を発表すると、「なぜ自身の文化背景を用いないのか?」と疑問を抱かれてしまう。それと同じように、キリスト教に関する表現は受け入れられないと思い、ずっと封印していました。僕のDNAに組み込まれているとも言えるキリスト教を自由に表現できるようにさせてくれたのは、いわば作品自身なんです。作品が僕のアルターエゴではなく、僕が作品のアルターエゴになっている。作品ありきの自分の存在を、非常に強く感じています。

撮影場所:『松山智一展 FIRST LAST』(会場:麻布台ヒルズ ギャラリー 会期:2025年3月8日~5月11日)

トップ画像作品名:《Passage Immortalitas》2024
本文中段の画像作品名:《We The People》2025

後編はこちら

松山智一

松山智一 / 現代美術家
松山智一 / 現代美術家

1976年岐阜県出身。上智大学卒業後2002年渡米。 現在はNYブルックリンにスタジオを構え、絵画を中心に、彫刻やインスタレーションを発表。また大規模なパブリックアートをがける手がけることでも知られる。

これまでに世界各都市のギャラリー、美術館、大学施設等にて展覧会を開催。また、ロサンゼルス・カウンティ美術館、サンフランシスコアジア美術館、クリスタル・ブリッジーズ・アメリカン・アート美術館、マイアミ・ペレス美術館、龍美術館、宝龍美術館等に作品が収蔵されている。

近年の主な展覧会に「Mythologiques」(ヴェネツィア/2024年)、「Pop Forever, Tom Wesselmann & ... 」(ルイ・ヴィトン財団/2024年)、「松山智一展:雪月花のとき」(弘前れんが倉庫美術館/2023年)「MATSUYAMA Tomokazu: Fictional Landscape」(上海宝龍美術館/2023年)がある。

主なパブリックアートには、2019年ニューヨークのバワリーミューラルや、2020年明治神宮創建100周年に展示した彫刻作品、2020年JR新宿東口駅前広場のモニュメント《花尾》がある。

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