待つだけではなく、自ら居場所を変えて人に会いにいく行動力。
ユニークなコンセプトのコンビニやシェアハウスなどをプロデュースし、都市における空間とコミュニティのあり方を模索する、建築家のクマタイチさん。秋の恒例となった、デザインを五感で楽しむイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024」では、芝生広場のメインコンテンツ制作クリエイターとして、円盤型の巨大なインスタレーション《リレキの丘》を手がけています。本作に込めた思いのほか、ご自身のプロジェクトを通して未来につむぐ建築のあり方などをお聞きしました。
「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024」で展示している《リレキの丘》は、木を使って新しい地形をイメージしています。発想の起点として、そもそも公共空間には、帰属感を持ちづらいのが問題だと常々思っていました。そのうえで、今回のテーマ「つむぐデザイン-Weaving the Future-」を踏まえ、使う人の個人的な履歴を残せるような仕組みをつくりたいと考えました。遊具というより、地形的なことがつむがれていくような形にしたかったのです。
《リレキの丘》は、3つのリングがずれながらつながる、木の曲面で構成された、直径10メートルほどのインスタレーションです。使い方は特に決められていなくて、その曲面で何をするかは自由。個人の「履歴」を残していく公共の場となります。《リレキの丘》がある東京ミッドタウンの芝生広場は、もともと緩やかに傾斜した地形なので、つい奥に向かって歩みを進めたくなりますよね。建築でもそういった地形をつくってみたかったのが、今回のインスピレーションのひとつになっています。もうひとつヒントになったのは、芝生広場にあるフロリアン・クラール氏のアートワーク《フラグメントNo.5》。あのモニュメントの穴に呼応するようなものをつくりたいと思いました。穴には内と外を分けたり、通り抜けたりするようなイメージがありますが、その特性を生かしたいと考え、3つのリングを使っています。
建築、と聞くと何となく身構えて対峙してしまうところがありますよね。なので、今回のインスタレーションでは、どう使えるのか自由に想像を膨らませてもらうために、型にハマった建築物よりも、自身で体感できる構造物の方が本能的にリラックスして向き合えるのではないかという狙いがありました。たとえばですが、丘のこの辺りに葡萄を植えてみようとか、この辺は住みやすそうなど、人間がより自由に表現できるものとして、あえて「地形」と表現しています。
土日と祝日、来場者した方に、この場所でどう過ごしたのかが描かれた「リレキシール」を渡して、《リレキの丘》の表面に貼っていただきます。公共建築に限ったことではないのですが、使う人にとって建築をいかに身近な存在にできるかは、僕のテーマで、そのための手段のひとつが履歴を残すことです。人々が履歴を残していくことで、やがてカラフルな模様に彩られた丘に変化させていってほしいなと思っています。歩道橋の欄干などにカップルが南京錠をかける観光スポットがあるじゃないですか。街なかのグラフィティも同様に、建築サイドからはネガティブに捉えられがちですが、こういった行為が公共空間に対する個人の帰属感や、場所の個性につながっていくのではないでしょうか。シールで個々の足跡を表面に残すことで、《リレキの丘》が愛着のある場所になってくれたら嬉しいです。
今回、つむぐデザインというテーマのもとで制作をしたこともあり、将来的には、《リレキの丘》のようなインスタレーションを今後、六本木のような都会ではなく、もっと自然の多い環境に置いてみたらどうなるのか、という探求もしていきたいと思っています。例えば、神社や公園など、すでに、たくさんの履歴が刻まれた場所に、新たな「地形」が置かれることで、何かの意味がでるのではないかと、次の計画をはじめてみようと思っているところです。
企画・運営している「SHAREプロジェクト」では、同じ地域にシェアハウスやレストランなどをつくっています。建築をつくるときや、コミュニティやまちをつくるときは特に自分の感覚を大事にしています。その土地の写真や図面を見ただけではわからないことの方が多いので、まずは実際に足を運んで周辺を歩き回ったり、食事をしたり、お酒を飲んだりして、住んでいる人や通っている人たちと話してみます。それらの体験や感覚を通して、ここからあの場所へはこういう目的なら歩いて行けるなとか、自転車だったら頑張って行きたいと思うかもしれない、などとイメージを膨らませていきます。そうやってつくっていかないと表層的なものになってしまうし、AIにはできないアプローチだと思っています。
建築の観点から持続可能な社会の実現を目指すうえでも、愛着を持てるかどうかが、やはり鍵になるのではないでしょうか。より多くの人が建築を身近に感じることができたら、耐用年数についても自分事として考えるだろうし、壊すか残すかという議論が出たら、なるべく残そうとする道を探るはずです。リノベーションも同様で、つくる人だけでなく、使う人にもいかに愛着を持ってもらえるかという点を意識しています。
具体例をあげるとちょうど今、文京区の水道という地名の場所に「SHORTsuido(ショートスイドウ)」という小さなホテルと台湾料理店をつくっています。もともと中華料理屋さんをやっていた建物をリノベーションしているのですが、商店街の中で長い間、大事な役割を担ってきた場所だったので、生まれ変わってもそういう存在にしていきたくて。リノベーション前の雰囲気を可能な限り残したいし、商店街のイベントなどにも積極的に参加していきたいです。本来は建築家の仕事ではないのかもしれないけれど、仕事の範囲を自分で決めきらず、空間をつくったあとも関わっていきたいんです。商店街のつながりで出会った近所のおじさんがポロッともらした一言に、インスピレーションを受けるようなこともありますからね。
飲食店だけでなくホテルを併設しようと思ったのは、水道がもともと観光客が訪れるような場所ではなかったからです。江戸川橋と飯田橋と茗荷谷の3つのエリアのまん中にある文京区の水道は、近隣住民でも意外と行ったことのないような場所です。そんなところに商店街があること自体、興味深いと思ったので、もっといろんな人に知ってもらいたくて。ローカルでちょっと不思議なエリアだけど、東京に行ったら泊まりたいと思ってもらえるような場所をつくりたかったんです。これまで各地でつくってきたシェアハウスにする選択肢もありましたが、シェアハウスの滞在サイクルは年単位だったりもするので、より短期間でたくさんの人が出入りするホテルにすることで、新たな人の流れが生まれることを期待しています。
撮影場所:『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024』《リレキの丘》(会場:東京ミッドタウン芝生広場)