「面白いデザイン」と「面白くないデザイン」の違いは、自分が面白さに気づけているかどうかだけ。
仕事とは別に、マッチ棒をモチーフにした《Matches》というコマ撮りアニメーションのシリーズを毎日制作しています。コロナ禍で時間に余裕ができたから始めたのですが、当初はいろんなモチーフで撮っていました。やっていくうちにマッチが扱いやすいと思うようになって、マッチを使い出してから4年ちょっと経ちましたね。
すでに1,000作以上できていますが、今のところ作品に関してはあえて言語化せず、ときどき振り返ってみて「こういうことかな」と思う程度にとどめています。趣旨云々を重視するのではなく、散歩でもするような感覚で習慣的につくることをよしとする。実際、休日も事務所に行ってつくっています。逆にやらないと落ち着かないので完全に朝のルーティンですね。1つを仕上げるのに大抵2、3時間かかりますが、仕事を始める10時までには終わらせるので誰からも文句は言われません(笑)。
ここでも興味があるのは、やっぱり動きのデザインです。コマ撮りアニメーションは、マッチ棒などのモチーフを少しずつピンセットで動かしてシャッターを切っています。なので、そこに映っているのは実際に存在するものだけれど、動き自体は自然なものではありません。そのときに意識しているのは、僕は人形などをスムーズに動かしてストーリーをつくりたいのではなく、動きの仕組みや見え方の質感、構造を見たい。1つずつのコマで起こるのは紙がくしゃっとなったり、水に濡れたりするような誰もが知っている動きや質感ですが、それがコマ撮りという特殊な状況によって普通はありえないような組み合わせや構造になっている。そうすると1個1個のパーツは身近なものばかりだけれど、全体の流れと合わさったときに知っているけれど知らないものになるんです。
実は《Matches》ではやり直しは一切しません。というのも本来ものづくりやデザインは、言語より先に行動があるはずじゃないですか。《Matches》の場合は自分が思わぬところに行きたいだけなので、わからないままの状態で蓄えていく活動にしていきたい。その中で強いて言うなら、10年間続けると決めています。グラフィックデザインは短いスパンでつくっていくので、10年で1つのものをつくるようなことに興味があるんです。日々の作品を単体として捉えるのではなく、10年やり続けた先にどうなっているかが楽しみですね。ただ、やり続けるには健康で元気でなければいけない。10年というスパンだと、そんな当たり前のことも大事だと気付かされます。
デザインはゼロからつくるものだと昔は思っていましたが、「デザインあ」というテレビ番組の「解散!」というコーナーの企画制作を担当したのを機に、ものの見方を徹底的に考えました。それまでグラフィックデザインには、自己表現といった何かしらのエッセンスを入れなければと思い込んでいたので、「解散!」も最初の頃は「やってやろう」と意気込んでいました。でも、みかんや種など、当たり前なモチーフだけれどよく見ると面白さがたくさん詰まった物体なので、それらをどうやって見るかという「視点」だけで十分じゃないかとだんだんと思うようになって。構造を捉え直して「見る方法を提示するのがデザインなのかもしれない」という考えに至ったらしっくりきたんです。「解散!」を10年間経験したことで、デザインとは構造や関係性の組み替え、もしくは見方を変えることだと思うようになりました。
デザインの視点から、六本木の街に何を組み合わせたら面白いか。それこそ組み合わせは自由だから、可能性はたくさんあるはずです。とはいえ対象が街となると、社会性のあるアイデアが必要とされるだろうから、マッチと何かを組み合わせるようなやり方とはかなり違ってきます。その組み合わせがなぜ良いのかしっかり考えてやるべきなので、何となくのアイデアでは難しいですよね。これまでの話を踏まえてあえて挙げるなら、動きを組み合わせるのはいいかもしれません。実際のモーション的な動きもあれば、ゆっくり変わっていくような事象、人間には知覚しづらい動きもあるかもしれない。たとえば今、街中にはサイネージがたくさん設置されていますが、使い方に関してはまだまだ途上感がありますよね。それらが今後どう街と共存していくのかも気になるし、単に動けばいいってわけでもない。もしくは表層的な動きではなく、長いスパンでの動きに着目すると可能性が開けるかもしれない。どれも漠然としてはいますが、今みたいに「動き」についていろんな方向から見て掘っていくことは、具体的なアイデアが生まれるきっかけになります。
グラフィックデザイナーとしては、街が舞台だとよりスケールの大きなことができそうな点が興味深いです。モニターにしろポスターにしろ、その枠内で考えるのではなく、置かれる空間や人の行動との関係性で考えていけば、より大きなスケールでデザインできる余地がある。都市のビジュアルデザインって言うと壮大ですが、テクノロジーをうまく活用しながら、広がりや関係性を感じさせる街づくりが可能になるかもしれませんね。
僕個人の考え方ですが、「面白いデザイン」と「面白くないデザイン」の違いは、自分が面白さに気づけているかどうかだけだと思っています。「自分の外側の世界が面白い」っていう感覚もまさに一緒で、大事なのはそれを発見できるかどうか。だから願わくば、あらゆることを面白いと思える人になりたいです。
撮影場所:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3「Focus on STRETCH PLEATS」展(開催中〜2024年6月23日)
取材を終えて......
「Focus on STRETCH PLEATS」展の会場である21_21 DESIGN SIGHT の名称に入っている「SIGHT」はデザインの「視力」であり、ものごとの見方、見ることの大切さを表しています。岡崎さんはデザイナーを志した頃から、21_21 DESIGN SIGHTに通うことで、そんな「視点」を養ってきたのでしょう。そんな場所でディレクションを務めることは、ひとつのゴールとも言えそうですが、本人は目の前の一つひとつの仕事を楽しみ、さらには10年スパンでマッチのコマ撮りを続けようとしていて、その姿はいたって軽やか。目を輝かせながら話す姿は、虫取りに夢中になっていた少年の頃を想像させてくれました。《Matches》がどうなっていくのか、私たちも見続けていきましょう!(text_ikuko hyodo)