「面白いデザイン」と「面白くないデザイン」の違いは、自分が面白さに気づけているかどうかだけ。
僕が大学を卒業したのは2003年で、その年の4月に六本木ヒルズができました。それから東京ミッドタウンがオープンしたのは、たしか2007年でしたよね。当時の僕は新社会人として広告代理店に入社して、漠然とではありましたがデザインの仕事でいろいろやりたいと思っていました。でも、なかなかその道が見えてこない状態で。そんな中、六本木の美術館やギャラリーで開催している展覧会によく足を運んでいました。ヒルズなどができる以前の街をほとんど知らないので、僕にとって六本木はアートやデザインの街という印象が強いです。そのとき自分がやっていた仕事と、自分が理想とするデザインとのギャップを埋めたり、なんとか近づきたいという心持ちでこの街に関わっていたような気がします。
今回、ディレクションを担当した「Focus on STRETCH PLEATS」展は、先ほど話した新社会人時代から通っている21_21 DESIGN SIGHTの、ギャラリー3で開催しています。展覧会のモチーフである、me ISSEY MIYAKEの《STRETCH PLEATS》について、一番詳しいのは当然ながら長く商品をつくってきたブランドチームの方々です。その上で、今までとは異なる新しい視点で掘り下げたいということで、外部のクリエイターである僕に声をかけていただきました。僕からしたら、彼らはプロフェッショナル集団です。共同という形であれ、ファッションに関しては素人の僕にどんなことができるだろうと思いましたが、日頃からデザインの仕事を通していろんなものを観察したり、何かを見いだすようなことをしているので、それと同じ目線で《STRETCH PLEATS》を細かく見ていきました。そこで発見したのがプリーツ構造の「単位」です。
展示の内容は、完成された物事を単に見せるのではなく、服を入り口にしながら、ものの見方や観察の方法など「視点の提案」を意識しています。これは僕が大事に思うことでもあって、ものをつくってできあがったら終わりではなく、自然と次につながっていく流れにしたかった。できあがったものが起点となって、見た人の想像力が刺激され、その人が次に何かやるときのエネルギーになっていく。ある種の力の循環というか、脈々とした流れの中にものづくりが存在することこそ、意味があると思っています。この展覧会も《STRETCH PLEATS》を起点に「次につながるきっかけをつくりたい」という思いで構成をしました。
その点、21_21 DESIGN SIGHTは、海外から観光で来ている方々もいますが、若いデザイナーや学生など、かつての僕のようにデザインで何かしら面白いことをしたいと思っている人たちが多く足を運ぶ場所でもありますよね。そんな志を持った若い人たちと、展示を通して視点を共有したいという思いは強いかもしれません。
《STRETCH PLEATS》の構造はシンプルで、「プリーツ」という1つの単位が連続することによってつくられています。このように物事を単位ベースで見直すとさまざまな発見があります。「Focus on STRETCH PLEATS」展では縦横方向の伸縮の動きを模型化していますが、1着の服にはいくつもの要素があり、今回のように動きの構造という目線で見るだけでも無数のパターンが存在します。その結果、《STRETCH PLEATS》のような自由な変形が起こるので、そういう見方に魅力を感じますね。
普段、デザインの仕事をしていて思うのは、自分の外側の世界が面白いということ。自分から生まれてくる表現はある程度予想ができてしまうのでそれほど惹かれないですが、外側の世界はポテンシャルが溢れていると日々感じています。世界をどうやって見るのか、その視点を提示することがデザインでもある。ただ、別にそれは僕の作品ではないというか、世界が面白いからこそ成立しているという気持ちですね。
今回、展示室の一番奥の空間は木のつくりにして、実験室のようなイメージにしました。構造をプリーツの単位から見て発展させていますが、最終的にはまったく違うものにたどり着く感じがいいなと思って。ここにはライブカメラがあって、その場にいる人たちとともに実験でできた模型がコマ撮りアニメーションのように映し出されます。アニメーションは映像の中で起こっている実体のないものと思われがちですが、目の前に存在する物体でつくられている。その不可解さや詳細に観察したくなる仕掛けが、次の創作へのスタートになればという思いを込めています。
幼少期から虫が好きで、友だちがいなかったわけではないですが(笑)、中学生くらいまでずっと虫を捕まえて遊んでいました。虫に夢中になった理由はいくつかあるのですが、まず「探して捕まえる」という行為が楽しかった。虫によって生息している環境は当然異なるので、それぞれの虫がどういう場所にいるかを図鑑などで調べて、1日中探しているような子どもでしたね。見つかるまで探し続けるので大抵捕まえられるんですけど、そういうことを繰り返していると探す力が鍛えられてくるんです。この辺りにいるだろうという当たりを付けて、葉っぱが動く音や水面の揺れで気配を感じようとする。そのとき駆使していた感覚は、仕事でアイデアを考えるときとかなり近くて、虫取りの経験が今に生かされている気がします。
もう1つは「見る」楽しさです。虫の形にはそれほど興味がなかったですが、どういうふうに過ごしているのか営みを観察するのが好きでした。例えば人間が「そろそろ餌を食べたい頃かな」と思って餌をあげたとしても、こちらの思惑など一切関係なく虫は虫の都合で動いているので餌に反応しなかったりする。自分の想像や理解が及ばないようなまったく別の原理で動いている存在を見る楽しさを、そこで得ていたのだと思います。そして、「動きそのもの」がやっぱり面白い。外骨格の生き物って、どことなくロボットの動きにも似ていて、その行動にルールらしきものがあるんですよ。よく知られるところだと、てんとう虫は高いほうに上っていくみたいなことですけど、ずっと観察してルールを見つけるのも楽しみの1つでした。
小さい子どもは、ものを触ることで世界を感じますよね。それってつまり「手で見る」ことであり、成長とともに手遊びや工作などを通して、そこに潜んでいる仕組みや、概念的な部分を感じられるようになってくる。さらに大人になるにつれ、物体としての構造だけでなく、情報的な構造、アイデア的な構造など、「つくる」ことによって「見る」もどんどん深まって広がってきた気がします。
虫の形には興味がないのですが、動きにはすごく興味があります。直感的というか生理的というか、生物的な反応と何かしら関わっているような気がずっとしています。モダンデザイン以降は基本的に文化や経済、社会との関係性の中にデザインがあると思うんです。ただ、僕たち人間は文化や経済を築いているけれども、基本的には動物じゃないですか。だから、社会との関わりというデザインの形がある一方で、「面白い」「心地よい」「動物がサッと動いているのを見て驚いた」といった生き物としてのより本能的な部分からくるデザインもあると思っていて、「動き」というのはそういったところと特殊な関わりを持っていると思っています。
撮影場所:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3「Focus on STRETCH PLEATS」展(開催中〜2024年6月23日)