身体で感じる複雑で立体的な公共空間をつくる。
「人と自然と機械の共生」をビジョンに掲げ、コンピュテーショナルデザインなどのテクノロジーを用いながら、土地の自然環境を生かしたアートヴィラ「ONEBIENT」などを手掛ける浜田晶則さん。また、チームラボアーキテクツのパートナーでもあります。デザインイベント『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023』では、メインプログラムとして土を素材としたインスタレーションを展示しています。今回は、先端技術と自然環境の共生の方法、著書『オルタナティブ・パブリック』で探求した「公共空間」とはどのようなものか、その先にどのような都市空間、都市環境があり得るのか、など建築の枠を超えた幅広い視点からお話を伺いました。
東京ミッドタウンで行われている『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023』では、芝生広場に《土の群島》というインスタレーションを出展しています。我々の事務所「AHA(浜田晶則建築設計事務所)」で取り組んでいる、大阪・関西万博の施設《地層の峡》で土を使っていることもあり、土という自然素材を生かして、新たなインスタレーションをつくりたいと思ったのが、《土の群島》のきっかけのひとつでした。さらに、「いざなうデザイン」というテーマをいただいたとき、環境問題や世の中の課題に対して、デザインの力で"楽しくいざなう"ことができるものにしたいと、今回のインスタレーションを考えていきました。
そもそも、土は昔から人々の生活の支えになってきたもの。小さなものでいえば、器だとか建築物の土壁も土からつくられていますし、もう少し広く見れば、微生物などの生命活動によって土が生成され、その土が農作物の育成を支えています。つまり、生物が生きるための基盤となるものが土だと思うんですね。しかし、近代化によって新しい技術や素材が使われ始め、今は鉄やコンクリートやプラスチックなどが主流になっています。というのも、現代は大空間や大都市をつくるために、素材として安定して強いものを求めてきた。結果、重く弱く定量化しづらい土が、別のマテリアルに取って代わってきたというのが現状だと思います。
そんな中、我々は昔ながらのその土地の土を使いながら、自然素材だけで強度をつくり上げることにトライしています。それがかなえば、建材を海外から輸入したり、国内の別の地域から輸送したりするという概念がなくなって、家の裏山や裏庭で取れた土や木材から建築をつくることが可能になる。例えば、動物でも鳥の巣や蟻の巣なんかは身の回りにある素材を集め、組み合わせてつくりますよね。それと同じように、身近な土地の素材からつくられる現代の"人間の巣"みたいなものが、未来の我々の住まいになっていけばいいなと思っています。
今回の《土の群島》は、土と自然素材の硬化剤を混ぜ合わせることで建材としての強度を持たせ、土を造形しています。工場でこねた土を3Dプリンターでつくった8種類の型枠に詰めて固め、型から抜くと3日ほどで強度が増していく。ちなみに、土に混ぜている硬化剤は畑の肥料とかにも使えるものなので、この展示が終わったらその場で砕いて畑などに撒くこともできますし、パーツでできたオブジェなので別の場所に持っていくことも可能。今のところは、一旦、僕の実家の造船所跡地に送ろうかなと思っているのですが(笑)。
そして、出来上がった土のパーツを組み合わせて、会場の広場に点在させ、芝生に浮かぶ土の群島をつくっていきました。ベンチのようにちょこんと座ったり、芝生に座って土にもたれかかったり、小さい子どもだったら跳び箱のように飛んだりと、自由に遊んでざらっとした肌理を触ってもらえたらいいな、と。そして、土と楽しく触れるという行動を起こして、自然について想像する機会へといざなえたらと思っています。
今回は土を使ってインスタレーションを行いましたが、建築の設計をしている身として、建設の際に捨てられる土に関して身近な問題と捉えてきました。建物の施工は土を掘り起こすところから始まりますが、その残土は廃棄物となって、捨てるためにはお金もかかる。掘った土で建築物をつくることができれば、環境問題などさまざまな課題をクリアすることにもつながります。
ただ、土は場所によって粒度や粘度がかなり違うため、その土地の特徴や、その土を使うとどういうものができるかなどをデータ化することが必要だと感じていました。僕らの取り組みの中で情報を集積してデータベースにできれば、それが専門性を補うレシピになり、誰でも土を掘ってモノづくりができるようになります。さらに目指しているのは、3Dプリンターの型枠や土を出力する3Dプリンターを活用することで、みんなが自由な形状のものを土でつくることができる未来。きっと、小さい頃に砂場で土を水で固め、お城や橋をつくった経験がある方も多いと思うんですよね。その延長として、身近なモノで誰もが自由に造形物をつくれる未来がくるといいなと思っています。
近年は3Dプリンターで建築をつくることも可能になってきていますよね。コンクリート系のマテリアルを使った手法は比較的進んでいますが、今後は自然素材を使った造形の開発も広がっていくと思います。今年7月にイタリアの3Dプリント企業「WASP」の工場に行ってきたのですが、その会社がつくる「TECLA」というクレイハウスも、自然素材の土を使って3Dでプリントしたもの。ただ、地震に対する構造耐力や、構造計算上の課題はあるので、実際に日本でどう取り入れられるかは、今後考えていかなくてはならないと思っています。彼らの3Dプリンターを用いて「DESIGN TOUCH」の作品の一部をつくりましたが、今後、大阪関西万博の施設もこの機械を用いて建材をつくる予定です。
いろいろな可能性がある中で、僕らが主軸としているのは、コンピュテーショナルデザイン、デジタルファブリケーションの手法を使いながら、現代の課題や未来に対して何ができるかを考えること。例えば、自然物をサンプリングして形状を検証したり、自然現象をシミュレーションすることで自然から学ぶ姿勢をベースとして設計に取り組んでいます。自然現象の法則性を言語化して、数式や計算で再現することはコンピューターが得意とするところ。けれど、自然から何を学ぶかという美学的な問いは、制作の過程で試行錯誤しながら見えてくる部分が多いです。手を動かしている間で見えてくるような気がしますが、自然物と人工物とが調和して均衡している状態にこそ、現代において環境を再構築する道筋があるんじゃないかと感じています。
今我々が取り組んでいるプロジェクト「ONEBIENT」も、環境の再構築というところにつながります。これは、その土地の気候や自然環境をパラメータに、その場所にしかない空間をつくり出して、自然現象や自然物、環境をテクノロジーで拡張するような取り組みをしています。環境負荷を極力抑え、インフラが少ない場所にオフグリッドで建設することを目指しています。その活動を通して、過疎化で自然が荒れていく地方の土地を耕し、人と自然の営みが持続的に共生する社会をつくりたいと考えています。
また、建築だけでなく、僕らはチームラボアーキテクツのパートナーとしてアート制作にも携わっているのですが、「ONEBIENT」との間にはどこか共通点があるかもしれません。例えば、チームラボの作品《Floating Flower Garden: 花と我と同根、庭と我と一体》では、人が近づくと蘭の花が浮遊してドーム状に空間を形づくる、新しい庭の概念を提示しています。「ONEBIENT」でも建築とデジタルアートを融合させるようなトライをしていますが、通常の自然現象だけではありえない状況をつくり、体験を拡張するような作品づくりは、双方のテーマになっているかと思います。
アートの仕事をしていて感じるのは、自分の考えを表現するときに、より伝えやすい分野であるということ。もともとアートは、「僕は世界をこのように考えるよ」という世界の捉え方や価値観みたいなものを提示することを純粋にやれる分野だと思うんですね。人々が作品の中に入る、見る、体験するという意味でも、とてもピュアに伝えられるメディア。だから、《土の群島》のようなインスタレーションだとか、チームラボとのモノづくりといった作品づくりをするときは、どうすれば世界の認識の方法を少しでも変えられるか、価値観をどう提示できるかを自分の中で描きながら考えています。
撮影場所:『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023』(会場:東京ミッドタウン、会期:2023年10月6日~10月29日)