街に点在する違和感=個性をつなぐ。(山田)
都市環境で芽吹く雑草を観察する道草散歩。(大野)
建築家の山田紗子さんと、大野友資さん。両者ともに、建築の枠にとらわれない活動や作品が注目されています。山田さんは、慶應大学にてランドスケープデザインを学んだ後、藤本壮介氏に師事し、自然にコントロールを委ねた建築を手がけ、大野さんは、ポルトガルの設計事務所を経て、noizから独立、建築だけでなく巨大なインスタレーションから手のひらサイズのプロダクトまで手がけています。そんな2人は現在、東京ミッドタウンの芝生広場で開催中の『GOLDWIN PLAY EARTH PARK』にて、遊具をデザイン。遊具が生まれるまでの過程や、普段のものづくりの出発点、それぞれの大学の講師としての考えなど、多岐にわたって語っていただきました。
大野友資『PLAY EARTH PARK』の遊具は、ゴールドウインから、「地球を構成する5つのエレメント」をテーマに、子どもが遊べるものを提案してくれないかというお話をいただいて、スタートしました。その時に僕がいただいたテーマが「空」だったんです。
山田紗子私のテーマは「地」でした。他のテーマの方々とは同時並行で動いていたので、大野さんの作品をしっかり拝見するのはオープンした今日がはじめて。大野さんから「言ってみれば、浮き輪のようなもの」と聞いていたのですが、実際見ると想像以上のスケールでした。「空」というテーマは、どのように捉えましたか?
大野まず、「空ってどういうことなんだろう」と考えるところからはじめましたね。その中で日本には「くう(空)」とか「から(空)」と表現するように、「"何もないこと"がある」という概念があることに気がつきました。そこから、「空の遊具」は"何もない"をテーマにしよう、と。さらに、形はないけど空気に触れられるものはないかと考えた時、空気を包んだいろいろな形のエアバッグを転がしたら楽しそうというアイデアに行き着いたんです。
山田なるほど。子どもの体に対して、あのサイズ感がいいですね。
大野大きいサイズのエアバッグには複数人が寝転べるのですが、片側に誰かが寝転ぶと、反動で反対側の子が弾む。空気というものが、人の存在やエネルギーを伝える媒介にもなることを、体全体で感じてもらえたらと思っています。それと形を多様にするだけでなく、高さを"低く"抑えることにもこだわりました。というのも、低いと自然と上に登りたくなりますし、仰向けに寝転がって空をゆっくり見上げたりもできる。あとは、ゆらゆら、タプタプみたいな音が聞こえてきそうな存在にしたくて(笑)、テクスチャーにもこだわりました。空気をパンパンには入れていないので、人が寝転がった時に重さで形が決まるんですよ。エアバッグは全部で37種類あるのですが、その形はゴールドウインのアパレルラインの製品に使われている特徴的な曲線をコラージュしてつくっています。なので実は、上から見るとゴールドウインの服の一部っぽい形になっているんです。
山田私は「地」というテーマに向き合いました。都会に生きていると、地を意識することって少ないじゃないですか。その中でも、私が一番「地」を感じるのは地震。とくに、2011年の東北大震災の経験が大きいと思います。地は揺るがず、安心して根を下ろしていると思っていたのが、「流動的なもので、私たちは"仮"に根を下ろしているんだ」と、私の中で価値観が一変したんです。だから、今回は地を感じにくい都心の人や、地震を経験していない子どもが、地面の流動性を考えるきっかけになればという思いもあって。そんな中、ゴールドウインの社長と意見交換した時に、「地は、人間がものすごく小さなものに感じる圧倒的な存在」とおっしゃって。そこから、一度大きな存在として立ち上げた上で、作品の中に入ると流動性を感じるものにしたいなと、「地の遊具」のデザインがまとまりました。
大野外から見るとオブジェのようですが、中に入ると山っぽい風景に変わるんですね。
山田そうなんです。鏡のように反射するシートにマーブル模様をプリントしているのですが、それは像を映す役目があって。強い反射があると、中を歩く時に自分だけじゃなくて、映り込んだ周りの人や風景も一緒に動いていく。それがひとつの風景になって、山や地面が"隆起しては流れ"というダイナミズムみたいなものを直感的に感じられるのではないかなって。
大野なるほど。僕の作品も遊ぶ時に体全体を使うのがテーマですけど、山田さんの「地」は体を使わないと遊べなさそうですね。
山田そこは遊び方として大切にした部分ですね。なぜか体を動かしたくなる衝動を、子どもって素直に持っていると思うんです。例えば、壁にはさまれた狭い空間を見つけると、スパイダーマンみたいによじ登るじゃないですか(笑)? ああいう想定外の行為がすごく好きで。思わず手を伸ばしたくなる、思わず登りたくなるものというのは目指したところです。
大野僕も思わず、遊びたくなりました(笑)。以前六本木ヒルズで行ったクリスマスインスタレーション《MY DEAR CHUNKY》で、ツリーをつくった時に、子どもたちが想定外の動きをしまくっていて。座るだけでなくて、跳ねたり、挟まったり、抱きついたり。そういう、どこまでもチャレンジする姿っていいなと思って。だから、「空の遊具」も遊び方を限定したくないと考えていました。 "人が関わって完成するモノ"というのは、何かを生み出す時に大事なテーマになっています。
山田分かります。私もあえて、つかまる場所とかは設けていないんです。ただ歩く子がいていいし、よじ登る子がいてもいい。
大野遊具って、そこが面白さですよね。個人的にもともと遊具に興味があって、数年前からインスタグラムで世界中で見つけた気になる遊具を収集して考察しているんです(「遊具考察」)。例えばドイツの遊具って面白くて。 形も素材も全部違って、どの公園にいってもほとんど同じものがないんです。どう遊ぶのか、ひと目見ただけだとよくわからないものもあります。安全基準が日本とは違うのかもしれませんが、多様な遊具が置かれている印象です。中には日本だと危なくて置けなさそうなものもありました。多分、国によって責任の所在の認識が違うんでしょうね。どちらがいい悪いではなく、責任の捉え方によって、その地域における遊具のあり方が変わってくるのは面白いと思います。
山田『PLAY EARTH PARK』では遊具でしたが、大野さんは普段からいろんなアウトプットをされていますよね。
大野たしかに、建築以外のこともたくさんやっていますね。ただ、アウトプットとして建築以外のものをやろうというよりは、毎回、誰とやったら面白いだろう、ということが、僕の中の大事なテーマなんです。
山田『PLAY EARTH PARK』でいうと、遊具のスペシャリストであるジャクエツさんとご一緒しましたよね。
大野そうですね。建築と遊具のスペシャリストが混ざるとどうなるのか。遊具の安全基準をどうポジティブに変換して、彼らの持つノウハウをどうハックしたらいいんだろうと考えていくと面白いんです。今回のエアバッグは、形が保持できるようにブランコのチェーンで留めているのですが、それはジャクエツさんが持っていた資材。僕だけでは思いつかないアイデアですし、その資材を使ったことで100%遊具になった感じがして、すごく気に入っています。その過程って、僕の中ではゲームの『ロックマン』のようなイメージなんです。標準装備ではシンプルな弾しか打てないけど、ボスを倒すたびにそのボスの持つ力が備わって、ロックマンのカラーリングが変わる。似た感覚で、誰と組むとどんな技が使えるようになるんだろうとワクワクするんです。山田さんも住宅ではないものも、つくっていらっしゃいますよね。
山田建築の枠をはみ出そうという意思はそんなになく、思いついたことも頼まれたことも建築だと思ってやっているという感覚で。根底に事務所のメンバーと日々のできごとや映画やニュース、本なんかを通じて共有している、問題意識や価値観があるんですね。それをどうメディアに埋め込み、体験する人の世界観に1枚レイヤーをかけるか、ということを考えています。そしてどんなにいい価値観も、地球の環境もどんどん変化する。そのときどきに「こうなんじゃないか」「いや、やっぱりこうじゃないか」と考え続けることが好きですし、自分たちも人類の価値観を更新していく文化的活動のひとつであればいいな、という思いです。ただ建築は、建物に対してレイヤー状にいろんな価値観が重なっていて。「こうだ」とひとつだけ明確な価値観があるわけでもないですよね。自邸としてつくった《daita2019》もそんな考え方で設計しました。
大野分かります。ひとつの文脈で終わるものではなく、織物ですよね。きっと山田さんは、点だと思って設計しているのではなく、いろんなところから繋がってできた線の組み合わせで面や立体をつくっているんだと思います。だからこそ価値が多様で、いろんな人がいろんな解釈をしてくれて、それが作品の豊かさにつながっている。いろんなレイヤーがごちゃごちゃに入っている建築に、僕も惹かれます。
撮影場所:『GOLDWIN PLAY EARTH PARK』(2022年4月23日~5月29日)