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INTERVIEW
108
養老孟司解剖学者 TAKESHI YORO / Anatomist
TAKESHI YORO / Anatomist

『わからない“自然”を排除せず、よく見る』【前編】

感覚と外界の接点にあるアートが、引きこもり型の脳を刺激する。

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update_2019.08.28 photo_tada / text_tami okano

解剖学者であり、無類の虫好きでも知られる養老孟司さん。21_21 DESIGN SIGHTで開催中の『虫展 -デザインのお手本-』では、企画監修を務め、虫を見ることの面白さ、見ることからはじまる私たちの思考と行動の可能性を問いかけます。養老さんはなぜ虫が好きなのか。虫から学ぶべきことは何なのか。そして、人々が集う都市の魅力は? 六本木のこれからは? 日本が誇る知の先達が、語ります。

後編はこちら

虫は生き物の先輩。虫が先で、人間は後から。

 虫からの発見や気付きは何かって、よく聞かれるんだけど、どうやら、前提が逆になっているみたいです。虫獲り、魚獲り、カニ獲りから僕の人生は、はじまっているから、気付きも何も。人の世なんて、虫採りの人生に後から付いてきたお付き合い、「世間の義理」みたいなものです。

 僕は鎌倉で生まれ育ちましたが、小学校2年生の時に終戦ですからね。その頃は子どもなんてほっぽりっぱなし。鎌倉には当時まだ里山が色濃く残っていて、炭焼きもやっていたし、荷運びは、牛か馬で、医者の往診も人力車、という時代です。だから、することといったら虫採りくらい。それは少年時代に限った話だとみんな思っているんだけど、結局、今日の今日までを振り返っても人生のメインは虫採りですから。ひとりになると、虫を見たり、魚を見たりしてるだけ。昨日も朝から、虫採りに行きました。

 なぜかって、根本は、その方が安心するんです。人間の世界って、いろいろ難しいんですよね。お金のこととか、人付き合いとか。虫の世界はそれが全くないでしょう。僕にとっては、虫との関係、自然との関係が原点でもあるし、それに、虫は簡単には変わりません。人間よりも、何十億年も長く、生き物の先輩として存在している。

 「変わらない」ことは、安心にも繋がります。解剖もそうです。生きている人は時々刻々と動いているけれど、死んでいる人はもう動かないし変わらない。現代人はわりあいと、不安だ不安だと言うけれど、みんな、どうやってその不安を解消しているんですかね。僕の場合は、少なくとも、虫を見ていたり、解剖をしていたりする時は、不安から解放されます。

小さいものを拡大することは、世界を拡大すること。

 今回の展覧会『虫展 -デザインのお手本-』では、700倍に拡大した『シロモンクモゾウムシの脚』も展示されています。僕はよく言うんだけど、小さいものを拡大するということは、世界を拡大することです。でも、その先を誤解しがちですが、小さいものを拡大して世界が拡大されると、なぜか「世界をよく見た」と思ってしまう。そうではないんです。小さいものを拡大し、世界が拡大されると、世界は、ぼやけるんです。ある一部分を拡大したレベルが10倍とすると、その隣りも、そのまた隣りも、つまり、全世界が10倍になっているわけで、そんな膨大な世界なんて見られるわけがないだろうという話です。10倍拡大したら、10倍の見えないことが増えるだけ。つまり、「分からないこと」が増えるだけなんです。

虫展 -デザインのお手本-

虫展 -デザインのお手本-

ディレクションにグラフィックデザイナーの佐藤卓、企画監修に養老孟司を迎えた展覧会。多様な虫の姿からインスピレーションを受け、デザイナーや建築家、アーティストが、デザインの新たな一面を探る。2019年7月19日(金)〜11月4日(月)まで、21_21 DESIGN SIGHTで開催。
会場風景(ギャラリー2)(撮影:淺川敏)

シロモンクモゾウムシの脚

シロモンクモゾウムシの脚

展示会場で一際目を引くのは、巨大な虫の脚。これは、昆虫写真家・小檜山賢二による精密写真や3DCGから再現したシロモンクモゾウムシの左中脚。700倍のサイズとなっており、脚に生える微細な毛1本1本までもが、じっくりと観察できる。グラフィックデザイナーの佐藤卓が作品を手がけた。
佐藤卓「シロモンクモゾウムシの脚」(撮影:淺川敏)

 シロモンクモゾウムシの脚を700倍拡大したら、じゃあ、オオゾウムシの脚はどうなっているのか、とか疑問がわきます。日本だけでゾウムシは1,600種類ありますから。それをひとつの種の一部分を見ただけで「分かった」つもりになるのは、要するに「以下同様」でどれも同じだと思って差異を見ていないからですよ。クマゾウムシの脚がああならば、オオゾウムシの脚も同じだろうって。ところがどっこい、全部違う。

 だから僕は、「進歩」と呼ばれるものに非常に強い疑いを持っているんです。電子顕微鏡で人間の細胞を10万倍にして見たとしたら、現物の人間も10万倍に相当するわけで、そのすべてを調べるなんて、机上を飛び出すどころか、それはもう、宇宙旅行ですよ。科学の授業では平気でそれをやって、大学の先生も生徒も、自分たちが世界を分かるようにしていると思っている。というわけで、今回の展覧会も、ここに来て拡大されたものを見たら、虫のことが「分かる」なんて思ったら、大間違いです(笑)。分からないことを増やしているだけだから。

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分からないことは、悪いことではない。

 「分からない」っていうのは、悪いことではないんです。分からないからこそ面白いと思えればいい。けれど、人間は往々にして、分からないものがある状態を都合が悪いと考えます。そして都合が悪いものは排除する。すると結局、自分の周りに分かるものしか置かなくなる。意味を問うことができるものしか置かなくなる。別の言い方をすれば、分からなくて都合の悪い「自然のもの」は置かない、ということになる。

 人間そのものは自然から発生しているから、自然の部分を持っています。でも、都市は、人間からその部分を排除しようとしています。自然の行為であっても、現代社会や現代の都市でやってはいけないことはたくさんある。たとえば、道ばたで立ち小便をしたら、怒られるでしょう。生き物としての尿意は自然なんだけど、そういうものを徹底的に排除して社会も都市も成り立っている。死体があると困る、というのも同じですね。死だって自然ですから。死んだ結果発生するのが死体ですが、死体がそのへんに転がっていたら、扱いに困ります。困るから片付けなければならないとなった時、どうします? 簡単ですよ。酔っぱらって倒れている人と同じ扱いをすればいい。酔っぱらいに対して、わざわざ頭を蹴飛ばしたりはしないでしょう。同じことで、そっと運べばいい。

 そうやって人間が自然を排除し続けると、どうなるでしょうか。脳は、意識の中に引きこもっていきます。まさに、現代人の脳は「引きこもり型」といってもいい。

引きこもりの脳を解放するためにアートがある。

 「引きこもり型」になった脳を正常に戻すためには、感覚を取り戻すことが必要です。その感覚を取り戻すためには、「自然のもの」に触れればいい。となるわけですが、いきなり「自然のもの」に直面させると、刺激が強すぎるんです。急に死体を見せたり、ゴキブリの大群を見せたりすると、拒絶してしまいます。だからまず、きれいなものから見せていくといいんです。流入経路が開かないと感覚も入ってくれませんから。そういう意味でアートは、非常にいいきっかけになると思いますよ。外の世界と繋がる感覚が、通りやすくなる。そのアート自体も時々、自閉気味になってしまうので、今回の展覧会のように、「虫」という自然をアートやデザインのお手本として扱うことは、とてもいいのではないかと考えています。

 アートは「人がつくるもの」という意味で、ともすると自然と対局にあるものだと捉えられがちです。でも、本当はそうじゃない。アートは自然と同じように、感覚の域にあるもので、もっと言えば、感覚と外界の接点にあるものです。たとえば、今回の展覧会でも紹介している小檜山賢二さんの「トビケラの巣」の画像は、自然の産物をアートの観点で見たものです。落ち葉や枝や小石などでつくられたトビケラの幼虫の巣は、驚くほど美しい。問題は、その場合、作品の作者は誰なのかで(笑)、アートとしては小檜山さん、いやいや、やっぱりトビケラか。どっちなんでしょうね。

 デザインについてお手本にした「自然」をどう展開していくかは、デザインをやっている人にお任せするしかない。時々、そういうことを学ぶには、どんな本を読んだらいいか聞かれますが、本は所詮、人の頭の中のアウトプットですからね。本は、整理するために読むもので、体験は現物からおこさなくではダメです。人の話を聞いてなんとかしよう、なんていうのは怠け者です。クリエイターが一番やらなければならないのは、身体を使うこと。つまり、感覚を使うことなんです。

トビケラの巣

トビケラの巣

トビケラの幼虫が、落ち葉・枝・砂・小石などをつかって水中につくる巣を撮影した作品。種によって巣の材料は異なり、さらに生息環境の違いによっても変化するという、多様性に富んだ巣のあり様を見せる視覚的にも美しい作品となっている。
小檜山賢二「トビケラの巣」(撮影:淺川敏)

後編はこちら

養老孟司

養老孟司 / 解剖学者
養老孟司 / 解剖学者

1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。1962年 東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年 東京大学医学部教授を退官し、東京大学名誉教授に。著書に『からだの見方』(サントリー学芸賞受賞)『形を読む』『解剖学教室へようこそ』『日本人の身体観』『唯脳論』『バカの壁』『「自分」の壁』『養老孟司の大言論(I)〜(III)』『身体巡礼』『骸骨巡礼』『遺言。』など多数。昆虫を通して生命世界を読み解きつつ、「身体の喪失」から来る社会の変化について思索を続けている。

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