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INTERVIEW
107
塩田千春アーティスト CHIHARU SHIOTA / Artist
CHIHARU SHIOTA / Artist

『国籍も性別も問わず、わかりあえるところ』【後編】

日本と世界をつなぎ、境界線のない自由な世界へ。

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  • NO107 塩田千春 『国籍も性別も問わず、わかりあえるところ』【後編】
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update_2019.08.07 photo_yoshikuni nakagawa / text_akiko miyaura

現在、森美術館で、25年間のアーティスト活動の軌跡を振り返る大規模な個展を開催している現代美術家の塩田千春さん。生や死、不安、焦燥。心では感じ取れるのに、形として表れないもの、目に見えないものが塩田さんの作品には存在します。日常にある個人的体験が出発点であるにも関わらず、多くの人が共感し、引き込まれるのはそこに普遍的なテーマがあるからこそ。今回の展覧会で感じたこと、そして現在拠点とするベルリンでの生活や、東京との違いなど、さまざまな角度からお話をうかがいました。

前編はこちら

凄まじいエネルギーと吸引力を感じたベルリンの街。

 現在はベルリンに住んでいますが、最初からこの地に住もうと決めていたわけではないんです。美大を卒業してすぐにギャラリーで個展をしたり、美術館で展覧会を開いたりすることはほぼ不可能。そこでもっと勉強しようと、留学を考え始めたんです。当時ドイツに受け入れ先があったこと、たまたま訪れたベルリンが魅力的だったことが住むきっかけになりました。

 ドイツを東西に分けていたベルリンの壁が壊されたのが1989年。私がドイツに渡ったのはその数年後だったので、いたるところで改装工事が行われていて、アーティストたちがその現場にどんどんと入っていっていました。とにかく自由な空気が流れていて、当時は世界各地で展覧会やビエンナーレ、トリエンナーレをすれば、ベルリン在住のアーティストばかり。世界から集まったアーティストがアトリエを持ち、様々な国が混じり合い、主張しながら生きていて、凄まじいエネルギーと吸引力があったんです。

ベルリンの壁

ベルリンの壁

第二次世界大戦後、ドイツは東西に分断されたが、資本主義の西ドイツと、社会主義の東ドイツの間には経済的な格差があった。東から西へと亡命する人が続出し、それを阻止するために1961年、ベルリン市内につくられた壁。27年を経て1989年に崩壊し、翌年には東西ドイツが再統一。現在は文化財として、一部が保存されている。保存された箇所には、100人を超えるアーティストによる壁画が描かれている。

 その空気に触れて、「絶対、ここに住みたい」と思いました。あらためて振り返ってみると、特別な時代だったのだと思います。人や文化がたくさん流れてきて、何かが生まれる空気がただよっていた。どこか、70年代のニューヨークのようでしたね。

 今は、ベルリンもきれいになって雰囲気も変わりましたが、ドイツでありながらドイツらしくないという部分は変わらないです。ミュンヘンやフランクフルトなどに比べて、多国籍で住む人の顔つきが少し違うんです。だからか、私もベルリンにいる時は自分の国籍を忘れてしまうんです。

20代に体験した日本の現代美術を取り巻く厳しい環境。

 そういう自由な場所だからこそ、生まれた作品がある。きっと、長く東京に住んでいたら、今の作品はつくれていないと思います。22、23歳のころ、個展を開きたくてリュックサックにポートフォリオを詰め込んで、銀座のギャラリーをまわったことがあるんです。もちろん、反応は厳しいものでした。まず、ギャラリーを1週間借りるのに50万円という大金がかかる。無理をしてやったところで来てくれる人は、友だちや美大の先生。それでは意味がないんです。

 そもそも、貸し画廊という概念が海外にはありません。みんな展覧会をして、その売り上げだけでやっているのですが、日本のギャラリーはアーティストが家賃を払った上に、売上に対して画廊がマージンを取るシステム。学生や若手アーティストには、とてもハードルが高い。20年ほど前は、それが当たり前でした。特に現代美術に対する理解がまだまだ乏しく、"アーティスト"という職業が成立しない時代。最近はアーティストと言えばなんとなく通じますけど、それでも生活を支えると言う意味での「本当の職業は何ですか?」と、今も一度は聞かれます(笑)。

 ドイツでもアーティストとして食べていくのは大変ですが、アートが身近にあるという点では、日本と環境が違うかもしれません。クリスマスプレゼントとして現代美術を買ったり、当たり前に家に飾ってあったり。何より人々の中に、アーティストへのリスペクトがあります。

"どうでもいい"物質的な豊かさより、大好きな絵を飾るよろこび。

 もちろん、以前に比べて東京も変わりました。少しずつアートが根づき、身近なものになりつつあるように感じます。ただ、滞在していると競争社会だなと感じる部分もあります。才能ではなく、物質的な競争――たとえば、どこに住んでいるとか、どれだけお金を持っているとか、子どもがどこの学校に通っているとか。死ぬ時に持っていけない"どうでもいいもの"が、東京にはうごめいている気がしてならないんです。それゆえに、がんばりすぎて体を壊したり、自分の気持ちを伝えられなかったりするのかなとも思います。

 物質的な面で言えば、ベルリンは70年代かなと思うくらい地下鉄も古びていて、ファッションも気にしない人が多い。でも、生活するには十分なんです。それよりも大好きな絵を家に飾り、その絵を通じて会話ができること、心が通じるものが家にあることの方が重要なんです。

 そもそも、教育が違うのも大きいかもしれません。日本は人と同じことを言うのがよしとされますが、ドイツでは違うことを言わなくちゃならない。でも、日本もこれから変わっていくと思います。それぞれが違った心を持って、違った意見を言って、ぶつかり合って、ひとつのものを形成していく。そのほうが、より人間らしくていいじゃないですか。

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《内と外》(2008/2019年)

アジアの一部であるけれど、日本は日本。

 日本のアートをとりまく環境も、刻々と変化しています。たとえば、欧米の展覧会を日本が受け入れて、ステイタスを見せる時代ではなくなっている。『塩田千春展:魂がふるえる』も、釜山、ブリスベン、ジャカルタ、台北と巡回する予定ですが、日本から発信して、アジアをまわるような時代になったんだなとうれしく思います。

 何より世界は今、アジアを見ています。エネルギーの強さと時間の速さ、人の動き方、考え方......そのどれもが、他の地域とは違います。また昨今はアジアにコレクターが増え、新しい美術館がどんどんできている。主要なアーティストは『アート・バーゼル香港』に参加していますし、MoMAのコレクションのミーティングも香港で行われています。

アート・バーゼル香港

アート・バーゼル香港

1970年より、スイスのバーゼルで毎年開催されているアートフェア。その後、アメリカのマイアミ、香港でも開催されるように。『アート・バーゼル香港』は、大きな成長を続けるアジアのアートマーケットを象徴する存在でもある。第一線で活躍する世界のアーティストから、勢いのある新進気鋭のアーティストまでが集い、様々なジャンルの作品を展示する。画像は、2019年度、塩田さん作品《どこへ向かって》(2019年)展示風景。
展示風景:「Encounters」 アート・バーゼル香港2019
Courtesy:Galerie Templon, Paris/Brussels
撮影:Sébastiano Pellion

 一方では、日本がその勢いに押されている感じがあります。日本はよくも悪くもプライドがあって、アジア各国からリスペクトもされています。だから、アジア内に日本発の展覧会の受け入れ先はたくさんあるけれど、肝心の日本にはアジアの一部という認識がない。ひとつの国だけで成り立っている印象を受けるんです。私もドイツから帰ってくるまでは、日本はアジアの一部だと思っていましたが"日本は日本"だった。

国籍も性別も問わない、国境もない。現代美術は自由であってほしい。

 なぜ、ここには国境があるんだろうと、とても不思議に感じるんです。本来、自由であるはずの現代美術の世界にも、国境やナショナリズムの意識がまだ残っているんです。

 たとえば、グローバリゼーションの展覧会だと聞いて行くと、日本人の作家、アフリカ人の作家、アメリカの作家といったように、何カ国の作家を集めましたという表があって......それってナショナリズムですよね。また、私が『ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展』の日本館で展示した時、「日本の代表としていかがですか?」と質問をされたことにも違和感がありました。

ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館

ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館

2015 年開催の『第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展』で、日本館展示作家として塩田さんが選ばれた。2階の展示室と1階の野外ピロティを使った大規模なインスタレーション《掌の鍵》(2015年)を制作。空間を埋めつくす赤い糸の先に5万本もの鍵が吊り下げられた作品は大きな驚きを与えた。大切な人や空間を守る大事なものであり、扉を開けて未知の世界への行くきっかけをつくる鍵によって世界中の記憶が重なり、生きることの意味を問いかけた。
展示風景:第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館(イタリア)2015年
撮影:Sunhi Mang

 もちろん日本を否定するわけではないのですが、私は生け花や茶道と言った日本の文化を伝える作品をつくっているわけではなくて、国籍も性別も問わず、わかりあえるようなところにいるつもり。だから、そもそも日本の代表という考えがないんです。この先、そういった意識が、もっと取り払われた世界になればいいなと思います。

今、興味があるのはアジアの若いパワーと彼らの吸収力。

 だから、もし私がこの六本木で何か作品をつくるなら、日本と世界とをつなぐような、より国境がなくなるようなことができたらと思います。その一歩として、まずは六本木を伝えることをしたいですね。森美術館ひとつとっても、これだけ高い場所に大きな美術館があるのは私が知る限り世界の中で六本木だけですから。「53階に美術館をつくろう」と構想して建てる時の、森さんの興奮を想像しただけで感動します。

 今、世界の美術関係者が本当に興味を持っているのは、森美術館と直島なんです。直島にしても、どうして田舎の島にあれだけの美術作品があって、おじいさん、おばあさんが作品を説明できるのか、すごく不思議に感じるそうです。そういった部分を表面的ではなく、よりフラットに身近に伝えられたらいいですよね。

 私個人が、興味を持っているのはアジアでの展覧会。近々、ハノイと中国の美術館の方と打合せをするのですが、働いている人たちの多くが20代という若さなんです。まさに現代美術に興味を持ち出して、どんどん吸収しているところ。話していて本当におもしろいですし、この先、そういった人たちと関わっていけると思うと楽しみで仕方がないんです。

取材を終えて......
圧倒的な存在感を持ちながら、繊細で心の隙間にそっと忍び込んでくるような塩田さんの作品は、前から見た時と、ふと振り返って見た時では、まったく景色が違います。見えないものへの不安と、見えないからこその希望が共存しているように思うのです。丁寧に、静かに、でも強い意志を感じるインタビューを終えた時、生きていてくださってありがとうございます、と心でつぶやかずにはいられませんでした。命と向き合いながらつくった展覧会。生きることの意味をその身で感じた塩田さんが、次にどんな作品を手掛けられるのか、そっと待ちたいと思います。(text_akiko miyaura)

前編はこちら

塩田千春

塩田千春 / アーティスト
塩田千春 / アーティスト

1972年、大阪府生まれ。ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在感を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2015年には、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表。森美術館(2019年)、南オーストラリア美術館(2018年)、ヨークシャー彫刻公園(2018年)、高知県立美術館(2013年)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(2012年)、国立国際美術館(大阪、2008年)を含む世界各地の個展のほか、シドニー・ビエンナーレ(2016年)、キエフ国際現代美術ビエンナーレ(2012年)、横浜トリエンナーレ(2001年)などの国際展にも多数参加。

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