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INTERVIEW
107
塩田千春アーティスト CHIHARU SHIOTA / Artist
CHIHARU SHIOTA / Artist

『国籍も性別も問わず、わかりあえるところ』【前編】

日本と世界をつなぎ、境界線のない自由な世界へ。

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  • NO107 塩田千春 『国籍も性別も問わず、わかりあえるところ』【前編】
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update_2019.07.31 photo_yoshikuni nakagawa / text_akiko miyaura

現在、森美術館で、25年間のアーティスト活動の軌跡を振り返る大規模な個展を開催している現代美術家の塩田千春さん。生や死、不安、焦燥。心では感じ取れるのに、形として表れないもの、目に見えないものが塩田さんの作品には存在します。日常にある個人的体験が出発点であるにも関わらず、多くの人が共感し、引き込まれるのはそこに普遍的なテーマがあるからこそ。今回の展覧会で感じたこと、そして現在拠点とするベルリンでの生活や、東京との違いなど、さまざまな角度からお話をうかがいました。

後編はこちら

より深く追求した、過去最大級の個展で見えたもの。

 実は取材前に、森美術館で開催中の『塩田千春展:魂がふるえる』を少しのぞいてきたところなんです。本当に多くの方が来てくださっていて、私自身も驚きました。実際につくっている最中は誰もいないので、作品の傍らに人の存在があるのは、すごく不思議な気持ちでもありました。

 展示室に入ってすぐに《不確かな旅》が展示されているのですが、足を踏み入れた瞬間にびっくりした表情をされた方がいて、その横で同じように驚いていた方がいたんです。次の瞬間、知らない人同士であるはずの、おふたりが顔を見合わせて相づちを打ちながら目で会話をする姿を見て嬉しくなりました。

塩田千春展:魂がふるえる

塩田千春展:魂がふるえる

新作を含むインスタレーションを中心に、立体作品、パフォーマンス映像、写真、ドローイング、舞台美術の関連資料などを加え、25年にわたる活動を網羅的に紹介した、塩田さん史上最大級の展覧会。鑑賞者に生きる意味や魂とは何かという根本的な問いを提示します。
2019年6月20日(木)~10月27日(日)まで、森美術館で開催。

不確かな旅

不確かな旅(2016/2019年)

展示室いっぱいに張り巡らされた赤い糸と船が配されたインスタレーション。赤い糸は、全長280キロメートルほどになるという。塩田さんの作品によく登場するモチーフでもある舟は、過去の展覧会では本物の船が使われていたが、今回はより抽象化されたフレームのみの形となっている。
Courtesy: Blain|Southern, London/Berlin/New York
展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年
撮影:Sunhi Mang
画像提供:森美術館

 過去にも、いままでの作品をまとめたことはあるのですが、今回ほど自分と向き合った展示は初めてかもしれません。ひとつひとつの展覧会は、その時々で必死にやってきたのですが、こうしてまとめていただくと、過去と今がリンクしているんだなと再確認することができました。

 たとえば、初期に赤い絵の具をかぶって自ら絵になったパフォーマンスや、赤い糸のインスタレーションがあるのですが、このころから"赤"だったな、と。当時はあまり考えていなかったけれど、今も赤は私の作品の中で大切な色。その色が最初から登場していることに、あらためてつながりを感じました。

 また、土の中を裸で転がるパフォーマンスの記録が展示された後、泥のドレスがあって、泥をシャワーで洗い流すパフォーマンスへと、土を介して作品がつながっていく。ただ、バスルームで泥をかぶるビデオは、その時の苦しみが伝わってくる気がして、今、自分では見られないんです......。当時のベルリンの時代と状況があの作品をつくっている。だから、どこか自分とは別物のようにも感じますし、今、同じ苦しみを持ったとしたら、まったく違う表現をするんだろうなと思います。

闘病から始まった展覧会。作品に思いを込めることで"私"を説明できた。

 そして、この展覧会は思わぬ状況から始まりました。チーフキュレーターの片岡真実さんからご連絡をいただいて、ベルリンでお会いしたんです。それが手術が予定されていた前日の夜だったのですが、その時にこの個展のお話をいただきました。「生きていてよかった。今までやってきて本当によかった」と、そう思った翌日、手術の後にお医者さんからガンが再発したことを聞かされたのです。

 最初は簡単な手術だと思っていたのですが、開腹してみると想像以上に転移していて、臓器を3つ摘出せねばならない状態だったんです。そんな大きな手術を終えて抗がん剤の投与が始まると、そこからはベルトコンベアに乗せられたように、どんどんと治療が流れていく。このベルトコンベアに乗れば、元気になれるのはわかっているけれど、感情や意識を持った"私"という部分が欠けてしまった。魂が置いてけぼりにされているような感覚が残りました。

 こういった経験から、私は感情や意識に触れるような作品をつくりたい、何か形にしたいと、より思うようになりました。また、病気がこの展覧会に影響を与えた部分も多々あります。命がなくなった後、感情や意識はどこへ行ってしまうのか。体は殻でしかないと考えるなら、殻の中の私はどこへ行くのか。そして、万が一の時、娘は母親なしでどうやって生きていくのか。そんな疑問や不安と向き合いながら、展覧会を構想していました。

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《外在化された身体》(2019年)

人の心はもっとも解決がつかないもの。だからクリエイティブになる。

 今回のメインビジュアルに書かれた「たましいってどこ?」という字は、私の12歳になる娘が書いたものなんです。まさにこの言葉のように、人の心って、いちばん解決がつかないものだと思うんです。気持ちは移ろいやすいものですし、愛する故に憎んでしまったり、すごく複雑で、誰しもが抱えきれない葛藤を持って生きているのではないでしょうか。

 きっと、心がなければ、抗がん剤治療で魂が置いてけぼりになる感覚も、私という部分が欠けてしまう感覚もなかったのもしれない。もっと受け入れやすく、簡単なものだったんだろうと思います。でも、現実に心はあって、それをどう説明していいのかわからないからこそ、表現へとつながるのだと思います。

 この展覧会を通して、自分の中で"塩田千春"をより理解できた気がしています。今はオープンからだいぶ日にちも経ってきたので、私の仕事はそろそろ終わり。ここからは、来てくださった方たちの記憶の中で、作品が生きてくれたらいいなと願っています。

足りないものばかり。何かを埋める行為が作品をつくること。

 療養中に感じた、自分が欠けてしまう感覚とはまた違うものですが、"足りていない"という思いは、私の中にずっとあります。自分には足りないものばかりーーその満たされない何かを埋める行為が、私にとっては作品をつくることなんです。だから、私の作品はちょっとした欠けやズレから始まることがほとんどです。

 ドイツに住んで3年ほど経った時、久しぶりに日本に帰ったら、いろんな違和感があったんです。昔の靴を履くと、サイズは変わらないのに、履き心地がしっくりこない感覚が残りました。昔の友だちと会っても何かが違う。人も物も風景も全部が違っていて、自分が3年の間に想像していた日本と、実際に見た日本との間にギャップがありました。その時の"なぜ"が作品につながるんです。

 ただ、私の場合はすぐに形にするのではなく、自分の中で温めている期間があります。心で感じたことと向き合い、イメージを膨らませて、最後にやっと形にしていく。その間に新しいアイデアが浮かんでも、あえてスケッチなどはしません。絵にした時点で、絵という作品になってしまうので。そのかわりに、言葉だけを書き起こすことはあります。たとえば、焼けたピアノを置いた《静けさのなかで》は、最初に「私の本音には音がない」という言葉だけを書いて、そこからイメージを広げて形にした作品です。

静けさのなかで

静けさのなかで(2002/2019年)

焼けたグランドピアノと焼けたイスが黒い糸に絡まって包まれたように展示されたインスタレーション。塩田さんが、幼少期に体験した隣家の夜中の火事の記憶から生まれた作品でもある。音の出ないピアノは沈黙を象徴しながらも、視覚的な音楽を奏でる。圧倒的なのに、まるで繊細な心を表すようだ。
制作協力:Alcantara S.p.A.
Courtesy: Kenji Taki Gallery, Nagoya/Tokyo
展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年
撮影:Sunhi Mang
画像提供:森美術館

 ただ、マテリアルを探す段階になると、イメージしていたものは壊れていきます。本当にこの材料でいいのかな、私のイメージしたものはこれなのかなと、迷いや疑問がたくさん生まれる。その時が、一番苦しいです。さらに"完成"と思えるまでには、長い時間を要することが多いです。

 たとえば、《集積―目的地を求めて》も、最初は10個ほどのスーツケースを集めたけれど、全然足りなかった。さらに集めて、200個になった時に展示をしたのですが、それでも足りないと感じて、結局、最後は440個くらいになりました。各国で展覧会をしながら、「これでいいんだ」と感じるまで継続していくのが、私の作品づくり。『集積』もセリビア、イタリア、デンマーク、そして日本と循環するうちに形を変え、完成に近づいていきました。

集積―目的地を求めて

集積―目的地を求めて(2014/2019年)

インタビュー中にも、「最終的に440個になった」と話す、スーツケースが会場の宙を舞う。塩田さんがベルリンの蚤の市で見つけたスーツケースのなかに、古い新聞を発見したことをきっかけに制作された。ゆらゆらと揺れ、スーツケースがぶつかり合って音を鳴らすさまは生物的で、見知らぬ人の記憶や旅が今もなお続いているような感覚に陥る。
Courtesy: Galerie Templon, Paris/Brussels
展示風景:「塩田千春展:魂がふるえる」森美術館(東京)2019年
撮影:木奥惠三
画像提供:森美術館

何もない、何にもならない自由な時間こそ大切。

 そのクリエイティブの過程の中で、特に大切だと感じるのは自由な時間。ヨーロッパには"カフェ文化"がありますが、何をしているのかわからないような人たちが、昼間からカフェでお茶を飲んでいる姿をよく見かけます(笑)。

 何もない、何にもならない時間、ただボーッと過ごす時間って、すごく大事。たとえば朝、仕事に行く前にカフェに立ち寄ると、最初は「あれしなきゃ」「これをやらないと」と頭に浮かんでくるけれど、それを越してもなおボーッとしていると、作品についてのアイデアや思いがいろいろと出てくるんです。むしろ、その時間にしか、生まれない何かがある。私の作品づくりにおいて、何もない自由な時間は必要不可欠なんです。

後編はこちら

塩田千春

塩田千春 / アーティスト
塩田千春 / アーティスト

1972年、大阪府生まれ。ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在感を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。2008年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2015年には、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表。森美術館(2019年)、南オーストラリア美術館(2018年)、ヨークシャー彫刻公園(2018年)、高知県立美術館(2013年)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(2012年)、国立国際美術館(大阪、2008年)を含む世界各地の個展のほか、シドニー・ビエンナーレ(2016年)、キエフ国際現代美術ビエンナーレ(2012年)、横浜トリエンナーレ(2001年)などの国際展にも多数参加。

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