森美術館では2026年9月23日(水・祝)まで、カルティエ現代美術財団との共催による「ロン・ミュエク」展を開催しています。本展は、2023年にパリの同財団で開幕した巡回展で、ミラノとソウルを経て、森美術館で開催されています。日本では18年ぶりとなる大規模個展です。
本展の魅力は、何といっても展示される11点のうち、半数以上となる6点が日本初公開であること。ロン・ミュエク氏は一作品の制作に数ヶ月から数年をかけ、過去30年で制作された総数が50点ほどという寡作な作家です。そのため、これほど多くの作品を一度に見られるのは、極めて貴重な機会となっています。

まず登場するのは、2009年の作品《枝を持つ女》です。全裸の女性が木の枝の束を必死に抱えようとする姿が表現されています。彼女がなぜ裸なのか、どういう目的があるのかは説明されておらず、鑑賞者自身の想像力をかき立てます。

続く巨大な彫刻《イン・ベッド》は、ベッドに横たわる中年女性をモチーフにしており、ミュエク氏の単体人物彫刻の中では最大級の作品です。女性の視線は宙をさまよい、その先にあるものへの想像を誘います。

日本初公開の《エンジェル》は、背中に羽を持つ男性がスツールに座っている彫刻で、初期の代表作です。一般的な天使のイメージとは異なる、どこか物憂げな表情でうつむく普通の男性の姿は、鑑賞者に深い思索を促します。

会場内では、フランスの写真家・映画監督のゴーティエ・ドゥブロンド氏が制作した写真シリーズと2点の映像作品も公開されています。彼は25年以上にわたり、ミュエク氏のスタジオや制作プロセスを記録してきました。ミュエク氏は自らの作品について多くを語らないため、制作の舞台裏を垣間見られるまたとない機会です。

下着姿の老人がテーブルの上の鶏と緊張感をもって対峙する奇妙な光景を描く、《チキン/マン》。他のどの作品よりも長い時間をかけ、あらゆる細部を熱心に表現したそうです。その並外れたこだわりは、ドゥブロンド氏の映像でご覧いただけますのでお見逃しなく。

《マスクⅡ》は、眠りにつくミュエク氏自身の顔を約4倍の巨大サイズで表現した作品です。寝息が聞こえてきそうなほどリアルですが、裏側に回ると完全に空洞になっていることが分かります。このように巨大な彫刻の裏側まで確認できるのは、本展ならではです。

ハイライトとなるのが、日本初公開の大型作品《マス》。巨大な頭蓋骨の彫刻100点で構成されたインスタレーションで、約300平方メートルに及ぶ森美術館の空間に合わせて独自に再構成されています。無数の頭蓋骨の間を歩くことで、人間の圧倒的な存在感や生と死について深く考えさせられます。

単なるリアルな彫刻の枠を超え、人間として生きることの本質や脆さ、強さを提示する本展。彼の作品と向き合う時間は、自分自身の存在や他者との関わりを再考する貴重な体験となるはずです。紛争や災害など、世界中で命の重みが脅かされる今だからこそ、ヒューマニティを問う本展にぜひ足を運び、その圧倒的な存在感を体感してみてはいかがでしょうか。
編集部 齊藤
「ロン・ミュエク」
会期:2026年4月29日(水・祝)~9月23日(水・祝)
休館日:会期中無休
開館時間:10:00~22:00(火曜日のみ17:00まで、ただし8月11日、9月22日は22:00まで)
※最終入館は閉館時間の30分前まで
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
主催:森美術館、カルティエ現代美術財団
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.mori.art.museum/jp/
