国立新美術館で2026年5月11日(月)まで、「テート美術館 - YBA&BEYOND 世界を変えた90s 英国アート」が開催中です。本展は、テート美術館のコレクションを中心に、1980年代後半から2000年代初頭にかけて制作された英国美術に焦点を当てる企画展です。当時のイギリスは経済不況を経験し、失業者が溢れるなど激動の時代にありました。

そんな社会不安の中、「パンク精神」を持って既存の美術の枠組みに立ち向かった「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」と呼ばれる若手作家や彼らと同時代のアーティストたちが多様な手法で独創的な作品を発表しました。本展では約60名の作家によるおよそ100点の作品が一堂に会します。

会場では、現代美術の巨匠フランシス・ベーコン氏の作品を皮切りに、彼に影響を受けた新しい世代の作品が来場者を迎えます。第1章「ブロークン・イングリッシュ:ニュージェネレーションの登場」では、空き倉庫などを利用して自ら作品を発信した若手作家たちの起業家精神を紹介しています。ダミアン・ハースト氏の初期の代表作《後天的な回避不能》は、たばこの吸い殻やガラス張りの密閉空間を用いて、現代社会における「死」の問題を観客に鋭く問いかけています。

社会問題への眼差しという点では、本章に展示されているクリス・オフィリ氏の《ユニオン・ブラック》も印象的です。国旗をパン・アフリカン・カラーに塗り替えることで、華やかなカルチャーの枠組みからこぼれ落ちる課題を浮き彫りにしています。

第2章「おおぐま座:都市のイメージをつなぐ」は、サッチャー政権下の経済政策による団地の解体など、都市と社会の変容に向き合う構成です。

第3章「あの瞬間を共有する:音楽、サブカルチャー、ファッション」では、異なるカルチャー分野が互いに刺激を与え合っていた当時の熱気を色濃く伝えています。ここで注目したいのが、ジェレミー・デラー氏の《世界の歴史》です。ブラスバンドとアシッド・ハウスという二つの音楽形式を中心に、労働者階級の文化に根差した音楽の歴史や影響関係を表現し、音楽が人々の生活にかけがえのないものとして存在していることを示しています。

章と章の間は「スポットライト」と呼ばれる展示がつなぎます。トレイシー・エミン氏の映像作品《なぜ私はダンサーにならなかったのか》などが上映され、展示に心地よいアクセントを添えています。

第4章「現代医学」は、エイズ危機など医療への関心が高まった時代背景を反映しています。ヘレン・チャドウィック氏の《エロティシズム》といった作品群が並び、身体や病に対する当時のアーティストたちの眼差しを伝えます。

第5章「家という個人的空間」で必見なのは、モナ・ハトゥム氏の《家》です。調理器具をワイヤーでつないで電気を流し、伝統的に女性の領域とされてきた台所を不穏な空間として提示することで、家父長制の閉塞感を表現しています。

空間全体を使ったダイナミックな作品も見どころです。コーネリア・パーカー氏の《コールド・ダーク・マター:爆発の分解イメージ》は、陸軍に依頼して爆破させた物置小屋の残骸を吊るし、爆発の瞬間に時を止めたかのような強烈なインパクトを残します。

さらに第6章「なんでもないものから何かが生まれる:身近にあるもの」では、マイケル・クレイグ=マーティン氏が《知ること》において日用品を現実と矛盾する大きさで描き、見る者のイメージ認識のプロセスそのものに疑問を投げかけています。
見慣れた日常のものを新たな視点で提示し、社会に鋭い問いを投げかけた90年代英国の若きアーティストたち。彼らの革新的な軌跡を、ぜひ会場で体感してみてください。
編集部 齊藤
「テート美術館 - YBA&BEYOND 世界を変えた90s 英国アート」
会期:2026年2月11日(水・祝)~5月11日(月)
開館時間:10:00~18:00
※会期中の毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日:毎週火曜日
※ただし2026年5月5日(火・祝)は開館
会場:国立新美術館 企画展示室2E
主催:国立新美術館、テート美術館、ソニー・ミュージックエンタテインメント、朝日新聞社
協賛:バーバリー
協力:日本航空、ヤマト運輸
後援:ブリティッシュ・カウンシル、J-WAVE
※2026年6月3日(水)~2026年9月6日(日)京都市京セラ美術館に巡回
公式サイト(URLをクリックすると外部サイトへ移動します):
https://www.ybabeyond.jp/
