いよいよ「六本木アートナイト2025」が、9月26日(金)から9月28日(日)の3日間にわたって開催されます。「都市とアートとミライのお祭り」をテーマに約30組のアーティストによる50以上のプログラムが展開されます。開催直前、今回のアートナイトの見どころや、編集部おすすめコースをご紹介します。
今年で14回目を迎える六本木アートナイトの最大の注目ポイントは、昨年からスタートしたさまざまな国や地域のアートに注目する「RAN Focus」。今回は国交正常化60周年を記念して「韓国」にフォーカスします。IT産業やエンターテインメント産業で世界をリードする韓国では、多くのアーティストがグローバルに活躍しており、今年は気鋭の韓国人アーティスト6組による多彩なプログラムが六本木の街を彩ります。
キム・アヨン
カン・ジェウォン
イム・ジビン
ジン・ヨンソブ
TAGO
ソ・ナンジェ
3日間で50以上のプログラムが展開します。まずは、メイン会場となる、街なか、六本木ヒルズ、国立新美術館、東京ミッドタウンの各会場で気になる作品があるかチェック! 開館延長をしている美術館などもあわせて確認してみましょう。
自分でスケジュールを組み立てるのはちょっと難しい、という方にはこちら。来場前に、気になるパフォーマンスをチェックするにはとても便利なイベントガイドです。
六本木ヒルズアリーナでは、アートナイトの始まりをつげるセレモニーが開催。参加アーティストやメイン作品の展示やパフォーマンスもまとめて見ることができます。メトロハットでは、イム・ジビン氏によるパフォーマンス《EVERYWHERE》もチェックしよう。
カン・ジェウォン《Exo2_crop_xl》《Flame》
《Exo2_crop_xl》(2022年)をはじめとする作品群は、デジタルで生成された彫刻をアーティストが物理的に再現したシリーズです。見た目は金属のようで頑丈そうに見えますが、実際は空気で膨らませた風船でできていて、空洞であり、送風機の電源が切れて空気が抜けると形を保つことができなくなります。
キックオフセレモニー会場の六本木ヒルズアリーナで、作品を鑑賞することができます。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/401/
イム・ジビン《EVERYWHERE》
慣れ親しんだ街角や公共の空間にゲリラ形式で作品を設置し、瞬間的な美術館へと変貌させる「デリバリー・アート(Delivery Art)」の概念を実践してきたイム・ジビン氏の代表的プロジェクト《EVERYWHERE》。どこかに挟まれて潰れたクマの風船の造形物「ベアバルーン」を都市の至る所に設置し、観覧客が日常の中で自然に芸術と出会える展示です。
激しい日常を生きていく現代人の姿を潰れた「ベアバルーン」で表現し、都市の風景の中にある見慣れた空間に、愉快で比喩的な造形物を通して小さな慰めと笑いを伝えます。今回、街なか各所で「ベアバルーン」を出現させるパフォーマンスを実施。26日(金)はメトロハットでのパフォーマンスが予定されています。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/242/
TAGO《韓国の鼓動 ドラム・シャーマン》
韓国の伝統芸能を現代的なセンスを活かして斬新なスタイルで受け継ぐパフォーマンスグループ「TAGO」。打楽器によるグループアンサンブルと躍動的な舞踊が一体となったそのステージは世界の舞台芸術の祭典「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」でも高い評価を受けるなど、世界各地で輝かしい注目を集めています。
六本木ヒルズアリーナで会期中、毎日公演するほか、ほかの場所でも何度かミニパフォーマンスが行われます。初日となる26日(金)は、19:30から六本木ヒルズアリーナでパフォーマンス予定。その他、六本木ヒルズ66プラザや龍土町美術館通りでもパフォーマンスを見ることができます。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/400/
キム・アヨン《デリバリー・ダンサーズ・アーク:0度のレシーバー》
《デリバリー・ダンサーズ・アーク:0度のレシーバー》(2024年)は、キム・アヨン氏の《デリバリー・ダンサーズ・スフィア》(2022年)の2つの続編のうちの1つで、テクノフューチャリスティックなソウルの街と様々な次元を舞台に、若い女性配達員達の旅を描いています。
圧倒的な世界観に引き込まれる、キム・アヨン氏の映像作品が六本木ヒルズアリーナで上映されます。26日(金)にはトークイベントも実施予定なので、映像とあわせて作家の生の声を聴いてみては?
https://roppongiartnight.com/2025/programs/568/
26日(金)ではありませんが、韓国のアーティストによる注目のパフォーマンスも展開します。六本木ヒルズアリーナと66プラザでのスケジュールを是非チェックしてみましょう。
ソ・ナンジェ《ポロシウム》
《ポロシウム》はポールとコロシウムを組み合わせた造語で、観客参加型サーカスパフォーマンスです。ポールを立てるというシンプルな目的を達成するため、パフォーマーも観客も一連のプロセスを経験することで、その間の境界は崩れていきます。《ポロシウム》は観客とともに作り上げていくものであり、その過程で起こる人間関係や協力、そして苦闘や失敗の瞬間など、そのプロセスそのものが重要です。それはまさに、人生の縮図です。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/1046/
六本木ヒルズアリーナでは見逃せないパフォーマンスが続くのですが、そろそろ国立新美術館に向けて移動。その前に、六本木ヒルズ ウエストウォークでの小野海氏、草野絵美氏、リン・ジエウェン氏+ラバイ・イヨン氏による3作品もお見逃しなく。
小野海《Prism-Aureola》
《Prism-Aureola》は日常生活の中で自然と人が交わる瞬間に着目し制作した巨大な彫刻作品です。雲、雨、虹などの空に由来するモノをモチーフに、空の営みを"時間の具現化"と捉え、空から地上へと降り注ぐ現象が彫刻装置の中で重力と共に再構成されています。 小野海氏は「美しいモノは日常の中に沢山ある。欲張らず、自分の周りにあるモノに気付くこと、そしてそれらをちゃんと見ること。この作品がきっかけになればと思う」と語っています。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/403/
草野絵美《Synthetic Youth - Takenoko Zoku》
1980年代初頭、東京・原宿の路上には若者文化「竹の子族」が出現しました。鮮烈な衣装を身にまとい、歩行者天国で突如踊り出した彼らは、ごく短期間だけ強烈な印象を残し、跡形もなく姿を消しました。本作では、アーティスト自身が直接体験することのなかった曖昧で刹那的なカルチャーを、西洋で得られる情報に限って学習させた生成AIの想像力のみで再構築しています。「実在しない音楽」と「現実には存在しなかった映像」を通じて、若さやファッションが持つ儚さとノスタルジーを問いかけます。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/1054/
六本木ヒルズを後にして向かいたいのは、国立新美術館。胡宮ゆきな氏による《平和なんて朝飯前(10XL) vs 平和なんて朝飯前(10XL)》が1Fロビーにて展示されています。19:30が最終入館(9月28日(日)は17:30が最終入場)なので、見たい人は急ぎ足で向かいましょう。
胡宮ゆきな《平和なんて朝飯前(10XL) vs 平和なんて朝飯前(10XL)》
《平和なんて朝飯前(IT'S A PEACE OF CAKE)》は、"Piece"を"Peace"に置き換えた造語です。台湾の夜市で見た雞蛋糕(ベビーカステラ)の袋の中に、銃と鳩といった相反する象徴が共存していた光景は、矛盾が無自覚に消費される現代の構造を想起させました。可食素材とインフレータブルという異なるスケールのメディアを通して、身体を起点に思想や欲望が取り込まれるプロセスを可視化させ、世界の複雑さとその脆弱性に改めて目を向けます。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/569/
国立新美術館から5分ほど歩くと東京ミッドタウンへ。外苑東通りでまずイム・ジビン氏のベアバルーン《HELLO》が出迎えてくれます。《JOY》《あなたは一人ではない》の2作品も展開しているので、館内を回遊しながら見つける楽しみを味わってほしい。その他、小林万里子氏による巨大インスタレーション《世界の心臓》、中田愛美里氏、まちだリな氏による「移動式アートシアター」も各所で展開中。
イム・ジビン《あなたは一人じゃない》《JOY》《HELLO》
《You Are Not Alone(あなたは一人じゃない)》は、白いクマと黒いクマが互いを抱きしめる姿を通じて、連帯と調和、慰めのメッセージを伝えています。2018年平昌冬季パラリンピック競技大会でも設置されたこの作品は、差異を超えた包容と共感を象徴的に表現しています。今回は、《HELLO》《JOY》の2作品も登場します。前述のパフォーマンス作品《EVERYWHERE》を見ることができれば、イム・ジビン氏の伝えたいメッセージを受け取れそうです。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/569/
小林万里子《世界の心臓》
天井から流れ落ちる水の恵みを求めて、さまざまな動植物がツリーシャワーの前に姿を現します。布、糸、和紙、粘土など多様な自然素材を用い、染めや刺繍によって動植物の生命の循環が空間全体で表現されます。あらゆる生命の源である水ですが、流れた水はどこへゆき、どのような旅を経て、私たちの元へ再びやってくるのでしょうか。水によってつながり繰り返される生命の営み、その物語の一片を想起させるインスタレーションです。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/648/
中田愛美里、まちだリな 意外な場所でアートと物語に出会う「移動式アートシアター」
今後さらなる活躍が期待されるアーティスト、中田愛美里・まちだリなの作品を、「何気ない日常でアートと出会う」をコンセプトに館内各所で放映。ふとした瞬間にアートに触れ、思わぬインスピレーションが得られるような空間をお届けします。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/647/
上記他、21_21 DESIGN SIGHTの開館延長やサントリー美術館でのアートナイト特別プログラム「絵金ナイト」、各種パフォーマンスも興味があるものがあれば27日(土)、28日(日)のパフォーマンススケジュールをチェック。佐藤翔吾氏による《箱しばい》、気になります。
佐藤翔吾《箱しばい》
紙芝居ならぬ、《箱しばい》の六本木アートナイトスペシャル版。かつて、街中のあちらこちらで多くの人の心を掴んでいた紙芝居を、現代の大都会六本木で"ニューパフォーマンス"として昇華させます。演者がキューブを次々と組み変え変化する絵柄たち。「生語り」や「生演奏」とのコンビネーション。そうこれは、ストイックなるものではなく、厳かなるものではなく、ユーモアと笑い、ときに緻密に壮大に!子どもから大人まで全てのみんなが楽しめるパフォーマンス。佐藤翔吾とゆかいな仲間たちでお送りします。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/665/
22時で終了するプログラムが多い中、まだまだ見ていたい、という方に、帰り際ぎりぎりまで観ることができる2作品を紹介。奥山太貴氏によるインスタレーション《横断のための目印》がラピロス六本木、《現在地 feat.六本木アートナイト》が六本木交差点に展示されています。24時までの展示ということなので、最後の最後までアートを楽しみたい方は六本木交差点へ。
奥山太貴《横断のための目印》
ネオンをモチーフにしたインスタレーションです。LEDにアップデートされた街頭のサインは、欲求を刺激して射幸心を煽っていた従前の用途から切り離されると、描線が眩しく明滅するだけの装置となります。どんな環境下でも視認できる明るい光の瞬きは、機能を持たずとも人を惹きつけ、高揚感を生み出します。それはこの交差点を中心とした街において、幹線道路の分断/街と芸術の境界/日常と祭りの節目/見えない階層などを横断していくための目印になるかもしれません。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/411/
以上、編集部が気になるインスタレーション作品を中心に半日でまわれるコースをご提案してみましたが、ここでは紹介できなかった作品も多数。ご自身の都合にあわせてスケジュールをカスタマイズして、街を巡ることそのものがアート体験となる「六本木アートナイト2025」、アートな3日間を堪能してみてください。
私自身は、ご紹介した作品とあわせて、次の2つは是非チェックしたいと思っています
出演:酒井はな 振付:堀内將平(K-BALLET TOKYO)《わたしの中のあなた》
六本木ヒルズを象徴するルイーズ・ブルジョワの彫刻《ママン》から着想を得たパフォーマンス。彫刻の持つ「母性」「包容」のメッセージから着想を得て、「母と子の結びつき」「生命の美しさ」を主題として展開されます。《ママン》の足元で踊るダンサーは、都市と彫刻と共鳴しながら、生命の神秘を体現していきます。
彫刻×パフォーマンスシリーズは六本木未来会議でも何度か実施していますが、ルイーズ・ブルジョワの世界と酒井はな氏のコラボレーションがとても楽しみです。会場は66プラザ。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/241/
アリ・バユアジ「Weaving the Ocean(海を織る)」プロジェクトより
インドネシアで土木工学を学び、技師として仕事をした後、カナダのモントリオールで美術を学んだアリ・バユアジ氏による作品。伝統的な技法の織り職人の協力も得ながら釣りロープや網などのプラスチック廃材を鮮やかな色のナイロン糸へとアップサイクルし、繊細で美しい織物として昇華させた作品。会場は六本木ヒルズ ハリウッドビューティプラザ 1階・2階なので、見落とさないように気を付けて。
https://roppongiartnight.com/2025/programs/658/
編集部 井上