寒川裕人/ユージーン・スタジオの作品の常設美術館「Eugene Museum in Bali(ユージーン・ミュージアム・イン・バリ)」が、インドネシアのバリ島の世界遺産の麓に広がる緑豊かな一帯に建設されることとなりました。美術館は本夏に着工が開始され、2026年に一般開館予定です。
海と緑に囲まれた1ヘクタールの敷地に広がる総面積5,000㎡(ランドスケープ一体型の作品を含む。延床面積約3,500㎡強)の美術館の建築のパートは、2022年にアガ・カーン建築賞を受賞したインドネシアを代表する建築家アンドラ・マティン氏が設計を担当し、建築全体が作品となるような構成で進行されています。また本件のコミュニケーションマネジメントパートは、グッゲンハイムビルバオやV&Aなどを担当するロンドン拠点のSutton氏が担います。
Eugene Museum in Baliが建設されるのは、インドネシア/バリ島のユネスコ世界遺産(バリ州の文化的景観「トリ・ヒタ・カラナ哲学に基づくスバック灌漑システム」)の麓一帯、タナロット寺院に囲まれた、自然豊かな地域。
美術館はライフスタイル、アート、教育、環境配慮の統合をコンセプトに緑豊かな海と森林の景観に包まれたタバナンの約44haのエリア内に位置し、敷地面積は約1ha、施設の総面積は約5,000㎡となる予定です。
寒川氏は日本の現代美術家で、絵画、大規模インスタレーションにおいて洗練されたアプローチ並びに教育的な取り組み等のプロジェクトで知られています。
特に東京都現代美術館で2021年に手掛けた個展「EUGENE STUDIO After the rainbow」は高い注目を集め、多くの来訪者が長蛇の列をつくりました。これらの反響は世界に広がり、インドネシアやそれ以外の多様なコミュニティやコレクターからの支援と期待が高まり、この常設美術館建設に至りました。
昨年に開校したインターナショナルスクールの隣接地にあり、寒川氏の作品は周囲のエリアと共鳴することが期待されています。2023年には、ジャカルタに美術館の準備室が開設されました。
ミュージアムには、カフェやステイ、アーティストの活動に関する豊富な資料を含むライブラリーが登場予定です。建築は既存の木々を切らずに保護するように設計されており、美術館の社会活動の一環として教育ワークショップが数多く行われる予定です。
ユージーン・スタジオからのコメント
「まずは作品や個展を契機に、常設の美術館を構想くださり、尽力くださった方々に心より御礼申しあげます。私ども単独では考えが及ばなかった、巡回展とはまた異なる素敵な形式のアイデアに驚くと同時に、作品が生み出すつながりの力を感じました。約2年後の一般開館に向けて日々、インドネシアの建築家との協働や、過去シリーズに加え新作を含めた制作をアトリエで行っております。
当美術館は、地域と美術館運営を行う現地共同企業体により、現地法に基づいた建設・運営・法務・広報等全般の活動が行われ、ユージーン・スタジオは作品制作や作品にまつわる監修、技術サポート等の作品に関わる役割を担います。
この美術館は、寒川裕人/ユージーン・スタジオの"新しい海"の続きであり、少し新しい美術館の形、社会実践的な場であると考えています。開館まで年月がありますが、本美術館が子どもから様々な世代に、そして多様な国々の方にひらかれた存在になればと願っております」
寒川裕人氏コメント
「まずはじめに、インドネシアのバリ島にある世界遺産の麓で、この素晴らしい機会に心から感謝しています。作品や個展を契機に、常設にしたいと考えてくださり、その実現に尽力してくださった方々に感謝の意を表します。この美術館は、すべての世代に開かれるでしょう。
美術館の開館までにはまだ数年ありますが、毎日のように建築図面や景観開発の進展を受け取り、その完成を楽しみにしています。インドネシアを訪れ、そこで友人たちと交流することは本当に喜ばしいことでした。数年前、インドネシアの言葉「ヌサンタラ」という言葉に出会いました。この言葉は「群島」を意味します。矛盾があっても共にある姿、真の共生を意味するようです。現在の世界もまた群島でしょう。今後、この言葉をより深く理解するために時間をかけていきたいと思います。
アジアはますます洗練されつつあります。お話があったとき、環境としても地理としても、バリは自分にとって親しみやすい場所でした。常緑の自然のなか、多様な人々が訪れるこの稀有な場所は、地理という視点でみても、世界の中心のひとつであると感じています。
自由に、世界が必要とするシステム/エコロジーを体現すること。紋切り型の先入観や市場にとらわれずに実践すること。これが現代美術の本質的かつ重要な役割のひとつだと考えています。訪れた人のなかの1人が、何かを変える機会を持つことができれば、それが世界を変えることにつながるかもしれないと期待しています」
建築家 アンドラ・マティン氏コメント
「私の建築実践とユージーンの作品には、多くの共通点があります。たとえば、太陽、風、影といった自然の要素への敬意です。Eugene Museumとその周囲の風景を一体化させることで、日中を通して自然光が美術館の内部空間に共鳴し、適応するように設計しました。作品展示に必要な照明を除いて、美術館全体で最小限の人工照明にします。これは、持続可能な美術館を建設するという我々のコミットメントを示す独自のアプローチです」
ユージーン・スタジオの作品を最初に目にしたのは2017年に資生堂ギャラリーで行われていた「THE EUGENE Studio 1/2 century later」展でのこと。1968年に公開されたスタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』のラストシーンに登場する真っ白な部屋を再現し、破壊のプロセスを経た作品《Beyond good and evil, make way toward the wasteland.》に強い衝撃を受けました。大きなガラスケースの中には、埃にまみれた椅子、ベッド、キャビネット、欠けた大理石の柱、油絵など、古く忘れ去られた部屋のものと思われる風化した品々が置かれ、廃墟となっていました。
あれから7年。寒川氏の美術の実践は、ますます美をベースに強度をあげてきています。そこに入ってきた今回の常設美術館のニュース。2026年のデザイン&アートTRIPの行先として、是非Eugene Museum in Baliを追加してみてください。