TOUR REPORT

第18回六本木デザイン&アートツアー 佃一可氏による茶室体験

第18回六本木デザイン&アートツアー 佃一可氏による茶室体験

update_2015.2.18 / photo_tsukao / text&edit_kentaro inoue & yosuke iizuka

今回のツアーの舞台は、東京ミッドタウンのサントリー美術館内にある茶室「玄鳥庵」。美術館の移転とともに、隈研吾さんのデザインにより一部意匠を改めて移築されたこの茶室で、参加者5名がお点前を体験しました。案内人は、一茶菴家元14世・佃一可さん。まずは入念に行われた準備の様子からどうぞ。

ひとときの茶席のためだけに用意される、芸術作品。

ツアー開始前、佃さんが茶席のための準備としてまず始めたのは、黒いお盆の上に白い粉をまくこと。数種類の粉をまいては揺らしたり、羽根で払ったりを繰り返すうちに、徐々にお盆の上に風景画が姿を現します。これは床の間に飾る「盆石」と呼ばれる芸術作品で、雄大な自然がおりなすさまざまな表情を盆上に描くというもの。茶会が終われば崩してしまう、そのひとときのためだけの作品です。

「これは水晶の粉なんです。昔は手に入れるのが大変だったけれど、今は画材屋さんでも売っています。お盆を振って動かすと、大きさの異なる数種類の粉がそれぞれ違う動き方をして濃淡を出すことができるので、それを利用して雲の表情をつくっています。こういう細やかな感性を日本人は持っているんですよ」

「掛け軸にある『東海福』とは、太陽が東から昇るように、いいものが入ってくるという意味です。立礼の席には頼山陽の軸を飾りました。掛け軸は、そのときの時候や、世の中の動きを表したものを使うんです。もうひとつ、小間の部屋に、禅宗の考え方を表した言葉も掛けましょう(次のページで紹介)」

お茶は科学。すべてが理にかなっている。

「このお香も床の間に置くものです。昔は炭でお湯を沸かしましたよね。でも、炭はどうしても匂いが出てしまって、お茶の香りを妨げる。そこで、炭の上に沈香系統の香り(アロマ的には精神鎮静作用)のお香を入れておいたんです。これ、あんまり知ってる人はいないけどね(笑)。だから、床の間にお香を置いておくのは、今日はこの香りを使っているんですよ、という印だったんです」

「お茶って、考え方がとても理屈っぽいんですよ。でも、その理屈がわかると、ものすごく面白くなる。だから理系の人のほうが向いているかもしれません。たとえば、炉でお湯を沸かすときには、炭の下に湿った灰を入れておく。すると水蒸気が出ますよね。水蒸気が上がると気圧が下がって、下に空気が入ってくるので、それで炭がよく燃えるんです。要は台風と同じ原理、今は電気を使いますけどね」

「この部屋は4畳半だけど、お茶がはじまった当時の会所(寄り合い所)の部屋は4倍の広さの18畳。それを屏風で区切って使っていたわけですが、この部屋の隅にある結界屏風は当時の名残なんです。落語なんかで、お茶のことを『お囲い』って呼ぶのも、ここからきているんですよ」

点てる人の個性が、お茶の味に必ず出る。

床の間や花などを準備している間、水屋と呼ばれるバックヤードでは、お茶の準備の真っ最中。こちらでは抹茶を漉す(こす=ふるいにかける)作業が行われていました。

「お茶を漉すときは、上からゆっくり押さえつけるようにしないといけません。擦ったりあまり速くやってしまうと、お茶が摩擦熱を持ってしまうから。抹茶は石臼で挽くでしょう? 石臼は熱を吸収してくれるから、いいお茶ができるんですよ。安いお茶は摩擦熱で味や匂いが変わってしまっているからね」

漉した抹茶は、「棗(なつめ)」と呼ばれる茶器に移し替えられますが、このとき、羽根でできるだけ美しい山形になるように形を整えます。水屋を取り仕切っていた佃さんの奥さまによれば、同じお茶を使っていても、上手な人と下手な人とでは、まったく味が変わる。それでいて、その人が出す味はいつも同じ、上手な人のお茶はいつもおいしいのだそうです。

こうしてたっぷり1時間以上もかけて、参加者を迎える準備が整えると、最後に佃さんはこんなことを教えてくれました。

「お茶の道具を最初に揃えるとき、私は必ず『あなたが好きなものを買いなさい』って言うんです。自分が好きだと思う気持ちを大切にしていれば、成長するたびにいいものが見えてくるはず。偽物だけど、ものすごくいいものってあるじゃない。昔はそういうものを『本物ですけど、若づくりですね』って言って残したんですよね。本当にいいものって、そうやって継承されていくんです」