TOUR REPORT

第9回 六本木デザイン&アートツアー 小川希氏による「六本木アートナイト2014」ツアー

第9回 六本木デザイン&アートツアー

update_2014.5.21 / photo_tsukao / text&edit_kentaro inoue & yosuke iizuka

4月19・20日に行われた一夜限りのアートの祭典「六本木アートナイト2014」。今回の六本木デザイン&アートツアーは、このオールナイトイベントを舞台に開催されました。ガイドを務めたのは、2013年の六本木アートナイトのキュレーターで、Art Center Ongoing代表の小川希さん。国立新美術館と東京ミッドタウン周辺を巡ったツアーAと、六本木ヒルズ周辺を巡ったツアーB、2つのコースの様子をたっぷりとお届けします。

プロジェクションマッピングで作品を投影。
屋外展示「もうひとつの『イメージの力』」

 21時30分、ツアーAは国立新美術館の入り口からスタートしました。会場内へ進むとすぐに目に入ってくる美術館外壁に投影された巨大な映像を見ながら、小川さんの解説がはじまります。

「映っているのは、国立新美術館で開催中の『イメージの力』という展示の内容。プロジェクションマッピングは、ポーランドのクシュシトフ・ウディチコという作家による原爆ドームに被爆者の手を投影した作品など、以前は社会性や歴史性を含んだ作品が多かったのですが、現在はもっとエンタテインメント色の強い作品が多いですね」

新美の傘置き場に降る、古ボタンの雨。
西尾美也「カラダひとつプロジェクト ボタン/雨」

 美術館のエントランスにある、来場者が傘を置くための小さな建物には、たくさんのボタンをテグスでつないだ作品が。これは今回の六本木アートナイトのメイン作品、西尾美也さんの「カラダひとつプロジェクト」三部作のうちのひとつ。

「ボタンがまるで雨のように見えますよね。これは作品が置かれた傘置き場に合わせた見立てでもあります。『カラダひとつプロジェクト』は、たくさんの古着をつなぎあわせて、ひとつのものをつくりあげるというコンセプト。新品では意味がないんです。誰かが使っていて、思い入れや記憶、歴史が詰まっているものが集まって雨になっている。そう考えると、いっそうきれいでもあり、何か重く、怖さも感じます。」

「今回のプロジェクトでは六本木や他の都市から集めた服を解体して作品にしていて、このボタンももちろん古着です。また、たくさんのボランティアと一緒になって制作するなど、作者の西尾さんは人と人とのつながりも重視してこの作品を制作しました」

いけばなの家元が表現する現代アート。
小原宏貴「EGG」

 国立新美術館のエントランスには、ほかにも目を引く作品があります。巨木の根を使ったオブジェに大きな卵のようなものが乗り、赤くライトアップされたこちら。

「作者の小原宏貴さんは、いけばな小原流という流派の5代目にあたる人です。華道というと伝統を守らなければいけない閉じた世界というイメージがありますが、彼は歴史と現代を意識的につなげようとしている。こういうことをやってのけられるところに、伝統を回復する力も感じます」

月が価値観を相対化する。
篠田太郎「月面反射通信技術」

 お隣の政策研究大学の緑地では、巨大なパネルに月の映像が映し出されていました。これは世界各都市で撮影された、月と都市のモノクローム映像。小川さんによれば、人類が地球を共有していることを実感するため"月が私たちを見ている"という反転した発想のもと制作された作品だそう。

「月という超越したものをもってくることで、自分の視点が相対的なものでしかないと気づかせる。価値観を更新してくれるのも現代アートの特徴ですね。僕、いつも"頑固じじい"にはなりたくないと考えています(笑)。そのためにも、アートを観る。価値観をリフレッシュすることで、いつまでも精神的な成長を続けることができると思うんです」

 ここで、参加者から「作家は、アートナイトで作品を設置する場所を選べるのか?」という質問が。
東京ミッドタウンへと歩きながら、小川さんはこう教えてくれました。

「基本的には選べます。六本木には空が開けた場所はなかなかないから、ここは月の作品にドンピシャですよね。今、もし月が出ていれば、作品の意味ももっと出てくる。さっきの西尾さんの作品のように、傘立てには雨の作品とか、場所を考えて作品を"インストール"するのもひとつの手段です。もちろん作家と運営の間で意見の相違もありますが、それを調整するのもキュレーターの役割ですね」

社会状況を反映するインスタレーション。
リー・ウェン「ピンポン・ゴー・ラウンド」

 東京ミッドタウンに到着すると、そこには円形の台で卓球を楽しむ人々の姿が。小川さんが「今年は頭で理解するより、参加すると自然に理解できるという作品が多い気がする」と言うとおり、こちらは実際にプレイすることができる参加型の作品です。

「もしニューヨークの街なかに置いたら、いろいろな人種の人が混ざり合うことで、差別を超えるという意味を持つかもしれません。一方、日本では誰でも参加できるハッピーな作品として楽しめて、今がどれだけ幸せな状況にあるのか理解できる。アート作品は社会状況の鏡。とはいえ、単純に楽しんじゃえばいいんですけどね。今回のアートナイトのテーマは『動け、カラダ!』ですから」

「ディレクターを務める日比野克彦さんが、去年すでに『来年のテーマはカラダ系でいきたい』と言っていました。これは情報化社会だからこそ出てきたテーマ。アートに接して、身体的なところから自分の知らなかったことに気づくという意図なんでしょう。それに日比野さんはサッカー好きですし(笑)」

『風の谷のナウシカ』の架空の乗り物を具現化。
八谷和彦「オープンスカイ:M-02J」

 キャノピー・スクエアには、「風の谷のナウシカ」の主人公・ナウシカが乗る「メーヴェ」をモチーフにした機体が展示され、飛行する様子がモニターに映し出されていました。これは、八谷和彦さんが2003年から続けているプロジェクトの最新作。

「2003年はどんな年だったか覚えていますか? この年、アメリカがイラクに攻め込み、日本も自衛隊を派遣しました。これに危機感を覚えた八谷さんの、『ナウシカならこの戦争を止めるだろう』という想いが最初の着想だったそうです。その後、いろいろな人の協力のもとで作品を完成させました。こうした自分の想いをプレゼンして交渉する能力は、現代のアーティストに求められる資質だと思います」