TOUR REPORT

第7回 六本木デザイン&アートツアー 光嶋裕介氏による六本木建築散歩

第7回 六本木デザイン&アートツアー

update_2014.2.5 / photo_ryumon kagioka / text&edit_kentaro inoue & yosuke iizuka

黒川紀章さんが手がけた波打つガラスの外壁が印象的な「国立新美術館」、1枚の巨大な鉄板を屋根に用いた安藤忠雄さん設計の「21_21 DESIGN SIGHT」など、六本木の街にはたくさんの魅力的な建築があります。そんな名建築を巡るツアーのガイドをしていただいたのは、ベストセラー作家・内田樹さんの邸宅兼道場「凱風館」の設計を手がけたことでも知られる建築家の光嶋裕介さん。今回は、その様子をレポートします。

安藤忠雄さんならではの強いアイデンティティ。
「21_21 DESIGN SIGHT」

「今回のようなイベントは、僕にとって初めてのこと。何が起こるかわかりませんが、みなさんとの化学反応を純粋に楽しみたいと思います」。そんなあいさつからはじまった今回のツアー。参加者のみなさんと光嶋さんは、まずミッドタウン・ガーデンにある「21_21 DESIGN SIGHT」へ向かいました。

「ちょうど六本木に東京ミッドタウンや六本木ヒルズができた頃、東京で学生時代を過ごしていました。まさに東京の激変期ですね。六本木という街は変化が早く、スクラップ&ビルドを繰り返している印象があります。東京のスピード感は、歴史がゆっくり脈々と受け継がれているヨーロッパの街とは対照的。安藤忠雄さんが21_21 DESIGN SIGHTを設計するらしいという話は聞いていたのですが、気づいたらすでに完成していましたから(笑)」

「僕は世界中の建築をたくさん見ていますが、安藤さんのすごいところは、見れば一瞬で安藤さんの作品だとわかるところ。たとえニューヨークにあってもパリにあってもおかしくない、そんな強烈なアイデンティティが安藤建築にはある。これは、すごいことです。でも、僕としては、建築は建てる場所に応じて変幻自在に変えたいという思いもあって。これは安藤さんが通った道の逆を行かなければという意識の表れかもしれません」

アトリウムと「箱」の割り切った関係性。
「国立新美術館」

「街を歩いていると、本当に多くの情報が目に入ってきますよね」。昔から、散歩や旅が大好きだという光嶋さん。ミッドタウン・ガーデンを出て国立新美術館へと向かう途中には、歩きながら街を眺めるときのポイントについて話してくれました。

「動きながら眺めていると、風景は一瞬として止まっていません。歩くスピードが心地いいんです。何かに集中するということなく、ゆっくり歩くだけ。散歩では、写真よりも映画に近い見方になるのかなと思いますね。さらに、気温や匂い、光の具合の変化など、五感でもって都市を体験していく。どこに感動するかは人それぞれ。それぞれのセンサーがありますから、自分が反応するポイントを楽しみながら歩いてみてください」

「ここが国立新美術館、設計をしたのは巨匠・黒川紀章さんです。この建築の面白さは、正面の曲がりくねったガラスのアトリウムに、右側に見える箱状の空間、専門用語でいうホワイトキューブがくっついていること。ダイナミクスのあるデザインが施された部分と、なんでもない『箱』が並んでいるんです。この対比がとても潔いですね。まるで『私はここからここまでしか興味ありませんよ』みたいな、すごく割り切った考え方がされているように思います。個人的には、ひとつの美術館として、もう少し関係性をもたせても......って思ってしまうくらい(笑)」

路地裏の予測不可能な面白さと「目に見えないもの」の力。

 そして一行は、住宅が密集した路地の中へ。「この複雑に入り組んだ道なんか、計算してつくられたものじゃないですよね。僕はこういう路地裏がすごく好きなんです」と光嶋さん。

「建築家は数年後に建つ建物を設計します。つまり、ある意味ではつねに未来予測をしているわけです。もちろん何かしらの根拠をもとに設計を進めていくことが必要ですが、それだけではいい建築にはならない。たとえば、この路地のような雑多さは、眺める人に新しい見え方を提供してくれるし、周囲との複雑な関係をつくり出します。それは予測不可能で、数値化できないものだったりもします。僕は、ここにこそ、突破口があるんじゃないかと思って、設計に余白を残すことを意識しているんです」

「たとえば『亡くなった祖母がいつもそばにいてくれている』という誰もが感じうる感覚は、数値化できないし、目に見えないですよね。建物への『愛着』だって同じ。目に見えないものへの感受性やリテラシーは今、どんどん下がってきていると思います。僕は、そういう数値化できないものを設計の中にいかに取り込んでいくか、残していくかをいつも心がけています。だって、予測不可能なほうがエキサイティングじゃないですか」

見え方の異なる、六本木の2つのアイコン。

 角のある東京ミッドタウンは方向によって見え方が変わり、円筒状の六本木ヒルズはどの方角から見ても同じ。「ここからはこう見える」という存在感があるから、この2つの建物は六本木の顔になっている。森タワーを見上げながら、光嶋さんはそう教えてくれました。

「たとえば、ニューヨークのツインタワー(ワールドトレードセンター)が、街の印象的なアイコンだったように。僕は、初めて訪れる街では、まずこういう高い建物に上ります。そこがどんな街なのか、垂直方向から俯瞰して見たいので。逆に、海外から来た友だちに東京を案内するときには、山手線の先頭に乗って一周します。ちょうど1時間くらいで、東京という街が具体的にイメージできる。水平方向で見ると、多面的でモザイク状になった街の豊かな表情がよくわかるんです」