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六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07「六本木未来大学」第19回WOW於保浩介さん講義レポート【前編】

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update_2018.11.7 / photo_takuya takahashi / text_azusa igeta

映像表現(CM、VI、PV)を中心に幅広いデザインワークを展開する、ビジュアルデザインスタジオ「WOW」クリエイティブディレクターの於保浩介さん。資生堂銀座ビルのインスタレーションなど、WOWが手がけてきた作品の背景には、クライアントとデザイナーの気持ちを理解したうえで、双方の"架け橋"となる於保さんの姿がありました。2018年10月11日(木)に行われた、講義の様子をお届けします。

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協調という名の妥協をせず、やるべきことを最後までやり通す。

「デザイナーとクライアント、両方がハッピーになることは簡単なことではないんです」――。今回の講義のテーマでもある「デザイナーもクライアントもハッピーになれるクリエイティブディレクション」の難しさを述べることから、講義は始まりました。

「クライアントをハッピーにするのは、思ったほど難しくない。要望を汲み取り、一生懸命クオリティの高いものをつくれば、大抵のクライアントは喜んでくれますから。しかし、デザイナーも一緒にハッピーにするのは、容易なことではないんです。特に優秀なデザイナーには常に"新鮮な水"を与え続けなければいけない。新鮮な水とは、おもしろい仕事のことです。淀んだ水、つまりおもしろくない仕事ばかりしていると、動きが鈍くなってしまうんですよね。新鮮な水をどんどん与え続けなければ、デザイナーはハッピーになりません」

年間200個以上ものプロジェクトを手がけているWOW。そのなかでも、於保さんが「デザイナーもクライアントも、両方がハッピーになった」と思う「ハッピーエンドな仕事」を事例として挙げながら講義は進行していきました。

2017年11月、WOWは資生堂銀座ビルに出現した巨大インスタレーション『NEURO_SURGE』を手がけました。これは、「資生堂」の新スキンケアライン「ESSENTIAL ENERGY(エッセンシャルイネルジャ)」の全世界向けプレス発表会のためにつくられたもの。ESSENTIAL ENERGYは、通常のスキンケアアイテムと異なり、肌の内側にある神経細胞を活性化させることで肌を美しく整えることを特徴としています。この概念を言葉で説明してもわかりにくいと考えた資生堂は、世界中のプレスと「言葉に頼らないコミュケーション」を図るために、WOWにインスタレーションの制作を依頼しました。

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「人は、日々気づかないうちにストレスを溜めています。ストレスを解消するためには、気持ちのいいことをして感覚を研ぎ澄まし、神経を活性化する必要がある。それを手助けするのが『ESSENTIAL ENERGY』だと、インスタレーションを通して伝えたかったんです」

「感覚を研ぎ澄ますことによって、ストレスが緩和されていく様子」を表現するため、於保さんはストーリー仕立てのインスタレーションを考案。

「来場者は、まず1階エントランスで、絡み合ったカラフルな光を目にします。これは『ぐちゃぐちゃの神経細胞』を表現したもの。まずは、気づかずに溜め込んでいるストレスに気づいてもらおうと思ったんです。この光は2階の吹き抜けを通り、3階まで伸びていきます。3階に上がると、階下から突き抜けてきた光がホールに向けて伸び、白い光のトンネルのようなものが出現します。トンネルは触り心地のいい布でできていて、触ると心地いい音と共に発光する。『触覚を刺激することで、自らの神経が活性化する』ことを体験してもらうゾーンです。このトンネルを抜けると、商品が展示されたホールにたどり着きます。『乱れた神経が徐々に整う様子』を全体で表現しようと思ったんです」

「自由な発想で考えた」という企画は、クライアントの心を打ち、無事実現することになりましたが、於保さんは「ここからが勝負の始まりだった」と、当時を振り返ります。

「自由に考えてみたものの、僕たちだけでは絶対に実現不可能な企画だったんです。建築や空間づくりに精通している人たちの力を借りなければいけなかった。そこで、イベントや展示会などの"場づくり"を得意とする博展さんと二人三脚で取り組んだんです」

神経を表現するための光ファイバー、それらを発光させるためのプログラミング、トンネルに使う布など、描いたアイデアを忠実に再現するための素材や仕組みづくりを模索するなかで、於保さんは「変わったことやろうとすると、それだけの時間も手間も予算もかかる」と実感したそうです。

「準備には1年近くかかりましたし、途中でいろいろなトラブルも起きました。そのなかで僕が心がけていたのは『協調という名の妥協はしない』こと。プロジェクトが進むごとに、クライアントからはさまざまな要望があがってきます。その時々にクリエイティブディレクターに求められるのは、『本当に大切なのは何か』を見極めて、貫くことです。本当は納得していないけれど、クライアントの要望を受けて、そういう風にしちゃいましょう』と妥協すると、中途半端なものが出来あがり、誰の心にも響かなくなってしまいます。すると、クライアントのニーズも満たされないし、デザイナーも満足しない。やるべきことをしっかりと定めて妥協しなければ、クライアントもデザイナーも満足いくものができあがります」

【クリエイティブディレクションのルール#1】
"協調"という名の妥協をしない

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