PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07 「六本木未来大学」第11回「菅野薫さん、チームでいいものを生みだす方法って何ですか?」講義レポート【後編】

update_2017.3.22 / photo_ tsukao / text & edit_yosuke iizuka

昨年、大きな話題を呼んだ「リオ2016大会閉会式 東京2020フラッグハンドオーバーセレモニー」。2017年2月22日(水)、そのクリエイティブディレクターを務めた、Dentsu Lab Tokyoの菅野薫さんが六本木未来大学に登場しました。これまで菅野さんが手がけてきた多彩なプロジェクトを紐解きながら「チームでいいものを生みだす方法」を語った講義の様子をどうぞ。

前編はこちら

Sound of Honda / Ayrton Senna 1989

テクノロジーで、かつてない表現を生み出していく。

これまでさまざまなプロジェクトを手がけてきた菅野さんの代表作のひとつが、天才的なF1レーサー、アイルトン・セナの走行を再現するプロジェクト「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」。Hondaに残されていた24年前(制作時)のセナの走行データを使って、鈴鹿サーキット上でセナの走りを光と音で再現するというものです。

「そもそも依頼されたのは、モビリティカンパニーHondaらしいエンタメアプリを提案するという内容でした。2案出して両方実現したんですが、そのうちのひとつが、歴代のHonda名車のエンジン音でドライブできるという『Sound of Honda』という企画。Honda好き向けの、なかなかマニアックな企画ですよね。その案を提案するときに、このアイデアの広がりを説明するために、オプション案として『この音を再生する仕組みを応用すれば、あのセナが鳴らしたエンジン音とかも再現できちゃいます!』という内容を企画書に入れていたんです。たいていの場合、そういうオプション案って無視されるものだけど、『これいいね!』って言っていただいて。それから1年半以上の期間をかけて実現しました。クライアントも巻き込んで、どうやったら実現できるかから考えた、本当に夢のあるプロジェクトでした」

紙としてだけ残存していたセナの走行データをHondaのエンジニアの方から受け渡されたとき、菅野さんは未発表の古い写真やレコードを発見したような気持ちになったと言います。「あの日、あのときに、彼は間違いなくここに立っていたんだ」。データからわかるのは、アクセルの踏み方、ギアの位置、エンジンの回転数、スタート地点からの距離だけ。その一つひとつを解析し、鈴鹿サーキットにLEDとスピーカーを配置、セナの走った軌跡を再現していきました。

「データだけは彼が生きていたことを証明しつづけてくれるなという感じ。CM業界の先輩たちがやってきた、エモーショナルなストーリーで人とブランドとの絆をつくるということに挑戦したいとずっと思っていたのですが、テクノロジーでの表現ってなかなかそうはならない。テクノロジーからうまれた表現ってなかなか泣けないんです。よくできたウェブサイトを見ながら号泣してる人なんていないじゃないですか。だからこそ、テクノロジーという自分の武器から逃げずに、エモーショナルなストーリーを表現してみたいって思っていました。このプロジェクトでディレクションしたのは、セナ自身の映像も一切出ない、光と音しかない、Hondaという企業による大切な仲間への深い祈り。光を見つめ音を聴くことで、みんながセナを想い、心の中でセナを感じるものにしようということ」

ちなみに、鈴鹿サーキットの周辺には山があり、走行音がやまびことなってエコーが響くのだそうです。そのやまびこを再現するためのスピーカーまで用意したという裏話も教えてくれました。

「ある日、サウンドエンジニアの澤井(妙治)くんが電話してきて『大変です、やまびこが再現できません!』って(笑)。結局、一切映像に映っていないのですが、セナに失礼だっていう理由で、やまびこを再現するためだけにラインアレイスピーカーを山に向かってぶっ放したっていう。想いだけですからね、無茶苦茶です。楽しかったですね」

【クリエイティブディレクションのルール#6】
テクノロジーであっても、エモーショナルなストーリーをつくる

太田雄貴 Fencing Visualized

それまでのすべてのプロジェクトが「フラッグハンドオーバーセレモニー」につながる。

また、フェンシングの第一人者・太田雄貴さんとのプロジェクト「Fencing Visualized」についても紹介してくれました。これは、モーションキャプチャーとAR技術を駆使して、フェンシングのスピーディで複雑な動きや技をわかりやすく表現するというものです。

「フェンシングって古代からずっとあるし、知名度の高いスポーツなのに、ちゃんと理解している人がすごく少ない。ルールも結構複雑だし。フェンシングは試合を観ていても状況がわかりにくくて、テレビで中継されたりする機会も多くないのもあって、なかなか競技人口が増えない。だから、まずは競技としてわかりやすくなる、面白くなる表現を追求しようって」

使用したのは人の体の動きをデータ化できるモーションキャプチャーカメラ。それ自体は昔からハリウッド映画のVFXなどで使われているよく知られた技術ですが、スポーツ中継に使ったらどうかというのがそもそもの発想の起点。剣先の軌跡や、相手に剣が正確に当たったかどうかをわかりやすく可視化し、テクノロジーの力でフェンシングの理解を促し、エンターテインメント化しました。

太田雄貴 Fencing Visualized(競技者のビジュアライズ映像)

さらにそれだけに留まらず、競技者の筋肉の動きや心拍、瞳孔を解析し、ビジュアライズすることで、トレーニングに役立つようプロジェクトとしても発展。現在もプロジェクトは継続し、進化しています。その後、国際競技場の最後の日、最後の15分間のセレモニーの企画演出をしたり、国立競技場最後の姿を、参加者全員が撮影した写真で残すプロジェクト「FUTURE TICKET」などを経て、「リオ2016大会閉会式 東京2020フラッグハンドオーバーセレモニー」を担当することになりました。

「フラッグハンドオーバーセレモニー」のプロジェクトには、クリエーティブスーパーバイザーを務めた佐々木宏さん、同じくクリエーティブスーパーバイザーと音楽監督に椎名林檎さん、総合演出と演舞振付にMIKIKOさん、そしてクリエーティブディレクターとして菅野さんが参加。「すごく追い込まれたけれど、これでもかってくらい、たくさん考えました。本当にやってよかった、楽しい仕事でした。」と振り返り、講義を締めくくりました。