PROJECT REPORT インタビューで得たクリエイターのアイデアを、リアルな場で実現する「アイデア実現プロジェクト」

六本木未来会議アイデア実現プロジェクト#07 「六本木未来大学」第8回 「菅付雅信さん、物欲なき世界のクリエイションって何ですか?」講義レポート【前編】

update_2016.9.21 / photo_ tsukao / text & edit_yosuke iizuka

六本木未来大学の第8回講師を務めるのは、雑誌『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』などで編集長を務め、『はじめての編集』『中身化する社会』などの著書をもつ、編集者・菅付雅信さん。講義のタイトルの由来は、資本主義社会の現在とその先の展望を分析した最新刊『物欲なき世界』から。レポート前編では、雑誌や書籍だけに留まらない「編集」について語ります。

後編はこちら

コミュニケーション≒メディアのクリエイション≒編集。

菅付さんの講義は、まず自身の経歴や作品紹介から始まりました。1990年に編集を手がけた書籍『結婚しないかもしれない症候群』(谷村志穂)が大ヒットし、その編集印税を元手に独立。創刊した『コンポジット』やクリエイティブディレクターに就任した『メトロミニッツ』など数々の雑誌・フリーマガジンに関わりつつ、アートブック専門出版社「ユナイテッドヴァガボンズ」を立ち上げたり、ファッションブランド・スナイデルなどを展開する企業「マッシュホールディングス」のCIを手がけたり......。その時々の制作にまつわるエピソードや作品のスライドを絡めながら、スピーディに講義は進んでいきました。

「私は編集という仕事を約30年間やってきました。では、そもそも編集とはどういったものなのでしょうか? 人類は誕生したときからメディアを使ってコミュニケートして、よりよく伝わるようにクリエイトしていきました。このコミュニケーションとメディアのクリエイションは、『編集』とニアリーイコール。そしてそれらの歴史とは、『より多くの人により良く伝える歴史』だと捉えています」

菅付さんの考えでは、出版はもちろん、ウェブ、広告、展覧会など、メディアをつくることと編集はほぼ同じ。だからこそ、さまざまなジャンルでクリエイティブディレクターを務めている菅付さんは、自身のほとんどの仕事を「編集」だと言います。その理由は、次に話した「高速編集史」で明かされます。

菅付さんが20分で語る「高速編集史」。

「現存するもっとも古い編集物は、紀元前2300年頃のメソポタミア文明の粘土板です。文字があり絵があり、格子状にデザインされている。ということは、言葉とイメージとデザインは切り離せるものではないのだと思います。また、少し時代が下ったエジプトの文明の壁画にも、やはり文字と絵とデザインがある。書物も見てみましょう。現存する最古の聖書のひとつ『ギガス写本』、大体1000年くらい前のもので、当時は印刷機もないですから一点ものですね。とても丁寧に、言葉が書かれ、絵が描かれ、デザインされています。当時は1人の修道僧がほぼ一生をかけて1冊を書いていたんです」

一方、日本における最初の編集物は「古事記」と「日本書紀」。ギガス写本同様に一点ものの書物で、当時の大和朝廷が国力を挙げてつくったものです。こうした手書きの時代を経て、ドイツで印刷機が発明されるのが1445年のこと。

「グーテンベルクが活版印刷機を生み出したんですが、彼は印刷機を発明をしたかったわけではないんです。『キリスト教を広めるためにどうすれば効率がいいか?』を一生懸命考えた結果、印刷機をつくったんですね。このことは、メディアをつくるうえで重要なことを示しています。それは、別のモチベーションがある方が革新的なものが生まれるということ。グーテンベルクは、そのいい例です」

【クリエイティブディレクションのルール#1】
強いモチベーションが革新的なものを生む

印刷機ができたことで出版物が広まるようになると、次は広告と広告代理店が生まれます。さらにラジオという電波のメディアが誕生。その頃には出版物の発展によってデザイナーの意識が高まり、その結果20世紀の前半にイタリアの未来派、ロシアの構成主義、ドイツのバウハウスという三大デザイン運動が起こります。

「日本の若いクリエイターも刺激を受けて運動を起こそうとしますが、当時の日本の軍部によってプロパガンダをやることを強いられます。それが戦争中につくられた、日本の戦争を美化するための『FRONT』という雑誌。アートディレクターはかなり重要な日本語の書体をつくった原弘、日本でもっとも権威のある写真賞として知られる、あの木村伊兵衛。当時、もっともラディカルな人たちがもっとも右寄りの制作物をつくったというある種の矛盾の中で、日本のモダン・デザインはスタートしたんです」

出版物が普及する中で、廉価なペーパーバックや文庫本が誕生、アメリカの『タイム』や『ライフ』など雑誌も巨大メディアに成長して大きなビジネスに。日本では1960年代から若者雑誌が発生、『アンアン』『スタジオボイス』など海外の雑誌のライセンスを取得して発行された雑誌の市場拡大を経て、インディペンデント系の雑誌が流行。一方でインターネットの誕生・普及によって、ブログやSNSが発達、個人がメディアになり、大きな影響力をもつようになりました。

「編集史はここまで。ではこれから先はどうなっていくのか? メディアには3つの進化軸があると僕は思っています。ひとつは『フローとストック』。大量伝搬に向いていて即時性が高いのが『フロー』、アーカイブ性や資料性、物質性、愛着感があるようなものが『ストック』です。2つめは『権威性と参加性』、社説、学術書、ビジネス書、会員制サイトなど権威がある人が書いたものと、ブログやZINEなど誰でも参加できるもの。最後は『記録性と創作性』、そのままを伝える報道やドキュメンタリーと、ギミックの入る広告やファッション。メディアは今後、この3つの座標軸の中で、3次元的に進化発展していくんじゃないかというのが僕の考えです。みなさんも、この3次元マトリクスの中で、自分の仕事ややろうとしていることを考えてみてください」

【クリエイティブディレクションのルール#2】
クリエイティブの方向性を3次元マトリクスで考える