2012年クリエイターインタビューにて、放送作家・脚本家の小山薫堂さんが語った「六本木に6本の木を植えよう」というアイデアを実現するプロジェクトが始動します。どんな木を、どのように植え、何を表現するのか。その木が「デザインとアートと人」をつなぐものとして機能するために必要なことについて、再び小山薫堂さんにお話をうかがいました。今年「6」月「6」日に「6」周年を迎える「六」本木未来会議の特別プロジェクト。さて、どんな木が登場するのでしょうか。
2012年のインタビューでは、『六本木をデザイン&アートの街にするためには?』という問いに対して、「六本木というからには6本の木が必要。アートの実がなる木はどうでしょうか」と話していた小山薫堂さん。
「もう6年も前のインタビューなので、あまり話の詳細は覚えていないんですけど(笑)。でも読み返してみても、アイデアが全然古い感じがしなくてびっくりしています。実際に6本の木を植えるんだったら、その6本に違いや個性はあったほうがいいですよね」と、実現に向けて構想を膨らませてくれました。
小山さんがまず考えたのは、"一般の人も含めたすべての人に、アーティストになれるチャンスを与える木"。
「今回のプロジェクトが、アーティストが木を作品として発表する場とすると、一般の人たちもただ鑑賞するだけというよりも、何かしらで参加できて、その人のアートの才能が開花するきっかけになる木が1本あったらいいなと思うんです。一般の人が『これってアートやデザインの種にならないかな?』というモノやコトを、りんご型のカプセルに入れて木に吊るし、アーティストがそれを採りに来て、作品づくりのインスピレーションにする。そしてアーティストが『その木から生まれた作品がこれなんです』、『こんな現代アートがこの木から生まれました』と成果を発表できるようになれば成功。ここでアーティストがアイデアの種を見つけ、一般の人とのコラボレーションのきっかけになったらいいかなと思います」
アイデアその① アイデアの実がなる木
ツリーハウスをつくるというプロジェクトはよくあるけれど、ツリーハウスをつくるためにまず木を植えるところから始める。そんな長期のプロジェクトも小山さんの構想にはあるようです。
「通常のツリーハウスは、すでにある大きな木に小屋を建設していきますが、そうではなくて、木が大きくなっていく過程で少しずつツリーハウスをつくっていくんです。
例えば、漆器の職人は、400年経った木を切って成形し、40年間漆を塗っては乾かして器をつくったり、コニャックの製造では、親子孫3代にわたってつくっているものが高い品質とされていたり。でも建築は非常に大きなものをつくるのに、数十年と長い年月をかけるプロジェクトはほとんどないのが不思議に感じていたんです」
このプロジェクトでは、100年後の完成を見据えて"木を植える"ところから始めて、少しずつ"ここに何をつくるべきか"というプランを立てていくのですが、そのプランも時代と共に変わっていくかもしれません。
「最初は現代の建築家が基礎のプランをつくるけど、10年後、50年後には全然違うものになっているかもしれないですね。その変遷が時代をなぞっていく感じでおもしろいんじゃないかなと思うんです。だからその時代ごとの建築プランが書かれた本を『ツリー・ブック』と名付けて、次の世代に引き継いでいく。最後に誰がどんなツリーハウスを完成させるのか、想像してみるだけでわくわくしまんせんか」
アイデアその② ツリーハウスを"つくるための"木
3本目は、"鳥が集まる木"。ただし、エサを撒いて野鳥を集めるのではなく、本当はいないのに鳥の声が聞こえたり、あるいは鳥の姿だけが見えたりするなど仕掛けをつくるというアイデアです。
「パナソニックの"リンクレイ(LinkRay)"という技術があって、昔は『光ID』と呼ばれていたのですが、街で使われているさまざまな種類の明かりや光(LED光源)を、スマートフォンのカメラで読み取り、情報を入手するというソリューションが使えたら、表現の幅が広がるかもしれません。だってQRコードだと、QRコードがあるところにいっせいにカメラを向けないといけないのが、ややダサいじゃないですか。LinkRayならそれがない。例えば、木をライトアップする照明に情報を仕込み、来た人にその情報をスマホで読み取ってもらうことで、鳥の鳴き声や姿が表示されたり、LED1個だけ"アタリ"を仕込んでゲームにしてみたり、アーティストの作品が切り替わって、見た目は木なのに、スマホをかざすといろいろと見えてくる"木の美術館"というテーマにするのもおもしろいと思います」
アイデアその③ 美術館になる木
「僕がやっぱりすごいなと思うのは、フランスの有名なシャトーで、ワインのラベルを有名な画家に描かせている『シャトー・ムートン・ロートシルト』の、"ラベルの絵をいかに有名画家に描かせるか"というアイデア。1970年にシャガール、1973年にピカソ、1975年にアンディー・ウォーホールなど、名だたる芸術家たちを指名して、その作品の報酬として画家本人が描いたラベルのワイン12本と、好きなヴィンテージのワイン12本の計24本を贈る。これが芸術家にとっては非常に栄誉なこととして認知されるようになり、こうして画家にとっての目指すべき場所、ブランドになっていった、というストーリーがすごくかっこいいなって思うんです。これを六本木でやるとしたら、フルーツの木を植えるのがおもしろいのでは」
なかでもオレンジは比較的育ちやすくて調理にも適しているのでは、と話します。
「六本木の街でパティシエのアワードをつくり、その年の最優秀パティシエ『オレンジ・パティシエ』に選ばれた人は、賞品として六本木の木から収穫したオレンジを受け取ることができ、それでスペシャルなスイーツをつくってもらうというアイデアです。すごく限定した数にしかならないかもしれないけど、オレンジピールを使ってチョコレート菓子をつくる人がいるかもしれないし、果肉を使ってムースをつくる人がいるかもしれません」
「今年のオレンジ・パティシエって誰になるだろうね」と人々の話題になり、1本1本の木がニュースを生むことを期待して。「それによって六本木で活躍するパティシエを育てることができたらいいですね」
アイデアその④ 次世代のカリスマパティシエを育てるフルーツの木
「それと、"聞き上手の木"っていうのがあったらおもしろいですね。嬉しかったことはもちろん、抱えている悩みや不安でも、どんなことでも聞いてくれるような。真実の口がローマにあるように、六本木では木に聴診器の逆みたいなものを当てて、今日あったこととか、すごい人と不倫しちゃった......みたいな懺悔も。そんな言いたいけど言えないことを、利用する人は木であれば安心して言うんです。でも実は、その木の中にはマイクが仕込んであって、全部アーカイブされているんですよ。写真も撮られていたりして(笑)」と、どんでん返しがあるストーリーも飛び出します。さらに、それを誰とやるのか、というアイデアも重要なこと。
「これをやるのは僕ひとりじゃないほうがいい気がするんです。これらのコンセプトに沿った木の種類は植物の専門家が選ぶとか、ツリーハウスの設計は建築家に依頼するとか。それぞれのプロフェッショナルな人たちとここまで僕が言ったアイデアを、短時間で『これがいいね』って決めてしまうより、六本木未来会議で『この木にしましょう』『コンセプトはこうしましょう』と検討する。それにより、『企画にふさわしい木はこれですよね』『植える場所はどこにしましょうか』と専門家と話し合いながら決めていくのが一番いいんじゃないでしょうか」
アイデアその⑤「聞き上手な」木
「木が成長したあとのことは、30年後の人たちに託せばいいやっていう感じで、まずは2018年の夏に、第一歩を踏み出すことにしましょう」と小山さん。ただ、その未来予想も描けています。「2050年頃に航空写真を撮影し、点々と植えてある6本の木をなんとなく線で結んでみたら、何かの形になり、実はそれが木を植えた人たちが残したメッセージになっていた......! というような仕掛けがあるといいかも」と盛り上がります。
「そういう"壮大な未来へのいたずら"って感じでやるのがおもしろいんじゃないかと思いますよ!」
アイデアその⑥ 上空から見てみると......? 大掛かりないたずらを潜ませた木
六本木未来会議では、2018年6月の6周年記念を皮切りに、さまざまなクリエイター・アーティストのみなさんと、6本の木を植えるプロジェクトを開始します。もしみなさんにもいいアイデアがあれば、編集部までお送りください。本企画の様子は六本木未来会議のプロジェクト内でレポートしていきます。お楽しみに。