101 和田永(アーティスト / ミュージシャン)前編

和田永_01

ときにオープンリール式テープレコーダーを楽器として操り、ときに古い電化製品を電子楽器として蘇らせ、自らの体を使って音を表現する和田永さん。音楽とアートの領域でつくり出す唯一無二の作品、パフォーマンスで注目を集める和田さんは、2019年2月21日から行われるTOKYO MIDTOWN × ARS ELECTRONICA「未来の学校祭」への参加も発表されました。ものづくりの原点と「未来の学校祭」で表現したいパフォーマンスについて、そして役目を終えた家電とテクノロジーで生み出す独自のアートを通じて、今後向かいたい場所を聞きました。

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update_2019.2.13 / photo_yoshikuni nakagawa / text_akiko miyaura

自分の体の動きと音が連動する体験が、いまの原点。

オープンリール オープンリール

リールに磁気テープが巻かれた機械で、カセットテープ登場以前に録音メディアとして使用されていた。和田さんはオープンリール式テープレコーダーを楽器として演奏するグループ「Open Reel Ensemble」のメンバー。吉田悠氏、吉田匡氏と3人でリールやテープに直接手を触れながら演奏を繰り広げ、コンピューターとも組み合わせながら新たな音楽をつくり出している。ISSEY MIYAKEのパリ・ コレクションの音楽も担当。

ブラウン管ガムラン ブラウン管ガムラン

ブラウン管テレビから出る静電気を手で拾い、足につけたコイルを通してギターアンプに伝えることで音が鳴る、和田さん発案の電磁楽器。画面に映る縞模様によって音色と音程が変わり、画面に手が触れる面積で音量を調整し、リズミカルに叩くことで打楽器として演奏する。この楽器によるソロパフォーマンス「Braun Tube Jazz Band」では、「第13回文化庁メディア芸術祭 アート部門 優秀賞」を受賞している。
Photo by Mao Yamamoto

 僕は、主に古い家電を楽器に蘇らせて、それを使ってパフォーマンスをしているんですけど、それは子どものころからの妄想が原点になっているんです。たとえば、遠い放送局の電波を拾ったときの不安定なザーッという雑音を聞いたり、ブラウン管に映る砂嵐を見たりしたときに、ラジオやテレビは人が知覚できない何かを感知する装置で、その向こうには謎めいた世界が広がっているように感じていました。僕の造語で言うところの「異界情緒」です。それって、割と共通の感覚だと思うんですよ。ただ、僕の場合は、「電気の妖怪がいそうだな」という妄想が広がって、次第に重症化していった(笑)。いまやっているパフォーマンスは、そこから広がり続けているパラレルワールド的な世界観を具現化している感覚でもあるんですよね。

 家電を楽器に変えるきっかけになったのは、中高生のころにいじっていたオープンリール。モーターが壊れて手で回したときにこれまた時空がゆがんだような摩訶不思議な音が鳴って、それこそ知らない国の楽器に出会ったような衝撃がありました。同時に、自分の体の動きと音が連動する体験をしたわけです。初めてギターの弦を弾いて、ジャーンと音が鳴ったときのような感覚でした。その後、「Open Reel Ensemble」の結成につながっていきました。

 そして......気づいたら、ブラウン管を叩いていました(笑)。僕がつくった楽器に、『ブラウン管ガムラン』というものがあります。簡単に言うと、ブラウン管テレビから出る静電気を手で拾って、足に巻いたコイルを通してギターアンプにつなぐと、体がアンテナになって音が鳴るというもの。よくインタビューで、「何でブラウン管を叩くことになったんですか?」って聞かれるけれど、もう細かい記憶がないんですよね。静電気を拾って音が鳴るとわかってから記憶が飛んでいて。気づいたら無我夢中でブラウン管を叩いていました(笑)。

東南アジア、中東で目の当たりにした電気の魔術性。

 小さいころに見た海外の光景からも、大きな影響を受けていると思います。自分のなかで、いまに至るまでのフェーズがいくつかあるんですけど、その第一段階が幼いころに両親と行ったインドネシアで見たガムラン。第二段階は大学時代にベトナムの寺院で、仏像がビカビカ光っている光景を見たことですね。更に蛍光管が明滅する中でお坊さんがエレクトリックな弦楽器を奏でてお経のようなものをマイクで歌っていました。音はバリバリに歪んでて。おかしくないですか?(笑)ある種、映画のような世界がリアルな日常にあって、そのときに電気の魔術性というものを目撃した気がしました。

 楽器という面で衝撃を受けたのは、トルコに行ったときに出会ったエレクトリック・サズ。サズは現地の伝統的な弦楽器で、本来はアコースティックなのですが、エレクトリック化されたものがあるんですよ。"微分音"と言う白鍵と黒鍵の間の音が鳴るんですけど、聴けば一発でアラブの音だとわかる独特な音階で、それですごくサイケデリックな音楽を奏でるんです。ちなみにモスクからラウドスピーカーで街に流れる、礼拝時間を知らせる歌は、これまたバリバリに割れていました(笑)。テクノロジーがすごくマジカル、かつミラクルな印象として残りました。電気電子的な楽器って宇宙を表現する楽器として歴史的に使われてきたと思うんですけど、電気的かつローカルなものって「異界情緒」と「異国情緒」が合体している謎の魅惑があるんですよね。

 僕が家電を楽器にするときは、家電そのものが持っている説明書に載っていない力を引き出すことから始まります。「え!? お前、そんな得意分野あるの?」みたいな。家電としてリタイアしたものなので、要は定年後なわけですよね。でも、実はすごくアクロバティックなおじいちゃん、おばあちゃんだったっていう感じかな。それで、「じゃあ、これやってみない?」って誘ってみるんです。「才能あるよ! 楽器になれるよ!」って。転職のススメですね。