100 尾崎マリサ[スプツニ子!](東京大学生産技術研究所特任准教授・アーティスト)後編

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「理系女子アーティスト」として注目を集め、「スプツニ子!」の名で発表した作品が常に話題を呼んできた現代美術家、尾崎マリサさん。現在は東京大学生産技術研究所の特任准教授も務め、2018年12月に国立新美術館で行われていた東京大学生産技術研究所70周年記念展示『もしかする未来 工学×デザイン』でも新作を発表しました。テクノロジーがもたらす未来への展望から、六本木に求めること、そして尾崎さんが目指す"女性が生きやすい世界"への思いまで。会場に訪ねて聞きました。

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update_2019.1.30 / photo_mariko tagashira / text_tami okano

「違う」ことを前提に、どうつながれるかを考える。

テートモダンとデザインミュージアム

テートモダン(Tate Modern)は、ロンドンにある近現代美術館。ピカソやダリ、マティスなどの作品が収蔵されている。デザインミュージアム(Design Museum)は2016年11月に新たにケンジントンに場所を移して誕生した美術館。創設者はテレンス・コンラン氏。

 世界の都市の中で、クリエイティブだと思う街は、ロンドンです。あの街は、人がみんな「違う」ということを前提として、そこからどうつながれるかを常に考えている街だから。

 ロンドンには2003年から7年間住んでいたのですが、ロンドンから東京に帰ってきて寂しいな、と思うのは、常にどこか、疎外感があること。あなたは特別だよね、とか、はみ出しているよね、とか、それは褒め言葉のようでいて、僕たちとは「違う」のだ、という拒絶感のようなものを感じます。

 それに比べると、ロンドンって、それぞれの人種や文化的な背景をはじめ、個人的な価値観も思想もみんなが違いすぎちゃうから、「みんな違うよね。じゃあ、どうやってつながろうか」という発想がそもそものベースにあり、居心地がいいんですよね。日本にいると、永遠の「違う人」。しかも、つながろうとする努力があまり感じられない。

 あと、ロンドンがクリエイティブだと思う理由は、自由に「実験」ができるところですね。何かを始めよう、というときに、お金をかけず、まずやってみることができる土壌がある。ライブのチケットも安かったし、美術館はほとんど無料だから、アートもいっぱい見ることができて、楽しかったですね。最初にロンドンにいったとき、自分の家はすごい小さかったけれど、テートモダンやデザインミュージアムを、私の家の拡張スペースだと思うことにしたんです。無料ですからね。そう思ったら、私の家はなんて広いんだ! と。

アーティストが実験できる、安くて完璧すぎない場所を六本木に。

 六本木をアートとデザインの街にしたいと思うなら、アーティストが住んだり制作できるような場所をつくったらいいんじゃないかと思います。ものすごく家賃の安い部屋や空き家をアーティストに提供するだけで、もっとリアルなアートとデザインの街に変わるんじゃないでしょうか。

 というのも、やはり、本当のアート&カルチャーって、若い学生や若いアーティストから生まれているという感覚が私にはあって、ロンドンでも、物価が安い東ロンドンの倉庫に若い人たちが10人でシェアして住んでいたり、廃墟を占拠して活動しているアーティストがいたり、そういうアンダーグラウンドなところにリアルなアート魂があると思っているんですね。

 何か新しい表現をしたいとか、アーティストとして生きていきたいと思ったときに、お金持っている人なんて、財閥の娘や息子くらいしかいないじゃないですか。私も25歳で帰国したときは超貧乏で、こんなに物価も家賃も高い六本木には来る機会がほとんどありませんでした。六本木って、高収入の大人がアートを観たり買ったりするにはいいかもしれないけど、若いアーティスト側からすると、近寄ることすらできない街なんですよね。

 もし、六本木に、若いアーティストのための場所ができるんだったら、みんなが雑魚寝できちゃうような、適当な感じがいいですね。あまり整いすぎていなくて、適度に汚れているくらいのほうが、いろいろな実験がしやすいと思います。例えば、壊す前のビルがあれば、先着順で好きな展示してもいいですよ、とか。キレイすぎない、キラキラしすぎない場所。六本木はある意味で完璧を求めているのかもしれませんが、むしろ、「完璧すぎない場所」が欲しいのと、あと、お金のない若者に、ぜひ親切にしてほしいって思います。