100 尾崎マリサ[スプツニ子!](東京大学生産技術研究所特任准教授・アーティスト)前編

スプツニ子!_01

「理系女子アーティスト」として注目を集め、「スプツニ子!」の名で発表した作品が常に話題を呼んできた現代美術家、尾崎マリサさん。現在は東京大学生産技術研究所の特任准教授も務め、2018年12月に国立新美術館で行われていた東京大学生産技術研究所70周年記念展示『もしかする未来 工学×デザイン』でも新作を発表しました。テクノロジーがもたらす未来への展望から、六本木に求めること、そして尾崎さんが目指す"女性が生きやすい世界"への思いまで。会場に訪ねて聞きました。

>後編はこちら

update_2019.1.23 / photo_mariko tagashira / text_tami okano

四つ葉のクローバー探しにみる「無駄」と「楽しみ」。

『もしかする未来 工学×デザイン』 『もしかする未来 工学×デザイン』

東京大学生産技術研究所の、先端研究やプロトタイプが一同に介した展覧会。国立新美術館で2018年12月1日から12月9日まで開催された。尾崎さんと研究室のメンバーは実際にドローンに実装を行い、『幸せの四つ葉のクローバーを探すドローン』と題した映像を発表した。

 東京大学生産技術研究所の70周年記念展示『もしかする未来 工学×デザイン』に出した作品は、『幸せの四つ葉のクローバーを探すドローン』。見つけたら幸せになれると言われ、0.001%しか存在しないというあの「四つ葉」を、人工知能を搭載した無敵の探査ドローンが見つける様子を描いた短い映像作品です。

 着想した場所は、東大の駒場リサーチキャンパス。駒場に、クローバーが群生している原っぱのような場所があるんですね。そこに座っておにぎりを食べていたら、ふと、「四つ葉のクローバーを片っ端から探してくれるドローンがあったら、世界中の幸せが手に入るのか!?」と思ったんです。東大の凄いところは、そういうアイデアを投げかけると、「そのプログラム、書けますよ」と快く引き受け、実現してくれる人がいるところ。実際に、画像認識で四つ葉を見つけるプログラムを書き、ドローンに搭載して見事、完成したわけですが、もちろん、これは、私なりのブラックユーモアです。

 四つ葉のクローバーを探すのって大変だし、なかなか見つけられないものを探すという行為は、至極「無駄」だけれど、人間って、無駄のなかに豊かさを見つけることもありますよね。「無駄をなくそう」という言葉のもと、私たちはどんどんテクノロジーを使って効率よく仕事をするようになるんですけど、人工知能と労働、人工知能と効率性を考えるとき、もし、四つ葉のクローバー探しのような、人間らしい「些細な楽しみ」までもテクノロジーに任せてしまったら、いったい、何を喜びとして生きていくんだろう、と。

 人工知能で上空から課題を一気に解決するっていうのは、幸せをこうすれば効率よく手に入れられますよっていう、シリコンバレー批判でもあるし、ある種の滑稽さを、私は皮肉として作品に込めているんです。

楽観はしていないけれど、絶望もしていない。

 仕事柄、みなさんから「今よりもテクノロジーが進化した未来の、"わくわくする姿"を描き出してください」というオーダーをたくさんいただきます。政府や企業の宣伝、広告的な意味では"わくわくする"もののほうがいいのだろうし、そのほうが、受け手側の気持ちとしてはハッピーかもしれない。でも、技術の進化がもたらす未来のいい面ばかりを見ていたら、とても危険だと思います。

 デジタルでもバイオでも、いろいろな可能性が広がると同時に、いろいろな懸念材料も増える。技術者や研究者には、当然、その「負の可能性」も見えていて、未来との向き合い方や心持ちは、人それぞれだと思うんですね。負の要素そのものと戦おうとする人、未来に絶望しながらも一筋の光を見出そうとする人、いろいろいらっしゃると思うんですけど、私の場合は、今、やれることをやろう、です。

 テクノロジーによって未来が良くなるとは言えないし、人類スケールで考えると問題は山積みです。今できることは、その問題をあぶり出し、解決法を考えること。嫌な未来も想像できるけれど、私も未来におけるひとりのアクターだから、綱引きみたいに、自分がいいと思う方向に、引っ張ることはできる。未来は自分がつくれる、という意識をもっているので、楽観はしていないけれど、絶望もしていません。