91 小林武史(音楽家&音楽プロデューサー)後編

int_91_main03.jpg

数え切れないほどの名曲を世に送り出してきた日本屈指の音楽家・小林武史さん。近年、小林さんは音楽を軸としながらも、アート、デザイン、食、農業など多様な領域を横断し、新しい出会いや価値観を提供してきました。六本木もまた、多様な文化を内包した街。小林さんの視点で見る都市の可能性とは何か? それは現代の社会の合理性からこぼれ落ちる自然、営み、生命観につながっていきました。

>前編はこちら

update_2018.4.18/ photo_mariko tagashira / text_nanae mizushima

アートの語源はラテン語の"Ars"。それは"生きる術"。

Reborn-Art Festival 20172017_06_16_4153.jpg

2017年7月22日~9月10日の51日間、宮城県の牡鹿半島、石巻、松島湾を舞台に繰り広げられたアートと音楽と食の祭典。国内外で活躍する現代アーティストの作品展示や多種多様なプログラムを行った。並行して7月28日〜30日の3日間は、『Reborn-Art Festival 2017×ap bank fes』を開催。Mr.Childrenをはじめとする豪華アーティストが音楽ライブを開催した。http://www.reborn-art-fes.jp

名和晃平
White Deer(Oshika),2017
©Reborn-Art Festival photo後藤秀二

 自然といえば、根源的には人間もまた自然の一部ですよね。最近よく思うのは、僕たちは人間であると同時に、地球上のあらゆる自然の営みの一部なんだということ。人間と動物、人間と自然と切り分けるのではなく、全体の営みから考えていくと、何かこれから必要なことがいろいろと見えてくるような気がするんです。その営み自体をおもしろがるというか。

 とはいえ、じゃあ突然「自然を味わってみなさい」と言われても難しいでしょう。そもそもみんな日々の「現実」に必死でそれどころではない。そういうなかで営みのおもしろさに気づいたり考えたりするには、何かしら装置のようなもの、トリックや企みが必要だと思うんです。

 その装置のひとつとして、アートは有効な手立てだと僕は信じていて、昨年、「Reborn-Art Festival 2017」という芸術祭を宮城・石巻、松島湾エリアを中心として51日間開催しました。構想したのは東日本大震災後、2、3年経った頃のことで、『大地の芸術祭』や『瀬戸内国際芸術祭』から、ヒントを得ながら具現化していきました。

 僕自身がこの芸術祭で一番大切にしたかったのは、東北の生きる力。まさにアートの語源はラテン語のArs。「人が生きる術」を指します。一度は多くを失ってしまったけれど、誰かが本気でこの地と向き合わなければならない。それも東京をはじめとした外部の大きな力によって東北を蘇らせるのではなく、内側にもともと備わっていた生きる力を引き出し、蘇らせたかったんです。そして一度きりのイベントとか単発的なことではなく、もう一段踏み込んだ先の"環境をつくる"ということ。その覚悟を持って、「10年続けていこう」という思いで「Reborn-Art Festival」は考えているんです。

ひとりひとりの語られない物語、「INSIDE OUT」

JRjr.jpg

フランス出身、1983年生まれ。現在、パリとニューヨークを拠点に世界中で活動を続ける活動家。世界各地で弾圧や貧困、差別のもとで暮らす人々を撮影し、それを現地の人たちと壁に貼る活動を続けている。2012年には、世界的に行なうプロジェクト「INSIDE OUT」プロジェクトの一環として、ポートレート撮影用のカメラと大型プリンターを装備した専用トラックで東北の被災地を巡回、人々を撮影して街中に展示する活動を日本でも行い、話題を集めた。2013年東京・ワタリウム美術館でアジア初の個展を開催した。

 震災から7年が経ちましたけれど、7年経った今だからこそ出てくるネガティヴなことも、現地にはあります。仮設住宅が取り壊されることで、人のつながりが断たれて心の拠り所を失う方も多いですし、こんなはずではなかったという焦りや不安を抱えている方もいる。そういった現実を目の当たりにすると、アートのマインドで物事を考える前に、医療の必要性にも迫られます。

 それでもアートができる役割、可能性を感じながら、この場で生きている、生きていくという生命感、実感をもたらしていきたい。そんな想いで「Reborn-Art Festival」で行ったプロジェクトのひとつに、フランス人のアーティストJRとの「INSIDE OUT」があります。

 「INSIDE OUT」プロジェクトはJRが2011年から始めたアートプロジェクトです。大都市から紛争地帯までさまざまな場所で、そこに住む人々の顔写真を大きく出力して張り、ひとりひとりの語られない物語を街に映し出す試みですが、今回「Reborn-Art Festival」では、写真撮影室付きのトラックで牡鹿半島や市街地を巡りながら、そこに住んでいる人の顔を集め、街中にペイスティングしていきました。

 ここで私は生きている。「INSIDE OUT」はこれ以上ない等身大の声を発していると僕は捉えました。その声は、現代の社会の合理性からこぼれ落ちたり、疎外されたりするものかもしれません。でも本質的にアートとはそういうもので、人はそういうものにこそ共鳴できるし共振できる。そういう未来の方がおもしろいと僕は思います。実際、「INSIDE OUT」は周囲の環境と共鳴しながら、ひとつの生命観を発していました。その生命観こそ、野太い命。先ほどから話していた"自然"だと思うんです。