87 新海誠(アニメーション映画監督)前編

int_87_main01.jpg

新海誠さんが監督を務めた長編アニメーション映画『君の名は。』は、2016年に公開され、社会現象になるほどの大ヒットを記録。六本木を含む東京の街が頻繁に登場する新海作品は、圧倒的な映像美が特徴といえますが、舞台になる街をどのようにして選び、アニメーションに落とし込んでいくのでしょう。物語と街の関わりについてお聞きしました。

後編はこちら

update_2017.11.29 / photo_mariko tagashira / text_ikuko hyodo

映画を完成させないと辿り着けない六本木。

TOHOシネマズ 六本木ヒルズ 1.jpg

都市型シネマコンプレックスの先駆けとして、六本木ヒルズけやき坂コンプレックスに2003年にオープン。2015年にリニューアル。全9スクリーンあり、その一部に独自規格による巨大スクリーン「TCX®」や、最高級の音響を体験できる「ドルビーアトモス」「ヴィヴ・オーディオ」を導入。2004年より、東京国際映画祭の会場としても使われている。

 僕にとって六本木は、映画が完成すると最初の完成披露試写や舞台挨拶をやらせてもらえる、キラキラした場所というイメージです。東宝と一緒にやるようになってからは、TOHOシネマズ 六本木ヒルズで最初に挨拶をすることが多いのですが、映画館に辿り着くまでの空間もラグジュアリーな感じがしますよね。六本木に行けるようになるまでには、2年くらいかけて映画を完成させないといけないので、特別な場所というイメージが強いです。

 『君の名は。』で、主人公の瀧くんがアルバイト先の奥寺先輩とデートをする場所として六本木が出てくるのですが、高校生の瀧くんにとってアウェイのような場所がいいと思ったんです。一生懸命背伸びをして、あたふたするような感じを出したかったし、見るものや触れるものに圧倒されて、彼のコンプレックスが刺激されてしまうような、キラキラした場所にしたいと思って六本木を選びました。

『君の名は。』

新海監督の6作目のアニメーション映画。1,000年ぶりとなる彗星の来訪を1か月後に控えたある日、東京に暮らす男子高校生・瀧と、山深い田舎町に暮らす女子高校生・三葉は異性になる不思議な夢を繰り返し見るうちに、自分たちの体が入れ替わっていることに気づく。これまでもこだわってきた、すれ違う男女の物語を圧倒的なスケールで描き出した作品。

Blu-ray&DVD好評発売中 
発売・販売元:東宝 ⓒ2016「君の名は。」製作委員会

 その一方で、奥寺先輩とデートの約束をするのは、瀧くんと入れ替わった三葉のときなので、東京観光的な意味合いもあるんです。田舎に住んでいる三葉としては、たぶん六本木に行ってみたかったんでしょうね。国立新美術館のカフェで奥寺先輩と瀧くんはお茶をするのですが、僕がもしプライベートで誰かとあのカフェに行ったとしても、やっぱりオタオタしてしまうと思います(笑)。どうやって注文するんだろうとか、お金は足りるかなとか、高校生だったらなおさらでしょうね。

現実の風景は、画面に宿る説得力が違う。

国立新美術館のカフェ「サロン・ド・テ ロンド」 3.jpg

『君の名は。』の劇中で、主人公の瀧くんと奥寺先輩がデートする、国立新美術館の2階にあるカフェ。巨大な逆円すいの建物の上部に広がる空間で、宙に浮いているように美術館を見渡すことができる。映画からはふたりの座った席まで想像でき、ファンによる聖地巡礼が盛り上がった。新海監督は映画公開後、この場所で対談などを行っている。

 現代の日本を舞台にした物語を作ることが多いのですが、そういうジャンルがもともと好きなのだと思います。その場合、登場する土地も必然的に実在する場所にしたくなるんです。理由はいくつかあるのですが、現実にある場所を舞台にすれば、それ自体が物語の世界観の設定代わりになるわけです。ファンタジーを描くとしたら、たとえばこの道路がいつぐらいにできて、交通量はどのくらいで、何軒くらいお店があって......みたいなことまできちんと考えていかないと、説得力のある絵になりません。登場人物に実在感を持たせようと思ったら、その風景にも歴史を積み重ねないといけない。その点、現実の風景っていうのは、当然ですけど歴史を積み重ねた結果としてあるので、そのまま描くだけで画面に宿る説得力がまったく違ってくるんです。

 『君の名は。』で改めて感じたのですが、映画のなかで実際の場所を登場させると、「ここ、行ったことがある!」「見たことがある!」と想像以上に多くの人が喜んでくれるんですよね。こちらとしても嬉しいし、そういった仕掛けをもっと入れてもいいのかなという気持ちもあります。

 現代を舞台にした物語を作るのは、今生きている人間の話を作りたいからだと思うんです。そういう意味で、自分にとって一番距離が近いのが東京という街なので、東京を舞台にした物語を作り続けているんでしょうね。

 だけど極端な話、舞台はどこであってもいい、というふうにも思っています。なぜなら物語は誰のなかにも、どんな場所にも発生しうるじゃないですか。映画のなかで何でもない東京の風景を出すことで、観てくださった方にとってそこが特別な場所になったりもしますが、それって僕たちの人生でも毎日起こっていることだと思うのです。たとえば好きな人と一緒に歩道橋を渡ったら、その歩道橋が特別な場所になりますよね。

 特別な場所から物語が生まれるのではなく、特別な体験をしたことで、その場所が特別になっていくのだと僕は思っています。