86 伊藤直樹(PARTY クリエイティブディレクター)後編

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非言語のインタラクティブなコミュニケーションを形にし、都市と人との接点を描き出す、クリエイティブラボ「PARTY」のクリエイティブディレクター伊藤直樹さん。これまでにNike、Google、Sony、無印良品など企業のクリエイティブディレクションを手がけ、2017年の「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」には"やさい"とテクノロジーを組み合わせた「でじべじ - Digital Vegetables - by PARTY」を出展し、話題を呼んでいます。そんな伊藤さんにこれからの東京が、六本木が、魅力的な都市であるために何をすべきかお聞きしました。

>前編はこちら

update_2017.11.8 / photo_mariko tagashira / text_ryoh hasegawa

魅力的な街は、身体的に人と戯れる。

ロサンゼルス topic5.jpg

アメリカ合衆国カリフォルニア州にある都市。天候に恵まれ、1年間のうちほとんど雨が降らない地域。全米で最もヨガの実践者が多く、健康志向の強い街としても知られる。また市内にはハリウッドがあり、映画産業を初めとして世界への情報発信力が非常に強い。アメリカの世界的な経営コンサルティング会社A.T.カーニーが発表する「世界都市指数」で第8位にランクインしている。

僕が初めて東京を訪れたのは、小学生の頃。修学旅行のとき、六本木の街を架ける首都高速を見て、「未来都市だ」とワクワクしたことを覚えています。ただ、今の東京はつまらないと感じているんです。もう30年住んでいるのでワクワクしないというか、きっと飽きてしまったんでしょうね。

今はロサンゼルスがすごく好きなのですが、その理由を考えてみると、東京と比べて「街と戯れる機会が多い」ことに気がつきました。気候に恵まれた地域なので、自然と散歩に出かけたくなるんです。街を歩けば、住宅街の階段を利用してフィットネスをするノースリーブを着たマッチョな女性によく出会います。身体的に街と付き合っているような気がして、ワクワクしますね。

そんな風景を見ているうち、街が持つ意味についても考えるようになりました。食料品も日常品も、ファッションもインターネットで購入できる時代に、街はどんな意味を持つのだろうと。

街を歩くと、さまざまな出会いがありますよね。ふらっと立ち寄ったレコードショップですばらしい楽曲に出会ったり、すれ違う人を見て今期の流行を知ったり。要するに、街に出るとあたり一面に溢れている情報と接点が生まれます。このインタラクティブな接点こそが、街の持つ意味です。

首都高の真下に自転車レーンをつくり、人と都市の接点を生み出したい。

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西瀬戸自動車道の愛称で、本州・広島県尾道市と四国・愛媛県今治市を全長約60kmで結ぶ架橋ルート。最大の特徴は、徒歩や自転車でも渡ることができること。CNNが選ぶ「世界で最も素晴らしい7大サイクリングコース」にも選ばれ、世界屈指のサイクリングコースとして名を馳せている。

かつて好きだったポートランドは"ウォーカブル(walkable)な街"として有名です。街がコンパクトで、公道空間と歩道空間が移動しやすいように設計されています。また、日本でも京都は街としては狭いので、移動に最適ないわゆる"ウォーカブル"で"バイカブル(bikable)"な街だといえます。どちらの街も移動しやすい構造になっているので、街と人との接点をつくれる環境にあるんです。

ただ、東京は都市が広く分散していて、そういう設計にはなっていません。僕は解決策として、首都高の下に自転車レーンをつくればいいのではないかと思っています。今の東京はバイカブルとは言いがたい状態ですし、電車網で移動するとなると、街との接点はつくりにくい。なので、自転車でも移動しやすく設計することで、東京をひとつの都市としてくくらず、移動しながらさまざまな街を堪能するのがベストなのではないでしょうか。

イメージは事故が起きにくい自転車道として有名な四国のしまなみ海道です。東京も首都高と連携し、スピードを出しても問題ないくらいの自転車道を首都高の下につくってみる。街の間をスムーズに移動できるようになれば、街ごとに接点がいくつも生まれます。拠点がひとつではなくなり、常に街と戯れていられるようになると思うんです。

移動をデザインし、都市を堪能する。

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アメリカ合衆国のシリコンバレーを拠点に、バッテリー式電気自動車と電気自動車関連商品を開発・製造・販売している自動車会社。世界的起業家イーロン・マスクがCEOを務めており、GoogleやeBayから出資を受けている世界最注目の自動車メーカーだ。日本国内ではトヨタも業務・資本提携に合意している。

もちろん自転車や歩くだけではなく、車での移動も快適になってほしい。僕は会社でテスラの自動運転車を購入し、移動しながら会議を車内でやりたいんです。テスラはGoogleから出資を受けているので、Bluetoothを介したGoogle ハングアウトでビデオチャットができたり、Google ドキュメントが黒板のように映し出されるので、議事録を取ることもできる。車内で会議をするのには最適な環境が揃っているんです。今はまだ法規制の問題がありますが、ゆくゆくは運転をせずに目的地へ自動走行して、退屈な移動時間を生産的に使えるような世界が実現できるのではと期待しています。

もちろん会議だけじゃなくて、車内で映画を観たり、エンターテイメントを持ち込んだりするのもすてきなアイデア。僕は車で通勤しているので、自分が実験台になりたいくらい! そのような世界になれば、きっと東京という都市を誰もが堪能できるんじゃないかと思っています。表現者にとっては、未知の領域に思いを馳せ続けることが大切なんです。

アメリカではすでに、市民が自ら移動体験を変えようとしています。カリフォルニアのゴールデンゲートブリッジでは、渋滞に辟易したドライバーたちが手を挙げながら、他人の車に「乗せてください」とライドシェアを行っているんです。何かと話題になる自動運転に限らずとも、近い将来、移動を豊かにする手段が増えていくと思います。