57 永井一史(アートディレクター)

永井一史(アートディレクター)

HAKUHODO DESIGNの代表も務め、サントリー「伊右衛門」やトヨタ「LEXUS」、パレスホテルなど、数々の広告やブランディングを手がける永井一史さん。2015年から、グッドデザイン賞の審査委員長も務める永井さんに、六本木をよいデザインのあふれる街にしていくアイデアをうかがいました。まずは、今年のグッドデザイン賞について。そこから話は、これからデザインが担う役割へと広がっていきます。

update_2015.8.5 / photo_hiroshi kiyonaga / text_kentaro inoue

グッドデザイン賞の審査委員長を引き受けた理由。

グッドデザイン賞

グッドデザイン賞
公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「総合的なデザインの推奨制度」。2015年度グッドデザイン賞の受賞結果は9月29日(火)に発表予定。また、2015年10月30日(金)~11月4日(水)まで、東京ミッドタウンを会場に「グッドデザインエキシビション2015(G展)」を開催。最新のグッドデザイン賞受賞デザインなど約1000件以上が出展されるほか、さまざまなプログラムを展開する。

 正直、自分がグッドデザイン賞の審査委員長に指名されるとは、まったく思ってなかったんです。というのも、グッドデザイン賞はプロダクトのイメージが強く、前委員長の深澤直人さんをはじめ、今まで審査委員長を務めていた方々は、プロダクトデザイナーが中心でした。デザインの中でも、コミュニケーションとかブランディングといった領域の仕事を中心にしてきた僕が受けてもいいのだろうか、と少し悩みました。

 グッドデザイン賞は、戦後、まだ日本の製品がデザイン的に洗練されていなくて、海外のコピー商品も多かった時代に、それらを正していこうという通産省の施策としてはじまりました。そこから高度経済成長期には、新しい技術に形を与えて生活の質を上げるという、日本が「ものづくり大国」と呼ばれるようになっていく大きな原動力になっていった。審美性が価値を生んでいく時代だったと思います。

 でも今は、もちろんモノ自体のデザインも重要ですが、既存のやり方ではうまくいかない問題を解決したり、発想を広げたり、何かイノベーションをもたらすというところにこそ、デザインの力が求められていると感じます。僕が審査委員長をすることで、デザインというものを、もう少し広い領域でとらえてもらうチャンスかもしれないと思って引き受けることを決めたのです。

カテゴリを横断する新たな視点「フォーカス・イシュー」とは?

 今年からグッドデザイン賞に、「フォーカス・イシュー」を設定しました。「フォーカス・イシュー」とは「来たる社会において、デザインがとくに求められると考えられる領域」のこと。もっとわかりやすくいえば、縦割りだった各カテゴリを、横軸でも見渡そうという取り組みです。

 たとえば、SNSとカフェは、これまでのグッドデザイン賞では別々のカテゴリになっていました。でも、コミュニティを生み出すという視点から見れば同じくくりと考えることもできるでしょう。そこで、「地域社会・ローカリティ」「社会基盤・モビリティ」「地球環境・エネルギー」など、12のテーマを設け、フォーカス・イシュー・ディレクターという特別チームが、カテゴリを横断して応募対象を観察します。

 これまでは、あくまでグッドデザイン賞を受賞した対象を通して、こういう価値がある、こんな背景があるというふうに語ることが主体でしたが、もう一歩踏み込んで、未来に向けたデザインの可能性などについても議論する。その内容は、もちろん特別賞審査の参考にもされますし、受賞展「グッドデザインエキシビション2015(G展)」の中で「提言」として発信されます。つまり「フォーカス・イシュー」は、新しい審査基準であり、新しい情報発信の方法でもあるわけです。

デザインの目的は変わらないけれど、守備範囲が広がっている。

 究極的にいえば、デザインが目指しているのは、みんなが幸せに暮らすこと。その目的は、かつてのアーツ・アンド・クラフツ運動の時代から、それほど変わっていません。言ってみれば、デザインの「守備範囲が広がっている」という感じです。

 そのひとつの例が、グッドデザイン賞でいえば、2012年に深澤直人さんが委員長のときに取り入れた「インタラクション」と「仕組み」による審査。「仕組み」というのは、システムとかプラットフォームと言い換えてもよくて、この年には「QRコード」がグッドデザイン賞を受賞しました。今までだったら、QRコードがグッドデザインと言われたら、正直ちょっとわからないという感じもあったでしょう。また、数年前には、糖尿病の患者さん向けの痛くない注射針が受賞したこともありましたが、これもいわゆる見た目のデザインというよりは、機能的、社会的なデザインへの評価に近いものです。

 時代に応じて、グッドデザインの意味は変わっていくし、要請される役割も変わっていく。これまでの歴史を見ても、グッドデザイン賞自体が新しいデザインの概念を開拓してきたと思うし、今回の「フォーカス・イシュー」も、その延長といっていいでしょう。