56 グエナエル・ニコラ(デザイナー)

グエナエル・ニコラ(デザイナー)

ルイ・ヴィトンなどラグジュアリーブランドから、ユニクロまで。グラフィックやプロダクトにとどまらず、インテリア、建築と幅広く活躍するグエナエル・ニコラさん。メイン写真の撮影は、ニコラさんも参加している企画展「"みらい"の羊羹~わくわくシェアする羊羹~」開催中の、とらや東京ミッドタウン店で。20数年前に来日し、世界で一番好きな街は東京というニコラさんが語る日本、そして未来のデザインとは?

update_2015.7.1 / photo_hiroshi kiyonaga / text_kentaro inoue

六本木はいつも、何もなさそうなところから出てくる。

"みらい"の羊羹~わくわくシェアする羊羹~
ニコラ氏ほか、須藤玲子氏、渡邉良重氏がデザインした3種類の新しい羊羹を、食べるシーンとともに展示。「SUEHIROGARI」(写真)ほか、それぞれ限定販売も。とらや東京ミッドタウン店で、2015年8月3日(月)まで開催中。 とらや東京ミッドタウン店

とらや東京ミッドタウン店
2007年3月にオープン。アートディレクションは葛西薫氏、設計は内藤廣氏。和菓子の販売と菓寮(喫茶)はもちろん、器やお茶など、とらやが選んだこだわりの品々を扱うほか、ギャラリーも併設。和の魅力や価値を伝える企画展を多数開催している。

 六本木の不思議なところは、東京の真ん中にまったく新しい街をつくってしまったこと。そういう場所って、パリにもニューヨークにも上海にも、世界のどこにもない。しかもコマーシャルスペースだけじゃなくて、住むところもある。お店もいっぱいあるし、公園もあるし、ミュージアムもある。普通、街は外側から拡大していくのに、東京がセンターからもう1回広がった感じがします。

 私が日本に来た1991年にはもちろん、まだこの街には何もなくて、六本木=ナイトクラブみたいなイメージ。それが、いつの間にか六本木ヒルズができて、その数年後には東京ミッドタウンができました。六本木はいつも「どこにあったかな?」という感じで、何もなさそうなところから出てくる(笑)。

 昔に比べて街もきれいですっきりしましたが、個人的には、あんまりわかりやすくしないほうがいいと思っています。たとえば、六本木ヒルズって、すごくわかりにくいでしょう? 最初に行ったときは地図を見ても迷っていたのに、10年たってだんだんわからないところがなくなって、自分の街になってきた。今の時代は、なんでもかんでもわかりやすくしてしまうので、逆に「ゲットロスト(道に迷う)」が楽しい。街はもっと迷路っぽいほうが面白いと思います。

頑張らなくていい街、東京。

「一番好きな街は東京」と言うと、よく「なんで?」と聞かれるけれど、その理由は「常に動いている」から。出張から戻ると「あれ、この道変わったね」なんて気づくことも多い。そういうのが嫌いな人もいるだろうけど、すごく楽しいじゃない?

 たとえばパリなら、ここに住んでます、ここで遊んでます、たまにこっちも行きますで終わり。知らない人が観光するにしても、1~2回行けばもうだいたいわかる。でも東京は、私はこことこことここ、あなたはこことこことここ、というように「一人ひとりの東京」が違っていて、みんながいろんな街を「ヒップホッピング」している。ただ、エリアが広いうえにシンボルとか主要なエリアがないから、外国人観光客にとっては、けっこう大変かもしれません。

 面白くない街は頑張らないといけないけど、東京は頑張らなくてもいい。だって常に動いている、世界で一番ダイナミックな街だから。自分が動かなくても街が動いているからエネルギーをもらえるし、便利だし何でもある。悪い意味では、レイジー(怠け者)になってしまうかもしれませんけど。

日本は海外の国よりも5~10年くらい先にいる。

 別の表現をするなら、東京はトレンドがない街ともいえるでしょう。正確にいうなら、トレンドがないんじゃなくて、30人くらいの小さいトレンドがいっぱいある街。日本には、たまにぽつんぽつんとお皿が数枚だけ置いてあるような、小さなお店がありますよね。ビジネスよりもコミュニケーションを大事にしている、これはパリとかニューヨークではありえません。

 海外では今、コミュニケーションのメインは、フェイスブックとかツイッターといったデジタルメディアに移っています。一方、日本はもちろんデジタルの世界もあるけれど、意外とお店のようなリアルなアクション、コミュニケーションを大事にしている。ネクストフェイスブック、ネクストツイッターを考えてみると、結局は人間同士のコミュニケーションに行き着きます。今のSNSよりもっとパーソナルな1to1のコミュニケーション、趣味とか好きなものでつながる、ちょうど昔の手紙のような感じ。

 さっき言ったような小さなお店をつくるのもそう。日本では、もうデジタルエイジは終わって、すでにポストデジタルのコミュニケーションになっている。かつての携帯電話の歴史を見てみてもわかるように、日本は、海外の国よりも5~10年くらい先にいると思います。