50 齋藤精一(クリエイティブディレクター)

齋藤精一(クリエイティブディレクター)

記念すべき50回目となるクリエイターインタビューは、auのスマホを使った参加型イベント「FULL CONTROL TOKYO」をはじめインタラクティブな作品を生み出し続ける、ライゾマティクス代表の齋藤精一さん。4月に行われる「六本木アートナイト2015」ではメディアアートディレクターも務める齋藤さんの話は、いつしかアートナイトを飛び越え2020年のオリンピックへ。まずは個人的に今、六本木でやってみたいプロジェクトから、どうぞ。

update_2015.1.7 / text_kentaro inoue

キャンティで起こった"断片"をつなぎ合わせたい。

キャンティ

キャンティ
1960年、川添浩史・梶子夫妻が飯倉片町にオープンした伝説のイタリアンレストラン。開店以来、作家や俳優、音楽家、デザイナーなど、数多くの文化人が交流。その様子は『キャンティ物語』(幻冬舎文庫)にも描かれている。

 いろんな人に話しているんですけど、かの有名なイタリアンレストラン「キャンティ」がつくってきたデザインやアート、文化というものを、いつかもう一度まとめられたらいいなと思っています。もしかしたらこれ、今やりたいプロジェクトナンバーワンかもしれないですね。

 もちろんすでに本が出版されているのも知っているし、この間NHKでやっていた元オーナー夫人、(川添)梶子さんの番組も観ましたが、やっぱり"断片"なんです。さまざまな分野の諸先輩からもよく当時の武勇伝を聞くんですが、その印象ともちょっと違う。僕が知っている限りでも、関わっている人はとにかく膨大にいるし、ここでは言えないような深い話もたくさんあるはず。

 キャンティに集まっていた諸先輩方の中には、世代的にもう現役を引退されていたり、亡くなられてしまった方もいるので、撮るなら今しかない。あの場所で何が語られ、そして何が起きたのか。それらをつなぎ合わせて、フィルムとか文字でちゃんとドキュメント化しておきたいんです。

小さかった文化のタネを育ててくれる街。

 この街では学生時代から遊んでいましたが、六本木ヒルズができて、東京ミッドタウンができて、いい意味でも悪い意味でも、だいぶ変わりましたよね。もともと僕も美術作家として活動していたので、その目線でいえば、国立新美術館ができて、六本木アートナイトがはじまって、街ぐるみでアートが表現できる場所になったという印象。反対になくなってしまったものも、たくさんあるでしょう。

 今って、「どこに遊びに行きますか?」って聞かれたときにみんなが一斉に答えるような場所、あそこに行けば必ず誰かがいるっていう場所がないじゃないですか。かつてのキャンティのように、今日はこの格好で、このマインドだから行っても負けない! みたいな特別な場所が。

 キャンティをはじめ、六本木はいろいろな文化が生まれ続けてきた街。いや、文化が生まれてくるというよりは、小さかった文化のタネを大きく育ててくれるインキュベーター的な存在といったほうがいいかもしれません。

今年のアートナイトを、東京オリンピックの第一練習に。

 正直なところ今まで、僕の中で六本木は好きでも嫌いでもなくて、何か理由がないと来ない街でした。でも、六本木アートナイトに関わりはじめて、面白いところがたくさんあるというのにも気づいて。最近では、ひとりで街を歩き回っては、「あ、ここにこんな駐車場があるんだ!」とか「東京ミッドタウンの裏の庭をもっと遅くまで開けてくれないかな」とか、「六本木交差点を交通規制をするのは無理だろうけど、一瞬だけでも止められないかな」「街じゅうにあるたくさんのビジョンを連動させて何かできないかな」なんて妄想しています。

 僕は六本木アートナイトが、街と連動した、みんなが参加できるようなイベントになるといいなと考えています。なぜ、こんな誰もが掲げるであろう当たり前のことをあえて言っているかというと、それは、2020年の東京オリンピックを意識しているから。今年のアートナイトは、その練習の第1回目。アートナイト実行委員会はもちろん東京都も、オリンピックに向けて、ここ東京でどういうことができるのかを考えながら動いていると信じています。こうやったら人って参加してくれるんだ、あるいは自分自身を含め、人がつながっていく方法を実施レベルで実証実験していきたいと思っているんです。

 自分がこんなことがやってみたいという理想論とか、海外の◯◯みたいなイベントをするべきだとかいう大義名分なんかはもうどうでもよくて、現実的にここで何ができるか。道路交通法や景観条例といった制約もあるし、それぞれの施設が持っている想いもあるでしょう。僕の役割は、とにかくみんなを巻き込んで、このイベントを六本木の"全員ごと"にしていくこと。本当の意味で、人と人がつながる場所をつくらないといけないと、今、強く感じています。