48 谷川じゅんじ(スペースコンポーザー)

谷川じゅんじ(スペースコンポーザー)

空間をメディアにしたメッセージの伝達をテーマに、イベント、展覧会、インスタレーションなど幅広く手がける、谷川じゅんじさん。今回のメイン写真の撮影は、ご本人が空間プロデュースを担当した「IMA CONCEPT STORE」で。他にも「GOOD DESIGN EXHIBITION」や「MEDIA AMBITION TOKYO」など、六本木で数々のプロジェクトを手がける谷川さんが、今やってみたいこととは?

update_2014.11.19 / photo_hiroshi kiyonaga / text_kentaro inoue

六本木ビレッジの会話は「狭いね~」で終わる。

IMA CONCEPT STORE

IMA CONCEPT STORE
2014年3月、AXISビル3Fにオープン。ブックストア、ギャラリー、カフェを併設し、さまざまな写真の楽しみ方を提案する複合スペース。空間プロデュースは谷川氏(JTQ)、設計は名和晃平氏が主宰するSANDWICHが手がけた。
photo: Kozo Takayama

 僕が学生でこの街に遊びにきていた頃、六本木にはまだデザインとかアートっていう文脈はなくて、大人の夜遊び街のイメージ。それから時が流れ、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館ができて、街に「顔」が増えました。夜の顔しかなかった六本木に昼の顔ができた。それが、今の東京っぽい空気を生み出す街が誕生した、転機のような気がします。何か面白いこと、アクシデントではなく「ハプニング」に出会える領域が、より広くなったという印象ですね。

 街の中に、いろんなキャラクターを持った新しい集落ができたというイメージがあります。それは、村(ビレッジ)といってもいいかもしれません。ヒルズという村、ミッドタウンという村、新美を中心とした村......。空間的ものではなくて、そこのカルチャーとか匂いに共感した人たちが集まってくる、精神的な意味でのコミュニティみたいなもの。初めて出会った同士なのに、共通の話題が見つかって「狭いね~」の決まり文句で終わる。これこそが村人の証。みなさんもそんな会話、きっと心当たりがあると思うんです。

 そもそも東京という街は、江戸時代以降、一定の周期でスクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきました。それがDNAレベルの記憶に残っているのかもしれませんが、僕らも街の風景が変わっていくことに対する違和感はほとんどありません。その証拠に、新しいビルができると、以前そこに何があったかなんて全然覚えていなかったりする。

 中でも、ここ六本木というエリアは、スクラップ・アンド・ビルドが頻繁に起きています。たとえるなら、さまざまな音楽を重ね合わせ、まったく新しい表現に進化させたサンプリングミュージックみたいな街。重ねて重ねて掛け合わせてできあがった、東京でももっともミックスカルチャーの濃度が高いエリアだと思います。

デザインとは、わざわざ見に行くものではなく、自然に存在しているもの。

GOOD DESIGN EXHIBISION

GOOD DESIGN EXHIBISION
その年、グッドデザイン賞に選ばれた作品が一堂に会する展覧会。2007年より、谷川氏が会場アートディレクションを担当。2013年からは東京ミッドタウン内の数ヵ所を会場に行われ、2014年は受賞作品約1300点が展示された。
©Forward Stroke inc.

 とくにデザインとアートの領域では、強い発信性を持った街ですよね。たとえば、僕が8年ほどお手伝いをしている「GOOD DESIGN EXHIBISION」は、2013年に東京ビッグサイトからミッドタウンに場所を移しました。もちろんハード面からすれば、ビッグサイトのほうが場所も広いし、モノも持っていきやすい。でも、デザインって、わざわざ見に行くものではなくて、日常生活の中に自然に存在しているもの。それに気づいてもらうには、目的性を持っていない普通の人たちに見てもらえる場所へ出張っていくのが自然なんじゃないかと考えたんです。

 グッドデザイン賞は、日本でもっとも長く続いているデザインアワードですから、この先もずっと続いていくべきだし、発展していってほしい。だからこそ、フォーマットや型を持つことは大切です。毎年毎年、時期や場所を変える方法もありますが、それでは興味のない人は忘れてしまう。イベントという体験的なものも、地面という絶対に変わらない価値に根付くことで、より質は上がるし、コミュニケーションも広がっていくと僕は考えています。変わらずずっと続いている記憶の継承、そう神社のお祭りみたいな感覚です。

普遍的なものと革新的なものが混在しているのが日本。

 日本は継承していく文化を大切にしていますが、必ずしも古いものを守り続けるだけではありません。更新していくことで形に留まらない、無形の価値を継承させていくような側面もあります。たとえば、式年遷宮を迎えた伊勢神宮。20年に一度遷宮し、神様の周辺すべてを新調する、これもひとつのフォーマットであり型です。けっして古いから新しくするという物質的な視点だけでなく、記憶を継承する精神的な視点ももって、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返す。普遍的なものと革新的なものがあらゆる場面で混在し共存していけるのが、日本の面白さでありすごさでしょう。

 これってまさに、「和」の考え方につながるものだと僕は考えています。「和」という言葉は、辞書によれば「主体を堅持しながら、他者を受け入れること」という意味。たしかに日本人って、いろんなものを取り込みながら、自分たちのスタイルに昇華していきますよね。単に花を飾るという行為も日本的な精神が加わると華道になるし、お茶を飲むという行為は茶道になるわけです。他の国では日常のワンシーンでしかないものが、芸術的価値を持ったものに変わっていく。おもてなしや、しきたりといった感覚も、この延長線上にあると感じます。

 この街に話を戻せば、六本木アートナイトだって、夜遊びの街にアートをプラグインするという視点で見れば「和」ですよね。アートフリークの若い子たちが、ネオン街をキャッキャ言いながら歩いている。これって東京以外の街では、安全面を考えるとかなり難しくて、海外の人からしたら「日本はそこまできたか!」と驚くはず。そんな画期的な試みですが、今では完全に定着しました。