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石井幹子(照明デザイナー)

今ではすっかり定着した東京タワーのライトアップをはじめ、六本木ヒルズ森タワー、東京ゲートブリッジなどなど。日本の"ライトアップ文化"を切り拓いてきた、照明デザイナー・石井幹子さんは、写真の高架下照明をデザインするなど、六本木にはとても縁の深い方。1970年代の思い出話から、六本木で実現してみたいアイデアまで、たっぷりうかがいました。

update_2014.4.2 / photo_hiroshi kiyonaga / text_kentaro inoue

不便なのに、えらく居心地のいい場所。

 1970年代、私が初めて事務所を構えたのは、六本木の旧テレ朝通りでした。新橋とか銀座あたりに事務所が持てなかったから六本木を選んだ、とそういう時代。地下鉄もまだ日比谷線一本しか通っていなくて不便だったのに、どういうわけかクリエイターたちにはえらく居心地のいい場所だったんです。

 旧テレ朝通り沿いには、通称「麻布ユアーズ」という、明け方5時まで空いている雑貨屋さんがあって、カメラマンやデザイナーが夜中によく買い物に来ていたり、銀座あたりで飲んでいた人がさらに六本木に移動して飲んでいたり。当時から明け方近くまでやっているお店が多くて、みんなでわいわいたむろしていました。

 私の事務所の地下には、倉俣史朗さんがデザインした「スピークロウ」というお店があって、篠山紀信さんをはじめ、いろいろな人が来ていましたね。他にも、黒川紀章さんや横尾忠則さんとはよく、有名なイタリアンレストラン、キャンティで打ち合わせをしたり。だいたいはじまるのが夜10時くらいで、それから明け方までみたいな(笑)。『キャンティ物語』(野地秩嘉/幻冬舎)なんて単行本も出ていますけれど、本当に懐かしく読みました。

1970年代、六本木は「田舎」だった。

港七福神

港七福神
テレビ朝日通り沿いにある櫻田神社(写真)など、七福神と宝船がまつられた港区内の寺社8ヶ所の総称。正月には開運招福・家内安全を願って、約3時間をかけて各寺社を回り御朱印を集める「港七福神巡り」が行われる。

 大使館が多く、外国人の方もけっこういて、当時から国際的な雰囲気はありました。けれど、一本裏に入ればごく普通の住宅地。雑多なものがたくさんあって、非常に親しみやすい、ある意味「田舎」だったんだと思います。旧テレ朝通りなんて、江戸時代の地図を見ても、今と道路の形がまったく同じ。かつて旗本のお屋敷があった道沿いには、植木屋さんなんかもあって、牧歌的な雰囲気が漂っていました。

 それが六本木ヒルズができて、東京ミッドタウンができて、ずいぶん様変わりしてしまいました。といっても、新しいものばかりではなく、「港七福神」だとか古いものもそこそこ残っていますし、とてもいい街になってきたと思います。残念ながら今は変わってしまいましたが、いい地名もいっぱいあったんですよ。西麻布の交差点のあたりは「霞町」とか、"かんざし"と書く「笄町(こうがいちょう)」とか。

 多くのクリエイターが六本木に事務所を構えていることからもわかるとおり、私たちのような職業にとって、このあたりはたいへん住みよいところ。事務所はずいぶん前に移転してしまいましたが、今も住まいは西麻布、六本木は土日には普段着で歩いているご近所さんなんです。意外と知り合いに出会うので、困ったなあと思っているのですが(笑)。

ここが六本木の交差点だ、とわかるような照明に。

六本木のロゴ

六本木のロゴ
サントリーウーロン茶などの広告制作で知られるアートディレクター、葛西薫氏が並木道をイメージして制作。2009年の六本木交差点リニューアルに合わせ、石井氏デザインのLED照明とともに高架高速道路に設置された。

六本木通り沿いの街灯

六本木通り沿いの街灯
東京都の「六本木シンボルロード整備計画」のひとつで、現在アークヒルズから六本木6丁目にかけて設置されている。灯具のアームにダイヤモンドのような5つの白い光をあしらい、誰もが親しめる格調高いデザインに。

 六本木交差点の高架下照明をデザインしたのは、地元商店街の方々からのお誘いがきっかけでした。デザインとアートの街づくりをしていこうということで、まずアートディレクターの葛西薫さんが六本木の新しいロゴをデザインされて、それに合わせて交差点をアート的なものでアレンジしてはどうか、というお話をいただいたんです。

 それなら、当時まだ出はじめだったLEDを使って、「ここが六本木の交差点だとわかるような照明にしましょう」と提案しました。歩いている人たちは一目瞭然ですが、車で通過する人って、今どこを走っているかわかりにくいでしょう? パッと見て、ああ六本木だなという目印になって、なおかつ不快な眩しさもない。少しでも、この交差点が美しくなればと思ってデザインしました。

 幸い評判もとてもよく、その後、六本木通り沿いの街灯のデザインもさせていただきました。ご覧になればわかるとおり、交差点の照明と街灯のデザインをファミリーにしたんですね。別の案もあったのですが、商店街のみなさんがこちらを熱烈に推してくださって。