29 原 研哉 (グラフィックデザイナー)

原 研哉 (グラフィックデザイナー)

日本を代表するグラフィックデザイナーのひとりであり、今年で6年目を迎える「Tokyo Midtown Award」の審査員も務めている原研哉さん。インタビューの席に着くなり「やっぱり都市は大事ですよ」と話し始め、「僕がいま、興味を持っていることと六本木を掛け合わせるだけでも、デザインとアートの街になると思うんです」と一気に語ってくれたアイディアは、なんと5つ! 植物、家、風呂、ホテル、病院。それぞれのテーマで見ていく六本木の未来とは。

update_2013.5.15 / photo_taro hirano / text_tami okano / edit_rhino

植物×六本木。草木が繁茂する巨大ガラスハウス。

 たとえば、東京ミッドタウンの中に入ると、立派なヘチマがたわわに実っていたりすると感心すると思うのです。花が咲いているとかグリーンが飾られているとか、そういうイメージではなくて、「植物が繁茂している」空間をどうやって都市の中につくるか。僕は、人工的な技術が進化すればするほど、自然との境界はむしろなくなっていくと思うんです。それは、垂直緑化や屋上緑化といった建物の外側の話しだけではなく、ガラスハウスのようなインドアの世界に可能性があると思うんですね。

 ガラスハウスの技術が進んでいるのはオランダです。日本はもともと国土のほとんどが森ということもあり圧倒的な自然崇拝があるけれど、オランダは国土の3分の1以上が干拓で、森や植物すらも自分たちでつくってきた。つまり、多くの自然がアーティフィシャルなんですね。オランダにはガラスハウスを使った農業のみならず現代建築や施設もあって、日本の都市でも上手く取り入れられないかと以前から思っていたんです。だから、もし僕が高層ビルを建てるんだったら、裾野の部分は巨大なガラスハウスにしてみたい。どうせ空調をするんだから、植物が繁茂するような環境に整え、その巨大なガラスハウスの中にオフィスやレストランをつくりたい。温室のように暑くしたり湿度を高くするということではなく、ある種の植物の生育にも人間にもちょうどいい、という環境はあるだろうし、そういう場所で働いたりご飯を食べたりするのって、気持ちいいと思うんです。

家×六本木。都市に暮らす家を自分でつくる。

 今年の3月に、これからの都市の暮らしを提案する「HOUSE VISION」という展覧会を行いました。家って、いろんな産業の交差点なんですね。エネルギーの問題、移動体や通信の問題、複合化していく家電といった「これからの産業」の問題はすべて家と関係してきます。そしていま、家と住まい手との関係が大きく変わろうとしている。リノベーションということもあるし、もっと主体性をもって家と付き合う時代になっていくと思うんです。

 今まで日本の人たちは、家をつくるリテラシーが低かった。でも「自分のライフスタイルに合った空間を自分でつくれるようになる」ということが、日々、楽しく生きていくための基盤ですよね。「どんな家に住んでいるのか」は「どんな家を買ったのか」ではなく、「あなたはどんな家をつくったのか」という問いであって、ただリッチであればいいということではないんです。都市に住むということは、都市機能を利用して暮らすことであり、本屋が書斎、レストランがダイニング、喫茶店が応接室にもなる。だから、家は狭くていい、と考えることもできる。小さな寝室とリビングを別々の場所に持つのもいいかもしれない。「家×六本木」として、まずは六本木にある「狭くて古い空間」をどう直し、どう住み込んでいくかを本気で考えるだけでも、相当面白くなると思いますよ。

風呂×六本木。現代建築の粋を裸の身体で楽しむ。

テルメ・ヴァルス
世界最高峰と称されるスイスのスパ温泉施設。スイスの中央部、人口わずか1000人あまりの小さな谷奥の村ヴァルスに、建築家ピーター・ズントーによって建設された。地元で採掘された石を建材に使用するなど、スイスの自然風景との融合を実現した建築は、1996年の竣工以来、世界中から多くの人々を集め、魅了している。

 僕は温泉も好きだし、風呂も大好きなのですが、今の風呂って、微妙な抵抗感があるでしょう。温泉ランドとかスーパー銭湯とか(笑)。なぜそこに、よく考え抜かれたデザインとアートが入らないのか。

 ピーター・ズントーというスイスの建築家が好きで、彼がアルプスの山の中につくった温泉施設「テルメ・ヴァルス」がとても好きです。あまりに良くて夏と冬に2度行ったんですけど、自然の地形の中にドーンと建築が嵌入していて、半分半地下、半分は屋外プールのようになっている。狭い空間と広い空間が迷路のようにつながっていて、風呂というものが瞑想する場所であり、生命が更新していく場所でもあるということがよく研究されている。

 もし、日本の現代建築の最先端を水や湯を介して裸の身体で楽しめるような場所があったら、絶対にみんな行くでしょう。それを、六本木にこそ、つくるべきです。都市性の極みのような温泉施設が六本木にあったら、休日は絶対、そこに行きます。いい本屋といいカフェが併設されていたりすると最高ですね。それはもう、温泉ではなく、浴場と言うべきでしょう。もし、つくる人がいたら、絶対僕に声かけてください!