09 トラフ建築設計事務所 (建築家)

TORAFU ARCHITECTS

住宅や店舗の内装設計に留まらず、プロダクトデザインや舞台美術の設計への参加など、多岐に渡る分野で「建築的な思考」をベースに活躍するトラフ建築設計事務所の鈴野浩一さん(左)と禿真哉さん(右)。繊細で真面目な印象を受けるこのふたりの中には、その印象を心地よく裏切る大胆かつ柔軟な発想と、ユニークなアイディア、そして本質を切り取る鋭い視点が内在しています。街づくりの専門家でもある建築家のふたりは、六本木にどんな一手を打つのか。まずはその思考の秘密を探るべく、2011年「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」での作品「ガリバーテーブル」の話題から。

update_2012.8.15 / photo_taro hirano / text_tami okano / edit_rhino

もとの地形を思い起こさせる仕組み。

Tokyo Midtown DESIGN TOUCH

Tokyo Midtown DESIGN TOUCH
"デザインを五感で楽しむ"をコンセプトに2007年から開催されているデザインイベント。東京ミッドタウン内のいたる場所を使って展示される作品の数々は、子供からお年寄りまで年齢を問わず楽しむことができます。詳しくはこちらから

ガリバーテーブル

ガリバーテーブル
『Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2011』にて、東京ミッドタウンの芝生広場に展示された作品。巨大なピクニックテーブルのように水平に横たわった木造の構造物は、地面の傾斜を利用することで、一端ではテーブルとして、もう一端では屋根としてその用途を変える。イベント開催中は、子供達のワークショップなども行われた。

鈴野昨年秋に開催された「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH」で、僕らは東京ミッドタウン(以下「ミッドタウン」)の芝生広場に「ガリバーテーブル」という長さ50メートルの巨大なテーブルをつくりました。断面で書くと真っ直ぐの線なんですけど、敷地が傾斜しているので、テーブルの足の長さは1本1本すべて異なり、あるところでは天板が床に、あるところでは屋根にもなるというちょっと変わった構造体です。

 こんなに高密度な都市の中に、芝生広場という、あまり目的を持たない場所がポツンとある。その「余白」のような在り方がとても魅力的だと思ったので、いろんな人が広場にもっと積極的に関わる「ちょっとしたきっかけ」を与えたいと思ったんです。

禿お弁当買って外に出て食べようとか、土日は皆でワイン飲んじゃおうとか巨大なテーブルがあるだけで、芝生広場で過ごす気になるし、腰掛けて休んでいるおじいさんがいたり、小さい子供がテーブルを遊具のようにして遊んでいたり。決まりごとに縛られず、思い思いの過ごし方ができる場所って実はとても貴重で、いろんな人があまり目的を持たずに「街とつながれる場所」がもっとあるといいと思うんです。

 そしてこの「ガリバーテーブル」、実は別の場所で展開しても面白いかもしれない、と思っているんですけど、斜面の芝生広場に水平のテーブルを置いたことで、敷地の高低差がはっきりと分かる、「地形に気づかせる装置」にもなった。役割としては、ほとんど定規みたいなものですね。一定のルールや規則をもったものを持ち込むことで、対象となるものの特徴に気づく。六本木って土地の起伏が多い街で、「ガリバーテーブル」のような構造体を街の公道でポンとやれたら、普段は意識していないこの街の姿が現れて面白いんじゃないかな。

鈴野何かに気づかせる計測器みたいな存在が面白いよね。とても少ない操作で新たな視点を与えられるもの、もともとあるものを引き立たせることができるもの。六本木にはいろんな建物が建っていますが、もとはどんな地形だったのか、思い起こさせるような仕組みがあってもいいかもしれません。

小さな装置が人と街の関わり方を変える。

禿今年5月に『トラフの小さな都市計画』という絵本を出しました。そこで僕たちが考えたのも、わりと小さな手続きで、何かと何かの関係を更新するような仕掛けを街に点在させていくことでした。「ガリバーテーブル」はテーブルとしては大きいですけど、でも、街区や道路の計画といった大きな都市計画に比べれば、街に対して本当に小さな、「些細な一手」だと思うんです。小さな装置をそっと置く、ぐらいな、小さな都市計画。でもそれが、人と街との関わり方を大きく変えていく。

鈴野神保町にある南洋堂という建築専門書店の外壁に、棚をつくりました。既存の建物の溝に着脱可能な板を挟み、そこに本を立てかけたんです。そうしたら、道行く人にとって「誰かが所有している建物の閉鎖的な壁」でしかなかったものが、「みんなの壁」みたいに共有化され、街路全体がライブラリーのようになった。

 ベランダやテラスの手すりにひっかけるだけの「スカイデッキ」も、もともとあるものを使いながら「わりと小さな手続きで、何かと何かの関係を更新する」仕掛けのひとつです。テーブルを置くスペースもないような日本の狭いテラスでも、「スカイデッキ」を手すりにはめるだけで、場所も使い方も外に向かって拡張していく。

 街って、自分との接点が多い方が楽しい。目的地から目的地へ、ただ通り過ぎるだけではなく、立ち止まって本を手にとったり、ちょっと街にハミ出したような場所でお茶を飲んだり、街との間に接点があることで、都市としての面白さが滲み出てくるような仕掛けがもっとあるといいですよね。