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INTERVIEW
176
アルフレド・ジャーアーティスト Alfredo Jaar / Artist
Alfredo Jaar / Artist

『都市計画の最初の一歩から、アーティストを招き入れる』【後編】

都市が創造的で想像力に満ちた場所になるために。

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update_2026.03.13 photo_yoshikuni nakagawa / text & edit_rumiko inoue

国際的に著名なアーティストであり、深い洞察力と思索的な作品で知られるアルフレド・ジャーさんは、現在東京で2つの大規模な展覧会を開催中です。1つ目は東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている 「アルフレド・ジャー あなたと私、そして世界のすべての人たち」、もう1つはSCAI PIRAMIDEで開催されている 「アルフレド・ジャー 和田礼治郎」 です。どちらの展覧会も、ジャーさんが持つ独自の視点や詩的なアプローチを通じて、世界の社会問題や地政学的なテーマに深く切り込む作品を展示し、観る者に自身の視点や世界の捉え方についてあらためて考えさせてくれる内容となっています。 そんなアルフレド・ジャーさんに、彼の創作哲学、社会・地政学的問題へのアプローチ、そして東京で開催中の2つの展覧会に込められたインスピレーションについてお話を伺いました。

前編はこちら

アートを最初から都市計画に組み込むことで生まれる創造性。

 今の都市空間には想像力が、そこにある建築物には創造性が欠けています。あくまで私見ですが、これまで何度も目の当たりにしてきた現実です。多くの場合、デペロッパーや建築家はプロジェクトをほぼ完成させたタイミングで、最後の最後にアートのことを考え始めます。あいているスペース、小さなコーナー、ガーデンスペースを見て、「何かが必要だな。アーティストを呼んで飾り付けてもらおう」と考えるのです。しかし、その時点ではもう遅すぎるのです。

 巨大なプロジェクトは、用途、スケール、色彩、光、プロポーション、そして設計上の実用的な要素まで、細部まで考え抜かれて完成します。しかし、最後の最後にアートを「付け足し」のように端っこに配置するーー そんなやり方は間違っています。

 だからこそ、私はこうしたプロジェクトには参加しません。都市が本当に創造的で想像力に満ちた場所になるためには、アーティストが最初の段階から関与する必要があると考えるからです。例えば、ある開発者や建築グループが私にこう話しかけてきたとします。「土地があって、予算もあります。10棟の住宅ビルと20の商業スペース、そして公園を作る計画です」。私は、その瞬間から議論に参加したいのです。それは、すべてのアパートやすべての店舗、あるいはすべての植栽にアートを配置するという意味ではありません。そういうことではないのです。

 「対話」をしながら、空間設計やビジョンを打ち出すチームの一員となることが大切なのです。このプロセスを踏んではじめて、都市デザインのDNAに創造性を注入することができるのです。

 私の願いは、都市が想像力を刺激する場所になることです。空間が創造性を育み、人々に新しい考え方を促すような都市です。それは単に実用性や装飾デザインの問題ではなく、人生そのものと深くつながる環境をつくることなのです。こうした都市、つまり最初からアートと創造的な思考が注がれた都市こそが、私が夢見る場所なのです。

アートで世界は変わらないけれど、「世界は違う未来に向かうことができる」と示すことはできる。

 アートの定義は無数にありますが、「アートとは、与えられた現実の秩序を変えようとする試みである」というナイジェリアの偉大な作家チヌア・アチェベの言葉に深く共感しています。この言葉は、私がアートに惹かれる本質を見事に言い表しています。それは、生きている現実世界に立ち向かい、その枠組みを再構築するという考え方です。しかし、世界を変えることがいかに難しいかを思い知らされる場面も少なくありません。それでも、その挑戦こそが私の創作意欲を駆り立てる原動力となっています。

 これまでの経験の中で、「アートで世界は変わらない」という厳しい現実を受け入れざるを得ませんでした。しかし、アートには非常に強い力があって「世界が今とは違う未来へ向かえる」可能性を私たちに示してくれるのです。アートを通じて、新しい可能性に気づき、異なる物の見方や生き方を垣間見ることができる。だからこそ、アートはかけがえのない存在なのです。

 政府やメディア、インターネットなど、あらゆるものが管理され、検閲され、監視される現代社会において、ギャラリーや美術館、大学といったアートや文化を育むための空間は、最後の自由の場だと私は考えています。ここではまだ、自由に問いを立て、想像し、表現することが許されています。

 こうした自由の場は、私たちに可能性を思い出させてくれる大切な場所です。しかし同時に、非常に脆い存在でもあります。たとえ現実を完全に変えることができなくても、挑み続けることで新しい視点やアイデアを生み出す瞬間を作ることはできるのです。これこそがアートの役割であり、私がアートに人生を捧げる理由です。

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社会にとって最も重要な資本は文化である。

 私は、文化は社会における最も重要な資本だと考えています。この思いをそのまま形にした作品も制作しました。それが《Culture = Capital》(文化=資本)というタイトルのネオンサインの作品です。この作品は、私の文化についての考えを力強く、そして極めてシンプルに訴えかけています。

 設置される空間やサイズにあわせてカスタマイズが可能で、たとえば、企業からこの作品を本社のエントランスホールに設置したいという依頼があった場合、私はまずその空間を訪れ、寸法を確認して適切なスケールを提案します。10メートル幅で、文字の高さを1メートルにする、といった具合です。この作品はすでに多くの場所に設置されていますが、必ずしもすべての企業や機関がこのメッセージに共感するわけではありません。しかし、共感した人々にとって、この作品は文化の重要性を信じる力強いステートメントとなるのです。

Culture = Capital

Culture = Capital

To Alfredo, we kindly request the image of the artwork (along with credits, if any).

 この作品は、「文化とは単にエンタメや余暇を楽しむも以上のもの。社会の知的・創造的な営みを支える基盤である」という私の信念を反映しています。《Culture = Capital》というステートメントは、文化がどれほど深く私たちの世界を形づくっているかについて考えさせる力強い表現です。これまでに英語、スペイン語、イタリア語、中国語、ドイツ語で制作してきましたが、まだ日本語版は制作されていません。それぞれの言語版は、新しい文化的文脈にこの考えを持ち込む機会を提供し、文化がいかに普遍的に重要であるかを強調しています。

 六本木未来会議のような活動を目にするたび、文化の重要性を世界中で広めることの大切さをあらためて感じます。アーティストや建築家、ものづくりに関わる人など、様々な人々を結びつける、こうした重要なアイデアを高めるための対話を育む取り組みには、非常に心を動かされます。結局のところ、文化こそが私たちを人間たらしめるものであり、想像力をかき立て、イノベーションを生み出し、社会を前進させる原動力なのです。

撮影場所:『アルフレド・ジャー 和田礼治郎」(会場:SCAI PIRAMIDE 会期:2026年1月21日~ 4月18日 )

取材を終えて......
「建築を手掛けるように作品をつくっている」と語り始めたジャーさん。「建築家が設計を始める前に、建てようとしている建物や土地にまつわるすべての文脈を理解するのと同じように、私もアート作品を制作する際には、自分の周囲で起きているあらゆる政治的、文化的な出来事や特定の瞬間がきっかけとなっているのです。自分の内側から湧き出る想像力だけで制作したことは、一度もありません。」
アーティストは、時代の声をいち早く感じ取り、それを私たちに届けてくれる存在です。今回のインタビューは、未来からジャーさんが送ってくれた手紙のような、特別で心に残る時間となりました。その言葉を胸に、開催中の展覧会へもう一度足を運んでみたくなりました。

前編はこちら

アルフレド・ジャー

アルフレド・ジャー / アーティスト
アルフレド・ジャー / アーティスト

アルフレド・ジャーは、リスボンを拠点とする作家であり、写真家、建築家、映像作家である。作品は世界各地で展示され、ヴェネチア・ビエンナーレ(1986、2007、2009、2013)、サンパウロ・ビエンナーレ(1987、1989、2010、2021)、ドクメンタ(1987、2002)に出品されている。

主な個展は、ニュー・ミュージアム(ニューヨーク、1992)、ホワイトチャペル(ロンドン、1992)、ストックホルム近代美術館(1994)、シカゴ現代美術館(1995)、ローマ現代美術館(2005)などで開催されている。その他、ローザンヌ美術館(2007)、ピレリ・ハンガー・ビコッカ(ミラノ、2008)、アルテ・ナショナル・ギャラリー、ベルリニッシェ・ギャラリー、ノイエ・ゲゼルシャフト・フュア・ビルデンデ・クンスト(いずれもベルリン、2012)、アルル国際写真フェスティバル(2013)、ヘルシンキ現代美術館(2014)、ヨークシャー彫刻公園(2017)、ツァイツ・アフリカ現代美術館(ケープタウン、2020)、セスキ・ポンペイア(サンパウロ、2021)、キンドル(ベルリン、2024)で展覧会が行われた。

日本においては、2018年のヒロシマ賞受賞にともない、2023年に広島市現代美術館で個展が開催された。

世界各地で70以上の都市介入型プロジェクトを実施し、80冊を超える書籍が出版されている。

これまでにグッゲンハイム・フェロー(1985)、マッカーサー・フェロー(2000)、ヒロシマ賞(2018)、ハッセルブラッド賞(2020)、アルベール・カミュ地中海賞(2024)、エドワード・マクドウェル・メダル、ピクテ賞(ともに2025)を受賞している。 作品の収蔵先は、ニューヨーク近代美術館、グッゲンハイム美術館(ニューヨーク)、アート・インスティテュート・オブ・シカゴ、シカゴ現代美術館、ロサンゼルス現代美術館、ロサンゼルス・カウンティ美術館、サンパウロ美術館、テート美術館(ロンドン)、ポンピドゥ・センター(パリ)、ナショナル・ギャラリー(ベルリン)、アムステルダム市立美術館、ソフィア王妃芸術センター(マドリード)、ストックホルム近代美術館、国立21世紀美術館(ローマ)、ローマ現代美術館、ルイジアナ近代美術館(フムレベック)、広島市現代美術館、徳島県立近代美術館、M+(香港)など美術館、個人蔵ともに多数。

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