
ドレス、彫刻、インスタレーション。まだ試していない表現の先に進みたい。
絵を描くのが大好きで、鉛筆と画用紙さえあれば機嫌がいい子どもでした。そして、高校生のころに興味を持ったのがファッションデザイン。広島市内の高校に通っていたのですが、学校帰りに友だちと古着店に寄るのが楽しみのひとつだったんです。
古着を通して出会ったのが、コム・デ・ギャルソンやアレキサンダー・マックイーンの服。当時の僕は、それらをアートとして捉えていました。ファッションに触れるほどに、それが"芸術"を表現するためのひとつの手段であると実感し、やがて「僕もこれをやりたい」と漠然と思うようになりました。そうして、独学で服づくりを始めたんです。
今思えば、創作の根っこは高校生時代から変わっていない気がします。服をつくることのほかに、受験生のころは粘土をこねることが楽しかった。当時僕が目指していた東京藝術大学デザイン科の入試には、立体という試験科目がありました。例えば「風」のような漠然としたキーワードがポンと与えられ、それを想起させる造形を粘土でつくるんです。設計図を描かずに、手の中で実験を繰り返しながら面白い形を見つけていく。いま制作しているドレスや彫刻も、素材が変わっただけで、その感覚の延長線上にあります。
大学への進学を考えたとき、ファッションにおいてもビジュアルデザインを重視していたので、東京藝術大学のデザイン科を選びました。服づくりは、ビジュアルデザインを2Dではなく3Dでやっているようなもの。服の造形を組み立てる思考プロセスは、ビジュアルデザインそのものだと思っています。
この科を選んだもうひとつの理由は、彫刻もプロダクトもグラフィックも網羅的に学べる環境だったから。ファッション表現の可能性を広げられる土壌があったんです。そして大学院にも進み、グラフィックデザインを専攻しました。
大学院では松下計先生のビジュアルコミュニケーション研究室に所属し、コラージュを通じて、色面や明度のバランスをひたすら実験する日々でした。写真をたくさん撮って印刷し、それをどう立体的に重ねるか探究する。そこで培った感覚は、今の服づくりにも活きています。また、クマ財団の奨学生に応募して採用されたことで、それまでアルバイトに充てていた時間をすべて制作に回せるようになりました。大学院の2年間は濃密な学びの期間でしたね。
クマ財団
若手クリエイターの才能を育むため、25歳以下の学生を対象とした給付型の「クリエイター奨学金」を実施している公益財団法人。馬場功淳氏(株式会社コロプラ代表取締役会長)が2016年に創設した。絵画や建築、音楽、工芸、ファッション、小説、戯曲、映画、メディアアートなど、支援対象のジャンルは幅広い。2022年から2025年まで六本木に「クマ財団ギャラリー」を開設。奨学生たちの発表の場であると同時に、多様な交流が生まれる拠点となった。
画像:六本木・クマ財団ギャラリー 岡﨑龍之祐「002 -lifelike-」展
(ギャラリーはすでにクローズしています)
僕は広島の宮島口出身です。広島では日常に平和教育が溶け込んでいて、幼稚園の頃から被爆された方の話を聞いたり紙芝居を見たりして育ち、毎年の平和関連行事に学校で参加していました。でも東京に来てから、それが普通ではないことに気付いたんです。広島の持つ歴史に、あらためて目を向けるようになりました。
これまで僕が発表してきた作品に共通するテーマは「祈り」です。大学1、2年生のころに、平和をテーマにドレスをつくったのが始まりでした。広島市には、世界中から送られてきた折り鶴で再生紙をつくる取り組みがあります。その再生紙を譲り受け、膨大な時間をかけて手で撚って糸にし、《祈纏》という一着を編みあげました。
対岸に厳島神社が見える場所で育った経験や、自然の中に神の存在を見いだす日本人的な感覚。それらが制作の根幹にあり、糸を撚るという行為自体が、祈りに通じているのでは、と思っているんです。
祈纏
フランス発のコルベール委員会ジャパンと東京藝術大学が共同で開催していたプロジェクト「コミテコルベールアワード2018」でグランプリを受賞。《祈纏》の英題は《Wearing Prayer》。岡﨑さんいわく「平和への祈り、生きることへの祈りを体現した私の制作活動の原点とも言える作品です」。
コロナ禍では、目に見えない脅威と隣り合わせの日々を過ごしながら、生きることへの祈りについて考えていました。ふと、そんな状況が、自然の猛威を鎮めるために祈りを捧げていた縄文人の生活と重なって見えたんです。
彼らは祭事のために土器をつくり、自然への祈りをその形に込めていました。時代は変わっても、人間は自然の一部で、決してあらがうことはできない。原始の人々がものづくりに込めた念のようなものを、僕は現代で表現したい。そういう想いが、2021年9月に発表したコレクション《000》へとつながっていきました。
000
2021年9月、楽天ファッション・ウィーク東京で発表されたRYUNOSUKEOKAZAKIのデビューコレクション。縄文土器をインスピレーション源とする《JOMONJOMON》、花や昆虫を思わせる造形の《Nature's Contours》という2つのシリーズを披露した。このランウェイをきっかけに翌年、若手ファッションデザイナーの世界的なコンテスト、LVMHプライズのファイナリストに選出。フランス・パリでドレスを紹介する機会を得た。
画像:Shun Komiyama

コレクションで発表しているドレスは、布というメディアを使ってはいるものの、完全に彫刻的なアプローチでつくっています。ボディに対して形を構築していくのですが、人間の関節を増やすような、新しい肢体を生み出しているような、そんな感覚です。ユーザー目線はまったくなく、体と造形の関係そのものに向き合っているんです。
そうした彫刻的なドレスが多かった中、2026年春夏コレクションの《004》では、より一般的なドレスに近い形も生まれました。ストレッチ性のある布にボーン(骨)を一本通すだけで、テントのような広がりが出る。ドレープが重力に従って表情を見せる。その趣をそのまま活かすことで、自然な美しさが表現できたと思っています。
004
2025年9月に発表した、5回目となるコレクション。自然や平和への祈りというテーマは変わらず、ベロアやシアーといった素材を使い、エレガントな表情を生み出した。この《004》と同時に、完全受注生産でのバッグのコレクションも発表。
昨年は、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(以下、V&A)に作品が収蔵されたことも大きな一歩でした。きっかけは、2022年から23年にかけて香港のK11(ケイイレブン)という商業施設で開催された、V&A共同主催の展覧会への参加です。これ以降、毎シーズンのコレクションのルックブックをV&Aに送り続けていたら、担当者がアトリエまで見に来て、「一点つくってほしい」と声をかけてくれたんです。うれしかったですね。
V&Aが所蔵する工芸品でもっとも古いのが、実は縄文土器なんです。収蔵と同時に開催された展覧会「JOMONJOMON」では、その縄文土器と僕のドレスが並べて展示されました。太古の存在と、それに影響を受けた現代の作品。時代が地続きにつながっていることを、示せたような気がしています。さらにV&Aの方々は、広島まで来て映像を撮影してくれたんです。宮島や平和記念公園を訪れながら、僕個人の体験が過去と現在をどう結んでいるかを探究する内容でした。キュレーターがそこまで真剣に向き合ってくれることに、本当に感動しましたね。
JOMONJOMON
2025年9月13日から10月20日までV&Aで開催された展覧会。当時の新作7点が展示され、2025年につくられた《Life and Death》や2024年制作の《Root》《Universe》《Flowers and Insects》などが並んだ。また、当時もっとも新しい作品であった《Sakura》はV&Aの永久収蔵品となった。
造形の面白さでまず惹き込み、そこからコンセプトを語った映像などを見ることで理解を深めてもらう。その順序がすごく大事だと感じています。自然や平和への祈りというメッセージを、表現を通じて伝えていくこと。それを大切にしていますし、これからも変わることはないと思います。
撮影場所:THE MODULE roppongi、クマ財団オフィス
