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INTERVIEW
174
押山清高アニメーション監督、アニメーター Kiyotaka Oshiyama / Animation Director, Animator
Kiyotaka Oshiyama / Animation Director, Animator

『六本木をさまざまな分野のクリエイターが出会い、共創する場に』【前編】

細部を追求するクリエイターほど、これからはAIが支えになる。

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update_2026.01.28 photo_yoshikuni nakagawa / text_shoko ema

2024年に公開された劇場アニメ『ルックバック』。丹念に描き込まれた映像表現が評価され、監督の押山清高さんは一躍、世界的な注目を集める存在となりました。自らも主催として参加する、麻布台ヒルズ ギャラリーで開催中の展覧会『劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情』では、映画とは異なる角度から作品を味わえる仕掛けを施しているといいます。今、業界でもっとも熱い視線が注がれるアニメーターのひとり、押山さんが見つめるアニメーションの未来像とは。これまでの歩みと、「漫画をたくさん描きたい」という意外な本音にも迫りました。

後編はこちら

絵を描く道だけを追い求めて、ここに辿り着いた。

 子どもの頃から、絵を描くのが好きでした。仕事を探すときも、それ以外は頭に浮かばなくて。イラストレーターか、漫画家か、アニメーターか......。当時、地元の福島にはそうした仕事が見つからなかったので、思い切って上京しました。

 東京に出てきたものの、イラストレーターとして働ける会社がわからない、漫画家は一本描き上げて出版社に持ち込むハードルが高い、などいろんな壁がありました。そんな中、やっぱりアニメーターも視野に入れたいと思い、いくつか履歴書を送って、一社だけ内定をもらえたんです。そこからアニメーターとしてのキャリアが始まりました。

独り立ちをしてからは、『借りぐらしのアリエッティ』や『風立ちぬ』などのスタジオジブリ作品をはじめ、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』『鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』などのタイトルに携わってきました。どの経験も、自分の血肉になっていると実感しています。アニメーション制作は、作品が変わると現場もガラリと変わる。僕自身も、一箇所にとどまって同じメンバーでつくり続けてきたわけではありません。さまざまなスタジオ、作品、スタッフと流動的に関わったことで、多くの方の仕事ぶりを間近で見られたのは幸運でした。業界の先人たちが積みあげ、共有されてきた"集合知"を学べたおかげで、ここまで来られたんです。

借りぐらしのアリエッティ

借りぐらしのアリエッティ

スタジオジブリが制作した、2010年劇場公開のアニメーション映画。米林宏昌氏が初めて監督を担当したことでも注目を浴びた。メアリー・ノートン氏の児童文学『床下の小人たち』を原作とし、古い屋敷の床下で、人間の世界から少しずつモノを借りながら両親と暮らしていた14歳の小人・アリエッティと、療養のためにその家で過ごすことになった12歳の翔が織り成す物語を描く。興行収入は90億円を超え、2010年の邦画でトップを記録。第34回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞した。
画像:© 2010 Mary Norton/Keiko Niwa/Studio Ghibli, NDHDMTW

風立ちぬ

風立ちぬ

宮﨑駿氏が原作、脚本、監督を務めた2013年劇場公開のアニメーション映画。幼い頃から空に憧れを抱き飛行機の設計技師になった二郎と、結核を患う菜穂子。ふたりが紡ぐ生と死のストーリーは、高いメッセージ性を持ち、大きな反響を呼んだ。二郎は、零戦設計者で実在の人物である堀越二郎と、同時代に生きた文学者の堀辰雄がモデル。監督やアニメーターとして知られる庵野秀明氏が二郎の声を担当したことでも話題に。第86回米アカデミー賞長編アニメーション映画部門賞にノミネートされた。
画像:© 2013 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMTK

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0.1ミリ以下にもこだわる、その姿に衝撃を受けた。

 アニメーターとして転機となったのは、磯光雄監督のオリジナル作品『電脳コイル』です。当時、磯監督の制作に携わりたくて、自分から売り込みをしました。無事に参加が叶い、いざ現場に入ってみると、驚くことが多かったんです。これまでのアニメーション制作の現場と比べて、紙の上で展開される作品へのこだわりが凄まじかった。

 例えば、監督指示。一般的には、監督は絵が上手く描けなくても務まる仕事で、言葉や簡単なスケッチだけでも指示は成立します。しかし、磯監督は口頭で伝えるだけでなく、キャラクターの表情芝居や動作のニュアンス、デンスケという脇役のペットの動きまで、監督自身が細かく手直しをしていました。アニメーター出身の磯監督だからこそ気付ける線が、そこにはあったんです。顔の角度や視線、表情をつくる眉、口の線など、0.1ミリ単位の線の世界で戦っていて。「すごいな、ここまでこだわるんだ」と、少し狂気を感じるくらいの気迫がありました。

電脳コイル

電脳コイル

磯光雄氏の初監督作で、2007年にNHK教育テレビで放送されたアニメーション作品。眼鏡型のウェアラブルコンピューター"電脳メガネ"が普及した近未来を描く。舞台は電脳都市、大黒市。この市に引っ越してきた小学6年生の小此木優子は、もう一人の"ユウコ"である天沢勇子に出会い、不思議な現象を体験していく。第11回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。
画像:©磯光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

 現在、僕も監督を務めていますが、脚本や絵コンテだけでなく、キャラクターデザインや原画などの絵づくりにもこだわってしまうタイプです。2017年にスタジオドリアンを設立したのも、信頼の置けるアニメーターを集め、少人数のチームでわがままにつくりたいと思ったから。監督としては例外的な存在かもしれませんが、『電脳コイル』やジブリ作品など、すみずみまで目を配る監督のもとで学んだ経験が影響しているのだと思います。

人任せにできない、アニメーターの性がある。

 監督を務めた劇場アニメ『ルックバック』の制作でも、脚本のほか演出や作画も担当しました。本当は、人任せにしたい気持ちもあるんです。アニメーションをつくるのはとても大変ですから。一例を挙げると、キャラクターのまばたきや口パクを、何回も繰り返し描かなければいけません。それでも、どこまでいっても僕は絵を描くのが好きだから、人一倍こだわりが出てしまう。たくさん描いてきたからこそ、絵の趣味嗜好がすごく明確なんです。あがってきた絵の細部に対しても、敏感に反応してしまうというか。ある程度自分で描けるからこそ、アニメーターの仕事まで手を出してしまうんです。

劇場アニメ『ルックバック』

劇場アニメ『ルックバック』

藤本タツキ氏の同名漫画を原作とする、2024年に劇場公開されたアニメーション映画。押山清高氏が監督、脚本、キャラクターデザインを担当し、原画の約5割を自身で描いた。主人公は、画力に自信を持つ小学4年生の藤野。不登校で画才あふれる同級生の京本と出会い、一緒に漫画を描き始める。クリエイターをはじめ多くの人々の共感を呼び、異例のロングラン上映を記録した。第48回日本アカデミー賞で最優秀アニメーション作品賞を受賞。押山氏は「『ルックバック』は、私なりのクリエイター賛歌であり、人間賛歌です」と語る。
画像:© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会

 劇場アニメ『ルックバック』では、『電脳コイル』以降何度もご一緒している熟練アニメーターの井上俊之さんが参加してくれて、だいぶ助けられました。気心の知れたスタッフたちだけでつくることができれば理想ですが、現実は難しい。統括する立場である映画監督や作画監督を務めても、結局どの現場でも僕自身が絵に手を入れ続けています。

 ただ、時間の許す限り絵を直してしまうのも、本望ではありません。やはり、過度な修正はスタッフの意欲を削ぎかねませんから。テレビアニメーションや長編映画の制作には本来、たくさんのスタッフの協力が必要です。それなのに、スタッフに委ねるべきだと頭ではわかっていても、チームでつくることの難しさから、つい自分で手を動かしてしまう。そんな葛藤を抱えながら、監督を続けています。

漫画のように、自分のペースで味わえる展示をつくる。

 劇場アニメ『ルックバック』は、普通だったら数十人のアニメーターが必要なところ、8名程度で絵を描き上げました。1時間程度の映画をこれだけの少人数で完成させられたことに、大きな手応えを感じましたね。

 とはいえ、少ないスタッフでつくり上げる難しさはもちろん、あらためて描くことの大変さを痛感しました。映像をなめらかに見せるために絵の枚数を増やしたり、視覚的なリアルさを追求したりと、必ずしもすべてにおいて高品質なアニメーションを目指す必要はないのかもしれません。劇場アニメ『ルックバック』がそうであったように、少人数には少人数なりのつくり方がある。その制約の中で最適な表現を模索していく。こういったバランス感覚や柔軟性が、これから大切になってくると感じています。

 それと、映像は漫画とは異なり、受け手が没入しやすい時間の流れや音、色といった情報をつくり手が設計します。時間の流れでいえば、映画では監督が「このシーンはこのテンポがベストだ」と一方的に決めてしまうんです。ただし、心地良いと感じる時間は人によってまちまち。「このシーン、もっとゆっくり観たかった」という意見が出てくるのも仕方ないと思うんですよね。それに対して、漫画は読者が自分の好きなペースで読める。しかも、音や色などの足りない情報は、各々の想像で自由に膨らませられるんです。

 麻布台ヒルズで開催中の『劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情』は、映画をいわば漫画を読むかのように楽しめる展示にしています。それぞれのペースで立ち止まり、好きなタイミングで没入できる。そして、僕が伝えたかった表現の意図や制作プロセスに触れられる仕掛けも施しました。つくり手側の視点からも劇場アニメ『ルックバック』をゆっくり味わえる、そんな鑑賞体験だと思っています。

劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情

劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情

2024年に大きな話題を呼んだ劇場アニメ『ルックバック』。制作の背景を知ることができる展覧会が、麻布台ヒルズ ギャラリーで2026年3月29日まで開催されている。原画や制作前のメモ、押山清高氏が描き下ろした漫画、スタジオジブリの鈴木敏夫氏との対談が展示されるほか、名シーンを実物大で再現したフォトスポットなども。押山氏いわく「この展示が『人が絵を描くとは何か』をあらためて問う機会になればと思います」
https://www.azabudai-hills.com/azabudaihillsgallery/sp/lookback-ex/
画像:© 藤本タツキ/集英社 © 2024「ルックバック」製作委員会/©「劇場アニメ ルックバック展」実行委員会

撮影場所:『劇場アニメ ルックバック展 ―押山清高 線の感情』(会場:麻布台ヒルズ ギャラリー 会期:2025年1月16日~3月29日)

後編はこちら

押山清高

押山清高 / アニメーション監督、アニメーター
押山清高 / アニメーション監督、アニメーター

1982年、福島県生まれ。2004年よりアニメーターとして活動を開始。 2006年『電脳コイル』で作画監督を務める。以後、監督・脚本・デザインなど幅広い役割で多数の作品に参加。2017年、アニメーション制作会社スタジオドリアンを設立し、短編『SHISHIGARI』を制作。2024年、監督・脚本・キャラクターデザイン・作画監督・原画を務めた劇場アニメ『ルックバック』を発表。同作は第48回日本アカデミー賞「最優秀アニメーション作品賞」、第34回日本映画批評家大賞「アニメーション作品賞」、第1回アジア芸術映画賞「最優秀アニメーション映画賞」、第75回芸術選奨文部科学大臣新人賞(メディア芸術部門)など国内外で多数受賞。2025年のブランドムービー『赤のキヲク』でも、65th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSフィルム部門Bカテゴリー「ACCゴールド」などを受賞。著書に『作画大全作画添削教室・押山式作画術増補合本 神技作画シリーズ』。

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