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INTERVIEW
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イム・ジビンアーティスト Jibin Im / Artist
Jibin Im / Artist

『無機質なビル街に、バルーンで“移動式美術館”をつくる』【後編】

現代を生きる人を癒す、小さくて温かなアートの力。

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  • NO172 イム・ジビン 『無機質なビル街に、バルーンで“移動式美術館”をつくる』【後編】
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update_2025.10.15 photo_yoshikuni nakagawa / text_shoko ema

ある日、いつも通る道で巨大なクマの風船に出会ったら? そんな驚きと非日常を私たちにもたらしてくれる、アーティストのイム・ジビンさん。“ベアバルーン” と名付けたクマを世界中の街に前触れなく出没させる、《EVERYWHERE》というプロジェクトを展開しています。これまでは都市を中心にこのゲリラアートを実施していましたが、最近は地方にもフィールドを広げているそうです。生きづらさを抱える現代人を捉え、鑑賞者を癒し続ける作品を生み出す理由とは。そのクリエイティビティの源を探ります。

前編はこちら

都心からローカルへプロジェクトの舞台を移す。

 海外へ《EVERYWHERE》プロジェクトをしに行くとき、ホテルにはほとんど泊まらず、Airbnbを使って個人宅などに宿泊することが多いです。ホストにローカルに根付く文化を聞いたり、地元の人だけが知っているスポットを案内してもらったりなど、その土地のことを知るためです。

 2016年、ホストに教えてもらったベトナム・ハノイの再開発地域でインスタレーションをしようと、いつものようにベアバルーンを設置していたら、私の周りを二人の子どもが何度も行ったり来たりし始めたんです。興味津々な様子だったので「このクマと遊んでもいいよ」と声をかけたら、そこから1時間くらいベアバルーンを触ったり叩いたりしながら楽しんでくれて。今でも二人の幸せそうな顔が目に浮かびます。忘れられない思い出ができました。

 このハノイでのことがきっかけで、もっとたくさんの子どもにこのプロジェクトを届けたいと思いました。それまでは世界中の都市を巡って多くの人に見てもらうことが目標でしたが、特に子どもたちに、私の作品でもっと遊んでほしい、もっと喜んでほしいという気持ちが芽生えたんです。その後、モンゴルに訪問する機会があり、いつか移動式遊園地をつくりたいと考えるようになりました。バルーン素材は空気を抜けばコンパクトになるので、持ち運びにぴったりだと思いませんか。遊び場が毎日のように別の土地へ移っていき、いろんな子どもが楽しめる。そんな企画を構想中です。 現在、ユニセフ韓国と子どもたちのためのキャンペーンを進めています。アフリカや僻地へボランティアに行く際に、移動式の遊び場を共に持っていくことを考えています。

公共空間のアートは街に"癒し"を与える。

 大きなアート作品があるだけで、安らぎやくつろぎが街なかに生まれることがある。だから私はパブリックアートも大好きなんです。自分自身、旅行中はほっとするためにパブリックアートを探します。ビルなどの冷たい景観に囲まれていても、人肌を感じる作品が佇んでいれば精神的な癒しになると思うんです。

 街なかではありませんが、最近見て心を動かされたのは、スウェーデンにあるショーン島のピレーン彫刻公園に置かれている《ANNA》です。スペイン出身の彫刻家であるジャウメ・プレンサが制作したとても大きな女性の頭像で、14メートルくらいの高さがある 。作品の前に立つと、芸術と自然が調和する光景を堪能できました。周りもみんなじっくりと鑑賞していて、多くの人が同時に何かを考えている様子がとても素敵なことだと感じて、こういう状況では、作家のメッセージももはや重要でなくなる気さえします。

《ANNA》

《ANNA》

スペイン・バルセロナ出身の彫刻家ジャウメ・プレンサによる作品。遺跡や現代美術、自然などを楽しめるピレーン彫刻公園に設置されている。ポリエステル樹脂と大理石の粉末を使って制作され、モデルとなった実在する若い女性の名前がそのまま作品名となっている。
画像: Jaume Plensa
ANNA, 2015
Polyester resin and marble dust - 1400 x 430 x 570 cm - Collection Sculpture i Pilane, Klövedal, Sweden
Photos: Laura Medina @ Plensa Studio Barcelona - courtesy Galerie Lelong, Paris

 今回、「六本木アートナイト2025」でも初めて作品を披露したのですが、訪れるみなさんが自由に思いを巡らせる場所にしたいという気持ちを込めました。発表作品は、《Space in LOVE》と《あなたは一人じゃない》の2シリーズです。《Space in LOVE》はベアバルーンの目元に英単語を書いたもの。目は"心の窓"とも言われます。そこにメッセージを入れることで、直感的に希望を伝えるアートにしました。「六本木アートナイト」にようこそという意味で「HELLO」と、楽しんでほしいといった気持ちを込めて「JOY」の語が入った2つを選びました。

六本木アートナイト2025

六本木アートナイト2025

2025年9月26日(金)~28日(日)に開催された芸術の祭典。六本木の美術館や文化施設、大型複合施設、商店街などを舞台にし、街を巡ること自体がアート体験となるユニークな取り組みを展開。今年で14回目を迎え、およそ30組のアーティストによる、50を超えるインスタレーションやパフォーマンスなどのプログラムが実施された。
画像:©六本木アートナイト実行委員会

《Space in LOVE》

《Space in LOVE》

ベアバルーンの目元の単語で前向きな気持ちを伝える、ジビンさんの代表的なシリーズ。単語に縛りはなく「LOVE」「PEACE」「HOPE」「HAPPY」「HEART」「JOY」など多種多様。クマも色とりどりに彩られ、過去にはストライプ柄やドット柄のキャラクターも登場した。

 《あなたは一人じゃない》では、白いクマと黒いクマが抱き合っています。この作品は、2018年の平昌パラリンピックの特別展でも展示しました。2色のクマは、互いに異なる状況に置かれている二つの存在を示しています。人種の違う二人かもしれないし、障がいを持つ人とそうでない人かもしれない。人間は相手との差異を理解し、支え合って生きていけると表現したかったのです。作品が無言で伝える「あなたは一人ではありません」というメッセージが、誰かの癒しになれば嬉しく思います。

《あなたは一人じゃない》

《あなたは一人じゃない》

作品名の原題は《You're Not Alone》。今回の「六本木アートナイト2025」ではベアバルーンが展示されたが、シリーズの中にはプラスチックで作られた作品も。よく見ると、抱き合っているだけでなく、お互いの頬が触れて少し潰れているのも愛らしい印象。

ある日突然、ビル街が緑であふれたら。

 六本木は、洗練された都市像と芸術的な実験精神が同時に息づく街だと感じました。パブリックアートなど、芸術が街に自然に溶け込んでいて、美術館などのアイコニックな文化的施設があるのも印象的です。「六本木アートナイト」は、特別な空間に閉じ込められない芸術のあり方を目指すものだと思います。私も、街角や広場で多くの人が偶然アートに出会えるようにしたいと考えて制作してきました。

 先ほどの移動式遊園地の発想を転換して、六本木では「移動式美術館」が面白いかもしれませんね。それも、緑のある美術館です。このエリアには公園や庭園もありますが、「六本木」と聞いて私が最初に思い起こすのはいくつもの大きな交差点。その周りにはビルがぎっしりと入り組んで建っている。そういった無機的なコンクリートジャングルの中に、木や植物など生命を象徴するバルーンが突然現れる、そんなインスタレーションに挑戦してみたいですね。都市のまん中が一時的に緑地へと変わり、そばを通った人々がリフレッシュできる場所になるといい。あえて通勤ラッシュ時など、人が忙しく行き交うタイミングで試すのがおもしろそうです。

 この小さな緑地のある美術館のアイデアは、自分のアトリエから見える景色から思いつきました。私は韓国の第二の都市といわれる釜山で生まれ育ったのですが、緑が少ない街なんです。一方、現在拠点としているソウルのアトリエの窓からは山がよく見えて、いつもその光景に心がほぐされるんです。自然がくれる癒しはすごいと日々実感しています。

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現代に必要なのは"小さくて温かい芸術"。

 先日、デンマーク・コペンハーゲンを訪れました。道を歩いていると、みんなが思い思いに自然体で過ごしている。談笑したり、自転車に乗ったり、走って運動したりと、当たり前の光景かもしれませんが、飾らずに日常を過ごす姿に惹かれました。都市全体にゆったりした時間が流れているような感覚さえして。そんな雰囲気のおかげで私も自ずと気分が明るくなりました。

 最近、身近で人生の意味や方向性を再考している人が多いんです。世の中が閉鎖的になったコロナのパンデミックからそういうムードがぐっと高まった気がします。SNSをはじめ外部的なストレスが非常に多くてみんな疲れているし、自分らしく過ごせる生活のバランスを掴もうと努力している。

 私はアートで多くの人に肯定的なメッセージを送りたいと思っています。忙しい毎日の中でふと笑顔になったり、辛い気持ちに寄り添ったりするものをつくりたい。今は、そうした小さくて温かな芸術が必要な時代だと考えます。

撮影場所:『六本木アートナイト2025 イム・ジビン作品《JOY》、《HELLO》』(会場:東京ミッドタウン ガレリアB1F、プラザ1F / 会期:2025年9月26日~28日)

取材を終えて......
「一ヵ月半ほど北欧に滞在する予定で、今はノルウェーにいます」と、画面越しのジビンさん。《EVERYWHERE》プロジェクトで世界中を飛び回っているため、リモートでのインタビューとなった今回。背景に広がる雄大な自然の景色に癒されながらの取材となりました。街中でゲリラアートをするという大胆なプロジェクトをされていますが、ジビンさん自身はとても柔和な雰囲気。小さくて温かな芸術が必要という言葉からは、生来の優しさを感じました。「六本木アートナイト2025」以降も、さらなる活躍を期待せずにいられません。いつか世界の片隅で、ベアバルーンと偶然出会えることを楽しみにしています。(text_shoko ema)

前編はこちら

イム・ジビン

イム・ジビン / アーティスト
イム・ジビン / アーティスト

1984年生まれ、釜山出身のイム・ジビンは、2009年に上海現代美術館(Shanghai MOCA)で開催された「Animamix Biennial」でデビューした後、ソウルを拠点に活動している。2011年からソウルで開始した公共アートプロジェクト《EVERYWHERE》は、現在までにアジア、北米、ヨーロッパ、中東など50を超える都市で展開され、都市における公共アートの新たな可能性を提示している。ソウル美術館、大邱美術館、アブダビ・マナラト・アル・サアディヤット美術館など多数の美術館や、ユネスコ、国連財団、ユニセフ、2018平昌冬季オリンピック・パラリンピックなどの公共機関をはじめ、グッチ、コカ・コーラ、ナイキ、サムスンなどの多様なグローバルブランドとのコラボレーションを通じて、芸術の社会的役割を拡大し続けている。

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