TOUR REPORT

第14回六本木デザイン&アートツアー 五十嵐久枝氏と巡る六本木インテリアショップツアー

第14回六本木デザイン&アートツアー 五十嵐久枝氏と巡る六本木インテリアショップツアー

飛騨の家具館での解説はまだまだ続きます。たくさんの家具が並ぶ中には、五十嵐さんがデザインを手がけたものもありました。そのコンセプトや素材について、実際に手掛けた作品を見ながら、じっくり語っていただきました。

木目をコントロールして調和を生み出す、五十嵐さんのデザイン。

「こちらは私がデザインした『バゲットライフ』というシリーズ。本来なら廃材としてしまう、ナラの端材を集成してつくった家具です。ナラ材の木色を、白と茶、その中間色の3つに色分けしてから集成しています。美しい木目をもう一度人間の手でつくろうというのがこの家具、素材を長く生かすという意味を込めて『ライフ』と名付けました」

「部屋って、四角い形が多いですよね。インテリアプランも四角に合わせたものになります。そこに変化を生み出すためには、こういう変形したテーブルが効果的です。丸いラインや変形のデザインを入れると、部屋の雰囲気が一変します。とくに、テーブルは視覚的に認知しやすい高さなので効果が高い。そういう意味で、私はテーブルのデザインにかなりの可能性を感じています」

「私がデザインしたもうひとつの家具は、まだ製品化されていない新作。これはウォールナットを使った椅子です。普通、ウォールナットの家具というと均一に茶色のものが多いのですが、この家具では、白い部分や大胆な模様など、木の自然な表情をあえて生かしています。それでいてありのままというわけではなく、座面のだいたい同じ位置に、同じような模様がくるようにコントロールしている。ちなみにウォールナットは高騰を続けているので、欲しい方は早めに買ったほうがいいですよ(笑)」

「こちらのソファは、背とひじのクッションを外すと、ベッドにもなります。もともと日本は畳の文化ですから、日本人は足を上げるとリラックスします。畳の部屋が少なくなってきて、ソファが小上がりの役割を果たすといいなと思ってつくりました。使い勝手、手ざわり、そして見た目。この3つのバランスが、暮らしのデザインにおいては譲れない部分かと思います。では、ツアーはここまで。最後に質問があれば、ぜひ何でも聞いてくださいね」

デザインは言葉じゃない。だから実際の感覚を大切にする。

――デザインするときに参考にしている雑誌や書籍はありますか?

「私は、リサーチをするときには実際に見に行くことが多いです。説明文を頼りにするよりも、直感的に感じることを大切にしています。デザイナーとしては、言葉ではなく、見た目や造形で何が伝えられるかを知りたいですから。ホテルや公共の場でも、椅子に座ったり壁にさわったり、そんなことをしょっちゅうやっています。もちろん雑誌やネットから情報を得ることもありますが、そこで終わらせないことが大事ですね。行動につなげないと、引き出しは深くならないと思います」

――変形の家具をデザインするときには、どうやって形を決めるんですか?

「かなりの数のスケッチをします。その中で、しっくりきた形をコンピュータで再現します。私、図面化することが大好きなので、数値化して、それで納得してからクライアントにお出しします。とはいえ、実物を使ってみてはじめて気づくことも多いもの。だから模型も大切ですし、それ以前の段階の迷いを整理するにはCGも役立ちますね」

「今日は、六本木未来会議という都市や未来をテーマにしたウェブサイトのツアーですが、自然の話が多くなってしまいました。でも、今のインテリアのトレンドは、ヴィヴィッドな色よりもナチュラルなアースカラーが主流。木の家具の人気が高いのも相変わらずの傾向です。移動中も木に囲まれて、みなさんをお散歩に連れ回してしまいましたね(笑)。今日はもう少しここにいますので、このあとも、みなさんとお話ができればと思います」

プロのものづくりは、異なる領域の仕事も刺激する

ツアー終了後、参加者の方にお話を聞きました。ふだんはウェブディレクターをしているという男性の参加者は、リアルなものづくりから学ぶことが仕事に役立つ場合も多いのだそう。

「どんな課題があって、どう解決したかというプロセスに興味があります。たとえば、リビング・モティーフの抜けを大切にしたインテリアは、お客さんが商品にフォーカスしやすくしたいという意図もあるのかもしれない。飛騨の家具館でも、素材からアプローチするものづくりの方法を知ることができて、新鮮に感じました」

ツアー後も五十嵐さんと話し込んでいたこちらのおふたりは、ともにインテリアデザイナー。五十嵐さんいわく「同業者として悩みを聞いていました」とのこと。

「木目まで計算しているなんて、実際にデザインをした方に話を聞かないとわからないこと。自分だけで見ていると勝手な解釈をしてしまいますが、五十嵐さんのお話を聞きながらだと、デザインのコンセプトが明確にわかって勉強になりました」

「工場や大工さんとのつながり、素材の調達などもすべて含めてインテリアデザインなんだって、あらためて気づきました。会社で仕事だけをしているとデザインが固まってしまうので、今日はとても刺激になりました。五十嵐さん、どうもありがとうございました」

 

五十嵐久枝(いがらし・ひさえ)
東京都生まれ。桑沢デザイン研究所インテリア・住宅研究科卒業。1986~91年クラマタデザイン事務所勤務。1993年イガラシデザインスタジオ設立。商業から様々な空間デザイン・インスタレーション・家具デザインを中心に、プロダクト・幼児施設遊具など、携わる領域は「衣・食・住・育」に渡る。
グッドデザイン賞審査委員、武蔵野美術大学教授。
主な仕事に、TSUMORI CHISATO、une nana cool、LuncHのインテリアデザイン、TANGO、baguette、baguette life、おいしいキッチンの家具デザインなど。